加齢による妊娠率の低下、女性の多く「知らない」
「加齢によって妊娠率が低下する」ことを約半数が知らない
悪性リンパ腫(血液のがん)の治療で生殖機能を失う恐れがあった女性が、高校生のときに凍結保存しておいた卵子で出産したというニュースが報じられた。卵子凍結は、がんなどの病気で不妊に悩む女性にとって福音となった。また、日本生殖医学会は2013年に「社会的理由による未受精卵子凍結・保存のガイドライン」を発表しており、健康な未婚女性も、パートナーの不在やキャリア形成といった社会的理由で卵子凍結を選択できる。
子どもを持たない理由1位は「パートナーの不在」
医療法人オーク会(大阪市)の船曳美也子医師は、2014年3月~5月に卵子凍結説明会に来院した女性を対象に匿名でアンケート調査を行った。回答者は29~49歳の総数65人(アンケート回収率78.4%)、平均年齢36.0歳。うち78.5%は現在、性的パートナーがいるという回答だった。
「説明会開始時までに年齢による妊娠率の低下が生じることは知っていたか?」という質問に対してYES(知っていた)と回答したのは32人(49.2%)、NO(知らなかった)が33人(50.8%)。卵子凍結に興味を持つ女性でさえ、約半数が加齢に伴う妊娠率の低下や卵子の老化に関する知識を知らず、専門家との間で高い認識のギャップが存在することが浮き彫りとなった。
「なぜ、もっと早く子どもを持とうとしなかったのか?」という質問(複数回答可)に対する回答の1位は「(家族形成のための)パートナーがいなかった」で47人(72%)、2位は「仕事上の理由で」17人(26%)、3位は「心の準備ができていないため」16人(25%)だった。
いつ産むか、自分自身で計画できるための正しい知識を
凍結卵子の使い道は「自然妊娠しない場合のバックアップとして」という回答が最も多く、32人(49%)だった。
社会的理由による卵子凍結については賛否両論があるが、晩婚化に伴う高齢出産や不妊治療は増加しているのが現実だ。「今は現実的でないけれど、将来子どもが欲しくなるかもしれない」という女性にとって注目の技術であることは確かだろう。いずれにしても、正しい知識を知ったうえで、自分自身で決断することが重要だ。
「女性は生殖の限界年齢が男性とは全く異なります。"もっと早く産んでおけば"と後悔することを避けるためにも、早い時期から出産について考えてほしい。そのためにも公的教育の中で、こうした知識を扱っていく必要があると思います」(船曳医師)
医療法人オーク会では、凍結卵子による出産率は1個約9%で全部使用しても100%にはならないこと、高齢出産や採卵に伴うリスクもあることなどを説明し、卵子凍結のメリットとリスクを十分に理解したうえでの選択をサポートしているという。
「さまざまな女性疾患にかかる可能性は誰にでもあり、万が一に備えて自分の卵子を凍結しておく『予防的卵子凍結』という選択肢もあります。技術的解決の選択肢を提示し、子どもの産みどきを自分自身で計画する自立した女性を社会的に支援していくことが重要」と船曳医師は訴えている。
この人に聞きました
1983年神戸大学文学部(心理学専攻)卒業、1991年兵庫医科大学卒業。産婦人科専門医、認定産業医、日本抗加齢医学会会員、日本生殖医学会、アメリカ生殖医学会会員。著書に『女性の人生ゲームで勝つ方法』(主婦の友社)がある。
(ライター 塚越小枝子)
[nikkei WOMAN Online 2014年12月17日付記事を基に再構成]
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