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囲碁・将棋

将棋の電王戦、純粋な開発者たち(ルポ迫真)

2015/5/5

 「30勝120敗か。センスの悪い改造だったなあ」。4月中旬のある朝、将棋ソフト「ponanza(ポナンザ)」の開発者でフリーのプログラマー、山本一成(29)は悲惨な数字に苦笑するしかなかった。

ポナンザ開発者の山本氏は和服で電王戦の対局に臨んだ(4月4日、奈良市の薬師寺)

 山本の朝はパソコンを確認することから始まる。寝ている間にも「古いポナンザ」とプログラムに手を加えた「新しいポナンザ」が延々と対局を繰り返す。新しいポナンザが勝ち越していれば改造が成功してソフトが強くなったことを意味するが、勝率が6割を超えるのは年に数えるほどだ。

 ポナンザは将棋ソフトのトップランナー。4月4日の電王戦第4局で七段の村山慈明(30)を圧倒した。山本はさらに強くしようと地道な改良を毎日続ける。妻と二人暮らしのマンションの電気代は月3万円を超す。

 将棋ソフト開発は、多くの開発者にとって仕事ではない。報酬も約束されてはいない。東京大大学院を出た山本。他のプログラムをつくれば、現在の何倍もの収入が得られるだろう。それでも、ポナンザを鍛え続けるのは、目標とする王座・羽生善治(44)を超えたいからだ。

 2014年11月、さいたま市のさいたまスーパーアリーナ。電王戦出場ソフトを決める大会で優勝候補筆頭ポナンザを破ったのが第5局を戦った「AWAKE(アウェイク)」だ。開発者は会社員の巨瀬亮一(27)。かつてプロ棋士を目指し、棋士の養成機関にも在籍していた。

 将棋ソフト開発に傾注した理由は「プロの棋力向上に貢献する」ためだ。だが、本番でソフトが力を発揮することはなかった。対戦相手の八段、阿久津主税(32)の誘いに乗ってしまう。勝ち目なしとみた巨瀬はソフトの判断ではなく自らの意志で投了。「悪い手を引き出して勝つのはソフトを使う上で何の意味もない」。対局後の記者会見で巨瀬は阿久津を批判した。

 勝ちにこだわるか、ファンを魅了する勝負を見せるか。プロとして阿久津にも葛藤はあった。「団体戦でもあり、最も勝算の高い形を選ぶべきだ」。対局2週間前の決断だった。

 電王戦で「面白い将棋を指すことがプロの存在意義を示すことになる」と巨瀬は期待していた。「理想と現実のギャップ」が批判につながった。純粋な開発者と、負けが許されないプロ棋士はかみ合わなかった。巨瀬は今も「棋士とコンピューターが互いの存在意義を高めあう」世界を夢見る。(敬称略)

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