スニーカーブーム再来 女性のコーデ主役級
スニーカーブームが再来している。小売店では前回の1990年代後半を上回る売れ行きで、出店ラッシュも続く。当時は男性の主戦場だったが、今回市場をけん引するのは20~40代の女性たち。スカートに合わせたり職場でも着用したり、今やファッションアイテムの主役だ。スニーカー市場圏の広がりに迫った。
親子おそろい、広がる市場
「男女比が逆転した」。14年のスニーカーの国内売上高が前年比8割増を記録した「オニツカタイガー」。12年には男女の売り上げシェアが7対3だったが、現在は女性が5割を上回る。市場の流れを塗り替えた"オニツカショック"。アシックスジャパンの庄田良二・ライフスタイル事業部長は感慨深げに話す。
スニーカー人気が続いている。ABCマートの15年2月期の売上高は前期比14%増。中でもスポーツシューズが23%増とけん引する。「女子の本格参入が起こった」。今回のブームに対してメーカーも小売りも口をそろえる。主役は20~40代の女性だ。伊勢丹新宿本店(東京・新宿)の婦人靴売り場でも、約2年前からスニーカーが売れ続け、14年10月~15年3月の売上高も前年同期比23%増えた。
「ずっとヒール派だったんですが、軽くてラクだし、ごつくないかわいいスニーカーもあるんだと知って愛用している」。女性らしい白いシフォン素材のスカートに昨年購入したナイキのスニーカーを履く斎藤克衣さん(28)は話す。佐藤宏美さん(33)も「どんな格好も気取らない雰囲気になる。最近は仕事中も履いている」とスカートとシャツに合わせる。
前回のブームは90年代後半。米プロバスケットボールのマイケル・ジョーダン選手や大リーガーの野茂英雄投手のシューズモデルに魅了された男性たちが流行をけん引した。その後も時折人気モデルは誕生したが「これまでは一部のコアな層が掘り下げるブームだった」(アディダスジャパンの芦田雄次マーケティングマネージャー)。
潮目が変わってきたのが、09年ころのランニングブーム。その後、東日本大震災を契機に歩きやすい靴に注目が集まり「女性がスニーカーに対して徐々に慣れ、下地が整っていた」(靴の専門紙「シューズポスト」の井上晴弘事業部長)。
そんな中、女性支持の高いタレントがワンピースなど、これまでスニーカーを合わせることのなかったコーディネートで「ニューバランス」を着用。ネット上で話題となり、ニューバランスがメガヒットになったのが今回のブームを呼んだ。
シューズポストによると、14年のスポーツシューズの小売市場規模は2800億円と、90年代後半を上回った。「女性の間でもブームから定着のフェーズに入ってきた」(井上事業部長)
女性たちの心を捉えた理由はいくつかある。
(1)肩の力を抜いたファッションの流行。
「数年前から『セリーヌ』などの海外ブランドも女性らしい装いにスリッポンやスニーカーを提案。リラックスしたスタイルが主流になった」(三越伊勢丹の松村佳美バイヤー)。ユナイテッドアローズの沼田真親クリエイティブディレクターは「体を動かすことがおしゃれという意識が生まれるなど、ファッションが外見だけでなく、心や体の充足感も含めての価値観に変わった」と話す。
(2)履き心地の良さ。
今はファッションとして楽しまれているが、元は競技用に作られたものが大半で一度履くとやみつきになる。好調なABCマートだが、レディースシューズの売上高は前期比0.8%減。つらいハイヒールを脱ぎ捨てスニーカーに履き替えた。
(3)手ごろな価格に、選ぶ楽しさ。
伊勢丹ではボリューム層のスニーカーの中心価格は1万円前後に対して、パンプスは1万7000円~1万9000円。アパレルやパンプスなどでは同質化が進んでブランドの独自色が薄れる一方、スニーカーはロゴが入り「ブランドごとに個性があって選ぶのも楽しい」(33歳の女性会社員)。
「当初はこんな大きい店がいるのかと反対された」――。オニツカタイガーが12年に表参道に開店した旗艦店は、1ブランドのスニーカーだけで300平方メートルと異例の大きさ。女性開拓を重視し、指揮を執った庄田部長はふり返る。
機能やうんちくがふんだんなスニーカーはスペック重視の男性が好む商材。「女性の場合は見た目から入るケースが多い。全体を見て買いたいという声も多い。世界観を見せる必要があると踏み切った」。庄田部長は高級ブランド出身だ。ゆったりとした作りの店内にはオブジェのようにスニーカーを飾るスペースもあり、今では週に6千人が訪れる。
「子どもも一緒だとみんなでおそろいも恥ずかしくないです」。加藤真帆さん(32)は家族でおそろいのスニーカーだ。今、ブームは女性から子どもにも拡大中。スニーカーに合わせる靴下やバックパックも好調だ。
原宿で激戦 銀座にも出店
「こんなに並んでいるとは……」。4月25日午前10時。東京・銀座にこの日オープン予定のスニーカーのセレクトショップ「アトモス」の前には200人以上が並んでいた。ナイキの「エアマックス」の限定モデルを狙っていた会社員の小畠健太郎さん(28)は行列を前に驚く。
15年前に裏原宿でスタートしたアトモスが、銀座3丁目の路面店で勝負に出た。「女性や30代以上にも広がってきた。渋谷や原宿では買いづらいという需要を取り込む」。運営するテクストトレーディングカンパニー(東京・渋谷)の佐藤祐一部長は話す。
店内には壁一面に10~15ブランドの旬のスニーカーがずらり。「ファッションとして取り入れる人が徐々に増えている」(佐藤部長)と、同店では街履き用だけでなく競技用のシューズも扱う。「アトモスに来れば格好いいものがあるし、次にきそうなものが分かる」(男子大学生、20)
スニーカーショップの出店が相次いでいる。同社は14年以降、全国に8店を出店。特に激戦区となっているのが渋谷・原宿エリアで、今春にはアディダスやオニツカが直営店を出し、昨年以降10店以上増えた。
4月29日、東京・原宿にまた1店、スニーカー店が開店した。その名も「ビリーズエント」。味のある木目調の棚にスニーカーを美しく展示。壁やレジ周りにはモダンな絵が何枚も飾られる。
このおしゃれな店、実は手がけているのはABCマートだ。14年から出店を始めたが、ABCマート色をあえて消す。単価を上げ、従来取り切れていない層を狙う。
「欠品をなくせ」――。チヨダは5月、商品部や営業部から独立し、社長直轄の組織「スニーカーグローバルブランド統括グループ」を新設した。ナイキやアディダスなど9ブランドについては、従来地区ごとにバイヤーが担当していた仕入れから販売を本部主導に切り替えた。「好調の波に乗らない手はない。組織見直しで売れ筋を手厚く仕入れられる」(経営企画室の井上裕一郎課長)
アパレルもスニーカー対応に動く。若い女性に人気の「スナイデル」などを展開するマッシュホールディングスが3月に立ち上げた「エミ」は「スニーカーに合うファッション」がテーマの新ブランドだ。売り場の4割をスニーカーが占め、パンツやスカートの丈はスニーカーを履いたときに美しく見えるようデザインされている。
ユナイテッドアローズが昨年9月に立ち上げた「アンルート」も、モードなファッションとスポーツウエアを共存させた売り場で、独自にセレクトしたスニーカーが並ぶ。「スポーツ用品店だとハードルが高いが、ファッションの買い物のついでにならと購入する人が増えている」(沼田クリエイティブディレクター)
ファッションアイテムにとどまらず、ファッションそのものを引っ張り始めたスニーカー。色あせたブランドが再生し、人気ブランドはさらに輝きを増す。売り場、品ぞろえはさらに広がりそうで、ブーム長期化へ足取りも軽くなっている。(井土聡子)
[日経MJ2015年5月20日付]
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