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将棋電王戦、人間初の勝ち越し 勝負の価値観揺さぶる

2015/4/14

 コンピューター将棋ソフト5種とプロ棋士5人が戦う「将棋電王戦」で、プロ棋士が初めて勝ち越した。人間同士の勝負とは全く異質な戦いは、将棋に対する価値観を揺さぶった。

 11日に終わった今回の電王戦では、観戦者から様々な批判も聞こえてきた。

コンピューターソフト「AWAKE」に勝利し、インタビューを受ける阿久津八段(11日午前、東京都渋谷区の将棋会館)

 「みっともない」「棋譜汚しだ」。第1局、終盤で勝ち目がなくなったソフト「Apery」が、“無駄な”王手を延々と続けた際に聞かれた声だ。

 プロ棋士に対し「ひきょうだ」との意見も出たのは第2局。永瀬拓矢六段が勝勢の局面で成れる角をわざと成らずにソフトのバグを誘発し、勝利した。

 「アマチュアの指したハメ形を使うというのは、(観戦者を魅了するという)プロの存在意義を脅かすことになるのではないか」。第5局、わずか21手で敗れたソフト「AWAKE」の開発者、巨瀬亮一氏は対戦した阿久津主税八段に対し記者会見の場で疑問を呈した。巨瀬氏は、かつてプロ棋士を目指した元奨励会員だ。

■若い棋士が団結

 3月14日から京都、高知、函館、奈良、東京と転戦した今回の電王戦。各地の控室で、日本将棋連盟の担当理事である片上大輔六段をはじめ、様々な棋士から何度も聞いた言葉がある。

 「だってこれは電王戦だから」

 相手はコンピューターだから、人間同士の勝負における美意識や礼儀を求めても仕方ない。「入玉」のような、コンピューターが苦手とする展開に誘導するのも戦術の一つとして当たり前――。

 コンピューターは人間と全く異質の存在であり、コンピューターとの勝負は人間同士のそれとは完全に別物だ。5人の出場者をはじめ電王戦に関わった棋士たちは、そのことを十二分に理解していた。その理解こそが、棋士側に初めての勝ち越しをもたらした。

 冒頭にあげた批判の多くは、人間同士の勝負における価値観に基づいたものではなかったか。

一堂に会した出場棋士とソフト開発者(11日、東京都渋谷区)

 過去2年の団体戦で敗れ追い詰められた棋士たちは、勝つしかなかった。将棋連盟は今年の出場者5人を選ぶ際、「強いこと」だけでなく「若いこと」を基準にした。コンピューターになじみがあり、ソフトを十分に研究できると見込んだのが今回の5人だった。

 5人の棋士は定期的に勉強会を開き、ソフトの特性について情報を共有してきた。ソフトに詳しい西尾明六段や千田翔太五段、阿部光瑠五段らからアドバイス、情報提供を受けるなど、チーム戦としての色合いもかつてないほど濃くなっていた。開幕前、将棋連盟のプロデューサーとして出場棋士をサポートしてきた遠山雄亮五段は「これ以上は無理というくらい、今年はいい準備ができていると思います」と話していた。

■知恵と工夫で対抗

 初めて負け越したとはいえ、今回のソフトが弱かったということではない。第2局で勝った永瀬六段は終局後、「練習対局での勝率は1割程度」だったと明かした。第4局の村山慈明七段も練習対局の勝率は「1割あったかどうか」。第3、4局は準備段階の予想を外された棋士側の完敗だった。

 電王戦の規定では、棋士が対戦ソフトを事前に借り受け、練習を積んだ上で本番に臨む。その意味で電王戦とは「ソフトと人のどちらが強いかを決める舞台」ではなく、「強大なソフトに人が知恵と工夫で対抗できるかを示す場」だったといえる。

 5対5の現行形式で行われる勝負は今回が最後となった。若手精鋭たちを9割圧倒するほどに成長した将棋ソフト。予想勝率1割でも「本番でその1割を引くことは可能だと思っていた」(永瀬六段)という恐るべき勝負強さを見せたプロ棋士たち。人間とコンピューター、それぞれがまったく質の違う強さを見せつけて見る者の価値観を揺さぶり、電王戦はひとまず幕を閉じた。

(文化部 柏崎海一郎)

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