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クーデター阻止した意外な人物 二.二六事件研究

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日本史でよく知られているクーデター事件は大化の改新(=乙巳の変、645年)・本能寺の変(1582年)・二.二六事件(1936年)の3つだろう。いまだ解けぬナゾが残っていることでも共通する。日本が本格的な戦争に突入していく際のターニングポイントとされる二.二六事件は、最近これまでの通説を覆す歴史書が出てきている。関係者らへの直接インタビューなど約30年間研究を続けてきた近代政治史の筒井清忠・帝京大学教授に最新成果を聞いた。

二.二六事件は1936年(昭和11年)2月26日、陸軍の青年将校ら約1500人が「昭和維新」を目指して当時の岡田啓介首相らを襲撃。高橋是清・大蔵大臣や斎藤実内大臣らを殺害して首相官邸など東京中枢部を占拠した事件だ。当時の日本は中国に進出する一方で国際連盟からは脱退、国内では農村部が極端に疲弊し貧富の格差が拡大していた。二.二六事件の青年将校は、「天皇親政」を目的とする「皇道派」と呼ばれるグループの尉官クラスで、20~30歳代が中心。政界などの指導者らは腐敗しているとして一掃し、体制改造で逼塞(ひっそく)状況を打破することが狙いだった。

しかし昭和天皇と周辺の強いリーダーシップで翌27日には戒厳令が敷かれ、29日には反乱部隊が原隊復帰するなどして事件は終息した。事件後は陸軍内の対立派閥だった「統制派」の政治力が強大になり、この事件が結局太平洋戦争への一里塚になったともいわれる。近代日本が経験した最大のクーデターだけに関心は高く、これまで「二.二六産業」と皮肉られるほど、さまざまな視点や仮説による数多くの研究書が出版されてきた。

筒井教授は「黒幕説や謀略説は今では否定されている」と言う。よく黒幕になぞらえられるのが皇道派の首脳、真崎甚三郎陸軍大将だ。青年将校は岡田内閣に代わる暫定内閣を主張し「真崎政権」を求めていた。しかし「当の真崎大将は事件前、海軍大将と緊密に連絡したり、陸軍他派閥との交流を図ったりと派閥工作に没頭していた」(筒井教授)。クーデター当日の朝4時半ごろ、事件を知った真崎大将は「死人のような顔になり『万事休すだ』とつぶやいた」という。

二.二六事件を起こした青年将校の心情そのものは、純粋に国のためを思ったことだと公式に認める――。26日に発表された「陸軍大臣告示」がクーデターの意義を好意的に承認したかのような内容だったのは有名だ。この告示が近衛師団司令部に伝えられたのが早い時間の午前10時50分という記録があったため、あらかじめ皇道派上層部が作成していたのではないかと謀略説が唱えられたこともあった。これも筒井教授は「二.二六事件の裁判記録の精査から実際は午後3時15分ごろだったと確定している」と指摘する。「青年将校は情報が漏れるのを恐れて事前の上層部工作はしていなかった」(筒井教授)。昭和天皇が皇道派に好意的だという誤った情報が伝わっていたことが、事態の推移を楽観的に見させていた。

しかし、その昭和天皇は終始鎮圧の姿勢を変えなかった。当時まだ34歳、若き君主の方針を支えたのは誰だったのか。筒井教授は意外な人物の名をあげる。軍部に近いと言われ、戦後はA級戦犯として裁かれた木戸幸一・内大臣(事件当時は内大臣秘書官長)だ。これまでは軍国主義の台頭を阻止するどころか、逆に促したひとりとみられており、一般的に木戸氏の歴史評価は芳しくない。対米開戦につながった東条英機首相を実現させたのも木戸氏だ。しかし二.二六事件では「見事な対処策を起案した」と筒井教授は評価する。木戸氏は天皇の方針を2点に絞った。暫定内閣を許さないことと、反乱の断固鎮圧である。

当時岡田首相の安否は定かでなく、残った閣僚らは昭和天皇に辞表をまとめて提出したものの受理されなかった。暫定内閣を許せば取引の材料を与えることになり、実質的なクーデター成功につながると木戸氏が判断したからだった。その後皇族、大臣らが繰り返し天皇に暫定内閣を進言しても認められなかった。中には天皇に会うこと自体を阻止された重臣もいたという。事実、ここから青年将校の動きは頓挫してしまう。

筒井教授は木戸氏を「情報に精通した、機を見るに極めて敏な政治家」と分析する。明治の元勲、木戸孝允の孫である木戸氏には、さまざまな方面のエリート層から秘密情報のたぐいがもたらされていただろう。参謀本部などの高級将校らとも交際していたため、陸軍内の事情にも精通していた。クーデター側の攻勢が長続きしないと読み切っていたのかもしれない。近衛師団に連絡して皇居の安全を確認し、岡田首相抜きの閣議を宮中で開催させるなど着実に手を打っていった。「非常事態にあっては危機管理のポイントを絞ることが重要。そのポイントに集中し徹底して青年将校側の排除に動いた」と筒井教授の評価は高い。木戸氏こそ二.二六事件を失敗に終わらせたキーパーソンだった。

日本独特の政治風土も影響したようだ。非常時には政治過程の中に必ず天皇の「御聖断(ごせいだん)を仰ぐ」ということが必要だとする「天皇型政治文化」が存在していた。筒井教授は「クーデターを成功させるにはスピードが大事だ。この文化が青年将校側に不利に働いた」としている。

元首相の高橋蔵相は、軍事予算の抑制をはかった言動で軍部から憎まれていたという。しかしそれだけが襲撃・殺害の理由だったのか。「岡田内閣の後継首班に選ばれそうで、自分らの考えに合わない人を事前に排除したかったのではないか」と筒井教授は推測する。確かに岡田首相に万一のことがあった場合、後継の最有力候補は高橋蔵相だっただろう。結果的には26日に殺害された指導者層の中でただひとり軍人出身でない犠牲者となった。これは事件の印象を暗く悪いものにしてしまったようだ。身柄の拘束程度にとどめておけば、あるいは政界や軍部での支持勢力は増えたかもしれない。

通説とは正反対に実は二.二六事件に好意的だった大物幕僚もいる。満州事変(31年)の立役者、石原莞爾・参謀本部作戦課長(=大佐)だ。事件当時、青年将校らに対して「言うことを聞かねば軍旗を持ってきて討つ」と面罵したと言われていた石原大佐だが、実際は26日には自主的に参謀本部の建物を青年将校側に明け渡していた。その後も間接的に交渉を試みたり、有利になるような解決策を陸軍大臣に進言したりしていた。「青年将校側が最後に信頼して頼みにしたのが石原大佐だった」(筒井教授)。その石原大佐は事件終息後、陸軍「満州派」のトップとして統制派主流を受け継いだ東条英機首相派と激しい人事抗争を繰り広げた。筒井教授は「事件終結後に統制派がすぐ政治的実権を握っていったという解釈は不正確」という。

さらに詳細な研究を進めていく上では、昨年完成した「昭和天皇実録」の影響が大きそうだ。これまで関係者の日記などでしか分からなかった事件の時系列的な経過が、より正確に把握できるようになったためだ。「親英米派の湯浅倉平・宮内大臣が早くから皇居にこもって天皇に助言しているなど、見過ごされがちだった点も明らかになっている」(筒井教授)。

事件から今年で79年。行為自体は決して許されないものの、国家改造を目指した青年将校の心情や人間性は純粋だったとして一部に根強い人気が残っている。直接投票制や議会制民主主義が発達している政治体制では軍事テロは成功しにくいという。国民が体制の正統性に厳しい目を向けるからだ。それでも「政治の中には投票結果だけでは測りきれない情念的なものがある。そうした要素にどう対処すべきなのか。二.二六事件の研究は今後も必要になってくるだろう」(筒井教授)という。(電子整理部 松本治人)

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