鍵は中国と英国 2020年ハリウッド映画市場予測
日経エンタテインメント!
2020年の世界の映画マーケットはどうなっているのか。現在、世界最大の映画市場は米国だが、着実に中国の影響力が強まっている。ここ5年間の映画市場を見ると、日米では横ばいが続く一方、中国では成長が続いている。2010年には14億7000万ドルだったものが、2012年には27億ドルを記録し、日本を抜いて世界で2位にランクアップ。2014年には47億6000万ドルと過去5年間で3倍以上に拡大している。まだ米国の半分程度だが、着実に差は縮まっている。
中国政府機関の発表によると、2014年末のスクリーン数は2万3600で、前年比5000増。米国は人口3億人に対して4万スクリーンなので、中国の人口13億人を考えると、まだ伸びる余地がある。「2017年には米国を抜いて世界最大の映画市場になる」と米バラエティ誌では予測している。
アクションやアメコミヒーローが大好き、世界的ヒットを支える中国
こうした中国の映画市場の広がりに比例するように、最近の世界的なヒット映画は必ず中国でヒットしている。2014年の世界興収ランキングを見ると、トップ10のうち8作品が中国で海外市場最大のヒット(『マレフィセント』は日本に次ぐヒット、『ハンガーゲーム FINAL:レジスタンス』は公開中)。しかも『トランスフォーマー/ロストエイジ』のように、米国を上回る興収を記録する作品もある。5年後は確実に、中国人が喜ばない映画は世界でヒットしない時代になるだろう。
では、中国でウケるのは、どういった作品なのか。ヒット作の傾向を見ると、いずれも『トランスフォーマー』『ホビット:決戦のゆくえ』といったド派手なアクション映画や、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『X‐MEN:フューチャー&パスト』といったアメコミヒーロー映画だ。
2015年から2020年にかけて、ハリウッドでは中国人が好むアクション映画やアメコミヒーロー映画の大作を次々と計画している。2015年から新シリーズがスタートする『スター・ウォーズ』『ターミネーター』が2017年以降も控えるほか、米国以上に中国で大ヒットした『パシフィック・リム』続編や、中国でもブームとなった『アバター』新作などが公開予定。また、マーベルのヒーロー映画が年2~3本のペースで公開され、ライバル出版社のDCコミックも年2本のヒーロー映画を予定している。
中国が映画のヒットに欠かせない存在になっていることは、製作面でハリウッドと中国の連携が深まっていることからも分かる。2014年公開の『X‐MEN:フューチャー&パスト』には中国人女優ファン・ビンビンが出演。『トランスフォーマー/ロストエイジ』はパラマウントが中国企業2社と共同製作し、中国人女優リー・ビンビンが出演。香港や北京などでロケを敢行した。また米バラエティ誌は、中国の電子商取引最大手のアリババ集団がソニー・ピクチャーズの新作CGアニメ『ピクセル』や、『スパイダーマン』のスピンオフ作品『シニスター・シックス』に出資を交渉中と伝えている。
さらに、2016年公開予定で、チャン・イーモウ監督初のハリウッド合作映画『グレート・ウォール(万里の長城)』の企画(主演マット・デイモンの予定)が進んでおり、今後も米中合作が増えそう。単にハリウッド映画を中国に大量輸出するだけでなく、その中身にも中国色は色濃くなっている。
チャイナマネーが流入、中国がハリウッド超えか…
そしていずれ、中国はハリウッドを飲み込むかもしれない。既に、チャイナマネーがハリウッドに流入し始め、世界制覇を狙う動きもあるからだ。今、映画市場で最も勢いのある中国企業が大連万達集団(ワンダ・グループ)。中国の商業不動産大手で、最近では映画ビジネスに注力している。2012年にアメリカで業界2位のシェアを誇る映画館チェーン、AMCエンタテイメントを買収したほか、2014年は映画会社ライオンズゲートやMGMの買収を画策。青島には「中国版ハリウッド」を建設すると発表。82億ドルを投入して、20の映画・テレビスタジオや音響施設、アニメ制作スタジオなどを設置し、映画・テレビ作りの一大拠点を計画。2016年の開業に向けて建設中だ。
また、大手投資会社の復星集団(フォースン・グループ)は前ワーナー・ブラザース・スタジオ社長ジェフ・ロビノフが立ち上げた会社スタジオ8に2億ドルを出資し、関係を強化するなど、中国は着実にハリウッドの映画ビジネスのノウハウを蓄積している。
この勢いが続けば、2020年、中国がハリウッドと対等、またはそれ以上の立場になる可能性は高い。
ギャラが安くて言葉の壁なし、ハリウッドで英国人俳優が引く手あまた
今、ハリウッドでは英国人俳優のブームが起きている。英国人男優のエディ・レッドメイン(33歳)が『博士と彼女のセオリー』、ベネディクト・カンバーバッチ(38歳)は『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』でアカデミー賞主演男優賞にノミネート。それぞれ自身初の候補で、レッドメインはオスカーに輝いた。カンバーバッチは2016年にはマーベルのヒーロー映画『ドクター・ストレンジ』の主役を演じることになっている。また2人は、2015年の英国GQ誌が選ぶ、英国人ベストドレッサーのトップ2で、英国紳士らしい着こなしぶりも人気の秘密のようだ。
一方、英国人女優もハリウッドを代表する有名作のヒロインに続々と起用されている。エミリア・クラーク(28歳)は『ターミネーター:新起動/ジェニシス』でサラ・コナー役、リリー・ジェームズ(26歳)はディズニーの新作『シンデレラ』の主役に抜てきされている。
これまで、ハリウッドは自国・米国市場を第1に考え、プラスαで海外というスタイル。基本的にはその流れは変わらないが、米国人俳優にはいわゆる"強い米国人"的なキャラクターが多く飽きられてきているからか、新たなスターがなかなか生まれない。加えて、米国人俳優のギャラの高騰が続いてきたなかで、もともと米国人よりギャラ相場が安い英国人を起用すれば、コストが下げられる。
実力面でも、英国人は、シェイクスピアとウエストエンド(劇場が多い地域)の伝統から演技力のある俳優が多く、即戦力になる。もちろん、言葉の壁がないことも大きい。アジア人など母国語として英語を話さない役者は、トレーニングに時間がかかる。英語圏であるイギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドにはスターが生まれやすい下地がある。
この傾向は今後も続きそうで、2020年、英国人俳優はハリウッド映画に不可欠な存在になりそうだ。
(ライター 相良智弘)
[日経エンタテインメント! 2015年4月号の記事を基に再構成]
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