目が疲れると充血するのはどうして? 老眼の影響も
ふと鏡に目を向けた時、白眼が真っ赤に充血していて驚いたことはないだろうか。顔を近づけてのぞき込むと、白眼の中をうねうね走る赤い血管が浮かんで見えたりして、さらにギョッとすることも。出血? 何かの病気?などと心配になる人もいるかもしれない。
「白眼が赤くなるのは、多くの場合、結膜充血。なんらかの原因で結膜の中の血管が太くなった状態です」。こう話すのは、日本医科大学大学院眼科教授の高橋浩氏だ。今回は高橋さんのガイドで、充血のしくみをひもといていこう。
「結膜」とは、白眼の表面を覆う膜のこと。まぶたの奥で折り返し、まぶたの裏側につながっている。
結膜の中には無数の血管が走っている。細い血管なので普段は見えないが、目が疲れたときなどには、血流量を増やして疲労回復を進めるべく、血管が太くなる。すると、白眼の中の血管が、肉眼でもくっきり見えるようになる。これが結膜充血だ。
なるほど。血管の太さって、そんなに変化するものなのか。
「血管が太くなる原因は、疲れ目以外にもあります。病気のサインのこともあるので注意が必要です」(高橋氏)
感染、アレルギーによる充血は目の炎症
結膜の充血を起こす主な原因は3つあると、高橋氏はいう。
(1)感染
(2)アレルギー
(3)目の疲労など
(1)では、ウイルス性結膜炎に感染して充血に至るケースが多い。「いわゆる"はやり目"と呼ばれる感染症で、プールで移りやすい夏の病気と思われがちですが、実際は1年中見られます」(高橋氏)。この病気は感染力が強く、子供から高齢者まで、誰にでも起きる。目やにや目のかゆみ、痛みなどを伴うことが多い。
(2)アレルギーが充血の原因となる場合は、今の季節の花粉症が代表的。だが、ハウスダストやダニが原因の場合は1年を通して発症する。こちらもしばしば、目のかゆみなどを伴う。
この2つのケースでは、目の「炎症反応」によって充血する。「どちらもよくある病気で、だれにでも発症します。発症の初期は目やになどの随伴症状が弱いことも多く、その場合、区別するのがかなり難しいです」(高橋氏)。
このため、たとえば例年花粉症で目が赤くなる人が、たまたま今ごろの時期にウイルス性の結膜炎になったりすると、少し面倒なことになる。
「本人は『花粉症だ』と思い込んでいるので、いつものアレルギー用点眼薬を使う。でも、どうもすっきりしないなどと思っているうちに、結膜炎がひどくなったり、家族などにはやり目を移してしまうといったケースがときおりあります」(高橋氏)
花粉症と細菌感染の混同に注意
ウイルス性結膜炎の場合、細菌感染による重症化を防ぐなど、アレルギーとは違う治療が必要だ。また人に移さないために、「学校や職場に行かない」「タオルなどを家族と分ける」といった対応も重要。眼科でウイルス性結膜炎と診断されれば、眼科医がそういった情報を伝えてくれる。
そういう対策が、花粉症と混同してしまうと遅れやすいというわけだ。
「はじめから見分けるのは難しいですが、目やにや目の痛みなど、"例年とは違う症状"が出てきた場合は、花粉症と決めつけずになるべく早く眼科を受診してください」(高橋氏)
もちろん、花粉症、ウイルス性結膜炎ともに、だれでも発症しうる病気だ。去年まで花粉症ではなかった人も注意しよう。
また、強膜炎やぶどう膜炎といったより深刻な病気でも、素人目には結膜炎と区別しにくい充血が起きることがある。この場合はたいてい、目の痛みや視野全体がかすむなど、充血以外の症状が強く出るので、そんなときはすぐに眼科を受診しよう。
ちなみにアレルギーによる充血の場合、症状を抑える最も確実な方法は、花粉などアレルギー物質との接触を減らすこと。密封性の高いメガネやゴーグルを利用するといいだろう。
ドライアイ、老眼も目の充血を起こす
さて、感染でもアレルギーでもない(3)の疲れ目の場合は、単に目を休めればいい…と思うかもしれないが、「もう一つ、注意した方がいい病気があります」と高橋氏はいう。
それは、ドライアイ。
「涙の量が減ったり、涙の成分が劣化するなどの理由で、目の表面が乾きやすくなる病気です。目の乾き感や疲労感のほか、充血が起きることも多いので、『最近、どうも目の疲れや充血がひどい』と感じている人は、ドライアイの可能性を考えるべきでしょう」(高橋氏)
特に、コンタクトレンズを使っている人や、パソコン作業などで目を酷使する人は、ドライアイになりやすいと考えられている。
「軽いドライアイなら市販の目薬でもある程度は楽になりますが、涙腺の働きを改善する処方薬を使えば、もっと改善できる可能性があります」と高橋氏。思い当たる人は、眼科でドライアイの検査を受けてみよう。
さらにもう一つ、目の充血を招きやすい見落としがちな原因として、高橋氏は「老眼の進行」を挙げる。
「40歳ぐらいになると、だれでも老眼が進むので、手元の細かいものが徐々に見ずらくなります。それに気づかないまま裸眼で頑張っていると、目が非常に疲れやすいのです」(高橋氏)
そのぐらいの年代に差し掛かった人は、一度メガネ屋さんで、市販の老眼鏡をかけてみるといい。「試してみて、その方が手元が見やすいと感じたなら、目をいたわるために、使い始めることをお勧めします」と高橋氏は語る。
うーむ……「老眼」ですか。この領域に足を踏み入れかけた人はみな、この言葉にショックを覚えたり、受け入れがたく感じるだろう。それは分かる。
でも、「調整機能が衰えた目にとっては、裸眼で頑張るメリットは一つもありません」と高橋氏は言う。この年代に差し掛かった人は一度、だまされたと思って老眼鏡を試してみよう。慣れれば、実に快適なものですから。
(北村 昌陽=科学・医療ジャーナリスト)
日本医科大学大学院眼科教授
専門は、角膜疾患、ドライアイ、アレルギー、眼科手術全般。日本眼科学会指導医、日本眼科手術学会常任理事、日本角膜学会評議員。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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