こまめに動けば背骨の若さ、強さを保てる
椎間板の弾力がカギ
直立したことで、大きな負担を背負うことになった人間の背骨。重さを支えているのは、椎骨(ついこつ)と椎骨の間に挟まった「椎間板」という弾力性に富む組織だ。
椎間板は、硬い外枠(線維輪:せんいりん)の中に、ゲル状の成分が詰まった構造をしている。この弾力に富む中心部が「髄核(ずいかく)」というクッションの本体。紙おむつのように吸水性が高く、圧力がかかるとじわじわ水分を放出して縮み、圧力から解放されると再び水分を吸い込んで膨らむ。
千葉・柏リハビリテーション学院学院長の下出真法さんによると、この吸水・放水には重要な意味があるという。「椎間板には血管が通っていません。髄核の働きで水分が入れ替わることで、内部に酸素や栄養が行き渡るのです」。髄核はただのクッションではない。椎間板の水分循環を担っているのだ。
椎間板を健康に保つには、「同じ姿勢を続けないことが大事」と下出さん。体をこまめに動かし、椎間板に圧力をかけては休め、水分を循環させる。これが、背骨の若さを保つ秘訣だ。
髄核(ずいかく):椎間板の中心の、弾力性が高い部分を髄核という。多量の水分を含むゲル状の成分で、圧力に応じて吸水・放水を繰り返す。
背骨は神経の通り道 変形するとしびれや痛みを引き起こす
背骨は神経の通り道だ。脳の下部から伸びた神経の太い束(脊髄:せきずい)は、トンネル状に続く背骨の中の空洞を通って腰の辺りまで到達する。その途中で、左右31対の神経が枝分かれして、全身へ伸びていく。
枝分かれした神経が、背骨の外へ出ていくときの通り道が「椎間孔(ついかんこう)」。椎間孔に異常が起きると、神経が圧迫され、痛みやしびれ、マヒなどの症状が出ることがある。例えば椎骨の間にあるクッション組織の椎間板が、つぶれてせり出したり、外壁が破れて内部の髄核が飛び出す(椎間板ヘルニア)ことで、神経が圧迫される。
「代表的なのは坐骨神経痛。腰椎から枝分かれして、お尻の後ろを通っている神経を坐骨神経といいます。腰椎部の異常でこの神経が刺激されて、痛みが出ているのです」(下出さん)
脊髄:脊柱管の中を通る神経の束が、脊髄。脳とひとつながりで、脳脊髄液の中に浮いている。ここから枝分かれした神経が、全身へ伸びる。
椎間孔:椎骨と椎骨の連結部に、左右1対のすき間がある。これが椎間孔。脊髄から枝分かれした神経は、ここを通って脊柱の外へ伸びる。
神経根(しんけいこん):脊髄から神経が分かれる部位を、神経根と呼ぶ。柔らかい神経組織の塊で、圧迫されるとその先の神経に沿って痛みやしびれが起こる。
腹筋群が強ければ背骨にかかる力が軽くなる
体重60キロの人が中腰になると、椎間板には150キロもの圧力がかかるという。椎間板は、瞬間的には数百キロの荷重にも耐えられるが、長年の負担が積み重なれば徐々に傷みかねない。
椎間板への負担を和らげるには、お腹まわりを鍛えるのが有効だ。胴体の中には、「腹腔(ふくくう)」「胸腔(きょうくう)」という2つの大きな空洞がある。この空洞は、エアクッションのように上半身の重さを支え、背骨への負担を和らげる働きをする。ただしそのためには、内部の圧力が十分に高くなくてはいけない。お腹まわりの筋肉を引き締めることで、内圧がしっかり高められるのだ。
「重量挙げの選手は、幅広のベルトでお腹をギュッと締めてバーベルを挙げます。内圧を高めるから、あんなに重いバーベルを持ち上げられるのです」(下出さん)。重量挙げをしなくても、直立姿勢で過ごすだけで、人間の背骨には大きな負担がかかる。背骨のためにも、お腹まわりをしっかり引き締めよう。
腹腔:胃腸や肝臓などが収まった空間。腹直筋や腹斜筋に囲まれている。周りを囲む骨がなく、内圧を上げるには腹筋の力が必要になる。
胸腔:肺と心臓が収まった空間。周りは肋骨で囲まれている。息をいっぱい吸ってこらえると腹圧が上がり、胸腔内の圧力も一緒に高くなる。
腹筋群:腹直筋、腹斜筋、腹横筋など、お腹を囲む筋肉群がしっかりしていれば、腹圧が高まって背骨や背筋の負担が軽くなる。
この人に聞きました
千葉・柏リハビリテーション学院学院長。NTT東日本関東病院脊椎・脊髄病センター。1947年生まれ。73年東京大学医学部卒業。東京女子医科大学整形外科講師、社会保険中央総合病院(現東京山手メディカルセンター)整形外科部長などを歴任。「背骨の健康のために最も大事なのは、姿勢を固めないことです」。
(ライター 北村昌陽)
[日経ヘルス2015年4月号の記事を基に再構成]
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