お腹のガスをためない ライフスタイル8カ条
【 お腹にガスをためないセルフケア 】
お腹のガスは「入れない」「作らない」「出す」で解決
毎日の生活ですぐに始められるお腹のガス対策は、大きく3つ。ガスを「入れない」「作らない」「出す」ことだ。
第1は空気を「入れない」こと。早食いやがぶ飲みをすると、空気を多く飲み込むので、飲食はゆっくりを心がけて。また、胃の中の空気を出すと、腸のガスも減る。「ゲップを我慢しないことが重要。食後すぐに横になると、ゲップが出にくくなるので注意」と広島大学病院感染症科の大毛宏喜教授。なお、ゲップやガスがたまるからと炭酸飲料を控える人がいるが、二酸化炭素は体内で吸収されるので、腸内にたまることはないという。
ストレスがあると空気を飲み込みやすくなるので、心のケアも大切。「腹式呼吸をしたり、瞑想したりして不安を静める。1日1回、そういう時間を持つだけでだいぶ違う」と東北大学病院心療内科の福土審教授。
第2はガスを「作らない」こと。大腸内に滞留する便はガスの発生源になるので、便秘をしないよう気をつけて。便の滞留が長いほど有害ガスも発生しやすい。そのためにも食物繊維は積極的に取りたいが、ポイントは自分の腸に合ったものを選ぶことだ。「腸内細菌叢(そう)は人によって違うので、いろいろな食物繊維を試し、便やガスの状態を見ながら相性のいいものを見つけるといい」と大毛教授。善玉菌も腸内環境を整えてくれる。「IBSによる腹部膨満感がビフィズス菌の摂取で改善したという報告もある」(福土教授)
第3はガスを「出す」こと。人前では出しにくいが、自宅やトイレではしっかり出すといい。「我慢するとお腹が張って腸の動きが悪くなる。すると便が停滞して、ますますガスがたまる」と大毛教授。我慢したガスで腸壁にへこみができる「大腸憩室(けいしつ)」を招く可能性もあるというから、我慢は禁物だ(写真1)。うまく出せない場合は、ヨガも効果的。すんなり出せる"ガス出しヨガ"もやってみて。
ヨガでたまったガスを出す
ヨガ指導者の柳瀬けい子さんが、"ガス出しヨガ"として教えてくれたのが、次の2つのポーズ。「お腹をグーッと伸ばしたり、縮めたりすることで、腸が内側から動き出す。お腹が張って苦しいときはもちろん、毎日続けていると便通もよくなる」と柳瀬さん。お試しを。
●弓のポーズ
(1)うつぶせになって、手足を伸ばし、リラックス。あご、おへそ、恥骨、足先が一直線になる意識で。
(2)両手で両足を外側から持つ。あごは床につけたままにして、鼻から息を吐く。
(3)鼻から息を吸いながら、足を引き上げ、大きく反る。お腹で体を支える意識で。この状態で10呼吸キープ。
(4)息を吐きながら元に戻り、顔を横に向けてゆったり呼吸を。お腹をグーッと伸ばして呼吸するので腸が十分刺激される。
●赤ちゃんのポーズ
(1)あおむけになり全身の力を抜いた後、両ひざを立てる。
(2)大きく息を吸って、両手で右ひざを抱える。息を吐きながら顔と右ひざをできるだけ近づけ、お腹をグーッと縮める。
(3)そのままの状態で、左脚を静かに伸ばす。10呼吸キープしたら、静かに手足をほどく。お腹の力を抜き、元の姿勢でリラックス。このポーズでは、お腹を思い切り縮めて腸を刺激する。
(4)反対側の脚も同様に。両ひざを抱えて、お腹を縮めるポーズを加えてもいい。
1.早食い、がぶ飲みは禁物
よくかんで、ゆっくり食べると、飲み込む空気の量が減って、ガスも減る。
2.ゲップ、おならは我慢しない
我慢したゲップは腸のガスになる。おならの我慢はさらなるガスを招く。
3.食後すぐに横にならない
横になると、胃袋の中の食べ物が胃の入り口をふさぎ、ゲップが出にくくなる。
4.便秘をしないようにする
たまった便はガスの発生源。たまる時間が長くなるほどガスも増え、悪臭の原因にも。
5.自分に合った食物繊維を取る
特定の食品の食物繊維でガスが増える人がいる。相性のいい食物繊維を見つけよう。
6.ビフィズス菌などの善玉菌をとる
悪玉菌が増えると有害ガスも多くなる。善玉菌で腸内環境をよい状態に。
7.毎日、腹式呼吸や瞑想をする時間を持つ
不安な心を落ち着かせる時間を。お腹からゆっくり息を吐く腹式呼吸や瞑想がお薦め。
8.休息を取り、ストレスをためない
ストレスをためない、胃腸を休ませるためにも、よく寝ることが一番。
【 メディカルケア 】
つらい人には漢方薬や抗不安薬も有効
セルフケアを試しても、まだつらい人は我慢せず、治療を受けよう。「お腹のガスは漢方が得意とする症状。タイプに合わせ、主に4つの漢方薬がよく用いられる。いずれも胃腸の弱い人に向く」と吉祥寺東方医院顧問の三浦於菟医師。
下痢が多く、冷え傾向があってガスがたまる人には、「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」が効果的。同じく冷え傾向はあるが、便秘がちでお腹が張る人には「桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)」を。また冷えが強く、腸が張ってモコモコ動くように感じる人には「大建中湯(だいけんちゅうとう)」が効く。「冷えたお腹を温めて、腸の動きをよくしてくれる」と三浦医師。ベースに冷えがある人は、漢方をのむと同時に、おへそのあたりを温めたり、マッサージしたりするのもお薦めという。
食後に胃がもたれて、お腹が張る人に向くのは「平胃散(へいいさん)」だ。「腸の膨満と勘違いしている人がいるが、食後のお腹の張りは胃が下がるために起こる。胃の消化不良が原因」と三浦医師。
一方、空気を多く飲み込んだり、IBSで腹痛や便通異常を繰り返したりする場合は、ストレス対処が重要。「不安感が強い人には呼吸法などの指導に加え、抗不安薬を処方することも」と福土教授。最近は依存性の心配が少ない「タンドスピロン」という、神経に作用するセロトニン系の薬を用いることが多いそうだ。また不安になることを避けるのではなく、あえてそれにさらされることで積極的に状況に慣れていく「曝露(ばくろ)療法」という精神療法も効果的だという。
腸はストレスを感じやすい臓器
ストレスがあるとお腹が痛くなる、お腹が敏感だと不安感も増す……。脳と腸の関係は非常に密接だ。「例えばIBSでは、ストレスが引き金になって腹痛や便通異常を発症したり、悪化したりする。つまり、腸の症状であると同時に、ストレス関連病でもある。まさに脳腸相関の病気」と福土教授は話す。
図1はその関係を簡単に示したもの。ストレスを感じると脳からCRHというホルモンが放出され、神経を介して腸に作用。すると腸の動きが過敏になり、腹痛や便通異常が起こりやすくなる。そして、その情報は情動を司る脳の扁桃体などに伝わり、不安や抑うつを生む。「腸はとても感じやすい臓器。その"内臓感覚"が脳に伝わって、不安などの情動が生じる。実際、IBSでは不安障害やうつ病の発症率が高いこともわかっている」(福土教授)。
●下痢や腹痛がある人に、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
比較的体力が低下して、腹部膨満感や腹痛、下痢がある人に。下痢は"しぶり腹"のことが多く、何度も便意を催すが、排便量は多くない。便秘が軽度の場合に用いることも。
●頑固な便秘や腹痛のある人に、桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)
桂枝加芍薬湯に下剤効果のある大黄を加えたもの。比較的体力が低下して、腹部膨満感や腸内の停滞感、腹痛、常習的な便秘のある人に向いている。
●食後、胃もたれがある人に、平胃散(へいいさん)
漢方の代表的な胃腸薬。体力中程度で、胃がもたれて消化不良の人、特に食後の胃もたれと腹部膨満感の強い人に向く。胃の働きをよくして、消化を改善する。
●お腹が冷えて腸の動きが低下した人に、大建中湯(だいけんちゅうとう)
体力が低下してお腹や手足が冷え、痛みや腹部の膨満感、腸が動く感じのある人に適する。体を温めることで、冷えによって低下した腸の動きを改善させる。
この人たちに聞きました
広島大学病院感染症科(広島県広島市)教授。専門は消化器外科。米国ミネソタ大学留学中に腸内ガスの研究に取り組む。「おならの臭いが強いほど潰瘍性大腸炎の症状が重くなることがわかりました」。"おなら博士"の異名も。
福土審さん
東北大学病院心療内科(宮城県仙台市)教授。専門は心身医学。著書に脳腸相関をテーマにした『内臓感覚』(NHK出版)がある。「IBSは生活の質を著しく落とす。気のせいではなく、腸の知覚過敏によって起こる病気です」
三浦於菟(おと)さん
吉祥寺東方医院(東京都武蔵野市)顧問。専門は漢方全般。東邦大学医学部東洋医学科教授を経て、現職。「お腹の音を気にする女性が多いが、自分には骨伝導で大きく聞こえるだけ。周囲には聞こえてないことが多いものです」
柳瀬けい子さん
アーユルスペース楽(東京都港区)。ヨガ指導者。30年以上のヨガ歴から、女性の健康と美容に直結する「柳瀬式ウェルネスヨガ」を提唱する。「ヨガでお腹を刺激すると、腸が自発的に動きだす。皮膚の上からマッサージするより効果的です」
(ライター 佐田節子、構成 日経ヘルス 黒住紗織)
[日経ヘルス2015年2月号の記事を基に再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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