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電気代ゼロ 「オフグリッド」で暮らしてみる

 

2015/2/28

 「グリッド」とは電力会社の送電網のこと。発電した電気を売電せず、自給するのが「オフグリッド」だ。この冬、愛知県豊田市で、そんな生活をスタートさせた家族がある。電気を自給して暮らすことは可能なのだろうか。どんな暮らしをしているのだろうか。日々の生活を取材した。

オフグリッド生活を始めた下野さん一家(愛知県豊田市)
晴れた日は洗濯日和(写真左側)。毎日「ぬかくど」を使ってご飯を炊く

■毎日がキャンプみたい

生活に使う電気を太陽光パネルと蓄電池でまかなう下野さんの家

 「電気が使える。洗濯をしよう」。2月初旬、下野智子さん(38)は青空を仰ぐと、150ワットの洗濯機(脱水時は300ワット)のスイッチを入れた。一家の暮らしで使う電気は、すべて太陽の恵み。自宅屋根に並ぶ計870ワットの太陽光パネルと容量約10キロワット時の鉛蓄電池だけでまかなう。薪(まき)をくべて風呂を沸かし、食事は薪ストーブの天板やオーブンで調理をする。ご飯は「ぬかくど」と呼ばれる手作りのコンロで炊く。量を調整したもみ殻に火をつけるだけの“全自動”だ。「毎日家でキャンプしてるみたいです」

 昨年11月末、この家に移り住んだのは、下野雄司さん(44)、智子さん夫妻と2人の子供(7歳と5歳)の4人家族。実際の生活に必要な電力消費のデータをとり、ライフスタイルの可能性を探る名古屋大学の高野雅夫教授らの「実験」でもある。今のところ夫の雄司さんは仕事の都合で、元の自宅がある同県知立市に残り、週末に家族の元へ通うという生活。こちらも「実験中」だ。

太陽光発電システム。電気はバッテリーに蓄えられ、直流24Vとインバーターを通した交流100Vの2系統で利用している
電気を使っているものはパソコン、精米機、インバーターなど。薪や太陽熱温水器を最大限利用して電気を使わない暮らしをしている。冬の間は外の棚が冷蔵庫代わり(右下)。

■電気、余ってます

 下野さん宅の暮らしで電気を使っているものは、洗濯機、精米機(300ワット)、ノートパソコン(30ワット)、プリンター(65ワット)、モバイルルーター、タブレット端末、携帯電話への充電(8ワット)、薪ストーブのファン(14ワット)、3~30ワットのLED照明が16個。高野教授が今月調べた結果、今のところ1日当たり510ワット時(1時間平均約20ワット)程度しか使っておらず、電力は余っているのだ。

 冬の今は外気温が低いため、勝手口の外に作った棚を冷蔵庫代わりに使っている。春になったら30ワット程度で稼働する省エネタイプの冷蔵庫を購入する予定だ。夏も比較的涼しく、熱に電気を使わない暮らしができる田舎は、都会に比べてオフグリッド生活に有利。毎月の電気代は0円だ。

下野家の電気はすべて太陽の恵み

■正念場は梅雨時か

 太陽光パネルの発電能力は晴れた日以外は極端に落ち、雨や雪が続くとほぼゼロになる。蓄電池容量から3日ぐらいはしのげるが「梅雨時の停電はおそらく避けられない」と高野教授。実際1月に雪が降り続いた時は、家族そろって一時近くのお寺に避難した。夏は冷蔵庫が必要だが、薪ストーブのファンは回さなくていい。日照が長くなるのでLED照明をつける時間は短縮できる。工夫して乗り切るしかない。一家の実験生活はこれからが正念場だ。

 家電の中で電力消費が大きいのは、電気を熱に変えて利用するエアコン、ドライヤー、炊飯器、電気ポットなど。冷蔵庫のように24時間稼働しているものもトータルの負担は大きくなるが、今のところ下野さん宅にはこれらの家電製品がない。智子さんは「特に節約を意識しているわけではありません。なければないで何とかなるので、慣れてしまえば不自由は感じません」。

街明かりがないので夜7時でも外は真っ暗。3wのLED照明2つ(左上)でもまぶしいぐらいだ

■都市では「部分オフグリッド」を

 電力消費の少ない下野さん宅のシステム導入費用は約80万円。都市部で不自由のないオフグリッド生活を実現しようとすると、200万~400万円程度の出費は免れない。「節電のコツは、太陽光パネルの前に太陽熱温水器を導入するなど、できるだけ熱に電気を使わないこと。まずは家庭菜園で野菜を作るように、少量でも作った電気を自分で使ってみては」と高野教授は提案する。テレビだけ、居間だけなど、一部の電力だけを自給する「部分オフグリッド」なら都市部でも可能だ。東日本大震災の直後には東京でも計画停電を経験した。「電気を自分で作る暮らし」は災害にも強く、どこか安心感がある。

 また再生エネルギーの固定買い取り価格は、来年度も引き下げられる方向だ。昨年9月には九州電力が設備の調整能力が不足しているとして、太陽光発電の買い取りを一時保留する混乱もあった。今後の売電の有効性は不透明だ。

約2週間分の薪(写真上)と油圧式手動薪割り機を使う長女の歌子ちゃん

■コストより生き方

 どれぐらいの電気が必要なのか、それはコストの問題というより「生き方の問題」と高野教授は話す。下野さん宅では、余った電気を有効活用するため、電気自動車に改造した軽トラックを導入することも検討している。名古屋大学は3年間データを取りながら今後の可能性を探る。

 オフグリッド生活には薪が必需品だ。お風呂もご飯も暖房も。「お金を使わない日はあるけど、薪を使わない日はありません。バッテリーより残量が気になります」と智子さん。雄司さんも「この家に帰ってくるたびに、薪集めや薪割りが欠かせません」。

 最近、油圧式の手動薪割り機を購入した。力が要らないので、子供たちも手伝ってくれる。不便だからこそ楽しめることもある。

(名古屋編集部 小園雅之)

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