マネー研究所

カリスマの直言

良識ある資本主義>21世紀の資本(渋沢健) コモンズ投信会長

2015/2/15

「ビジネスとは相手を搾取や威圧する利己的な存在ではなく、協力と自発的交換による相互利益である」

 やはり、私は逆張り派のようだ。世間がトマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」を読んでいる最中、自分がページをめくり始めている本は、「Conscious Capitalism」だ。和訳では「世界でいちばん大切にしたい会社」という題名であるが、「良識ある資本主義」と訳した方が内容と合っている。実業家の経験から基づく資本主義の実践は、経済学者が提示する机上の資本論と比べてライブ感があって面白い。

 本書の共同著者のジョン・マッキ―氏は、年間売り上げが約1.5兆円相当の米国最大手の自然食品スーパーのホールフーズ・マーケットの創業者だ。60~70年代のヒッピー・ムーブメントに感化され、ビジネスと企業は利己的に利潤を追求する「悪」の存在であると思っていた。そして、1978年に25歳の若者は健康的な食べ物を売りながら生活費を稼ぐという楽しい生活の理想を抱えて起業した。

 そうすると、視野が変わった。ビジネスとは相手を搾取や威圧する利己的な存在ではなく、協力と自発的交換による相互利益であることに目覚めたのだ。

 同業者と合併し、ホールフーズ・マーケットとして改名して営業を初めてから8カ月の1981年5月。70年ぶりの大洪水で店は水没する。預金なし保険なし在庫なしの状態で破綻の崖っぷちに立たされる。これで職を失ったと絶望する従業員と共に店の残骸に茫然(ぼうぜん)と立ちすくんでいると、予想外のことが起こる。

 お客さんや近所の住民たちが手にモップやバケツなどを持って寄り集まってきたのだ。「何をボーッとしているんだ。あんたの店は自分たちの生活にとって不可欠な存在なんだよ」と声をかけながら。

 他に、営業再開まで無給で働いた従業員。店の棚並びのために信用貸しで商品を提供した多くの取引先。追加増資に応じた投資家。そして、銀行までが運転資金を貸してくれた。このような大勢のステークホルダーの協力のおかげで、ホールフーズ・マーケットは水没後の28日目に営業を再開できた。ステークホルダー達の協力、そして、ビジネスにおける「power of love」という利他の思いがなければ、ホールフーズ・マーケットは創業1年目で世の中から消えて、現在は存在していなかったと、マッキー氏は想いをかみしめながら振り返る。

 マッキー氏のように、理想は一人から始まるものであるが、一人だけでかなうものではない。仲間の存在があるからこそ理想は現実となる。そして、その仲間たちを引き寄せるものは、論理の法則にかなった合理性だけではなく、突き進む情熱、他者への愛情、そして揺るぎない正直さだ。また理想を追求する者は必ず悩む。逆境で心が折れそうになるときもある。しかし、そんな時、あのときの、あの人の一言で立ち直れるときもあるのだ。

 「資本主義は知的ハイジャック」されているとマッキ―氏は主張する。つまり、資本主義とはゼロ・サムのパイの奪い合いではなく、パイを拡大させる協働作業であることが軽視されているということだ。「低所得層の生活向上のために、高所得層の足を引っ張る必要はない」とマッキー氏は指摘する。

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