マネー研究所

カリスマの直言

異次元緩和がもたらす弊害(渋沢健) コモンズ投信会長

2015/4/12

 

「日銀の株式購入は将来的なリスクが無視できない」

日経平均株価が先週、一時2万円の大台を回復した。その原動力の1つとなったのが日本銀行の「異なる次元」の量的金融緩和による株式買いであったことは疑いない。だが、こうした日銀の行動は長い目で見て大きなリスクになり得る。

 思い出されるのが1990年代終盤の日本の金融危機の前夜。私は某大手ヘッジファンドの東京事務所の代表を務めていた。本社から来日していた同僚と一緒に訪問先のビルから歩道へ出たときに、彼が目を丸くして声を上げた。

 「That’s Unbelievable! 信じられない。日本の銀行は自己資本と比べて3倍の現物株式を保有しているとは。それも、ヘッジなしで。ヘッジファンドでも、そんなリスクは取らないぞ」と。株式持ち合いという当時の日本の常識は、元同僚の目には自己資本対比の資産リスクを軽視する異なる次元の風景に見えた。

 その後、日本では「ありえない」と言われ続けられていたことが実際に起こってしまった。銀行が破たんしたのだ。当時から10年ぐらい前の80年代には「アメリカでは銀行が潰れるなんて信じられない」と高笑いしていた日本の常識が粉々と崩れ落ちていった……

 あの時に、元同僚と交わした会話にフラッシュバックした理由は、最近、目に留まった新聞記事であった。日本銀行の保有株は時価評価ベースでは10兆円を超え、自己資本の2.8兆円と比べると3倍以上の水準になっているという内容だった。金融緩和の手段として日銀は国債だけではなく、株式やJ―REIT(不動産投資信託)まで買い入れているため、現在でもアンビリーバブルなことが起こっているのだ。

 記事のように、「日銀が相場の下支え役となっていることで、投資家の安心感がある」と評価する声が少なくないかもしれない。ただ、私は逆に不安がジワジワと増してきた。

 足元の緊急措置の場合、過去の成功体験にもとづいた原理原則にとらわれる必要はない。しかし、経済社会の持続性の側面から、国の中央銀行が、その国の株式市場の2番目に大きな投資家になっている状態は、異次元だけではなく、不健全なことではなかろうか。

近年、欧州系のMBAプログラムとして台頭しているIESE(バルセロナ)のジョーディ・カナルス学長と北東アジア事業開発ディレクターの加賀谷順一さん。先月の日本同窓会で講演の機会をいただいた。

 欧米の中央銀行も前代未聞の量的金融緩和を実施している。しかし、彼らは「質的」な側面では株式を買い入れることはしていない。中央銀行による「金融政策」とは物価の安定という役目であり、「金融システムの安定確保」という役目と線引きしているように見える。

 中央銀行が有価証券を金融機関から購入して支払う代金によって経済社会へのお金の供給が増えて、投資や消費を促すことが間接的に物価に影響を与える。これが、量的な金融政策の狙いだ。もちろん中央銀行が生産財や消費財を買い占めて、直接に物価に影響を与えるようなことはしない。

 しかし、中央銀行が金融機関から買い入れる有価証券の対象を株式まで広めると、間接的に物価ではなく、直接的に「株価」に影響を与えることは明らかだ。つまり、民の価格形成に官が操作しかねないリスク(不確実性)は無視できない。また、債券と異なり、株式の保有者は議決権を行使できる当事者だ。このように、官製市場、国家資本主義への種をまくことが金融政策の役目ではないはずだ。

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