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脂肪量は3倍、安い肉の正体は不健康に育った肉 消費者だけが知らない農業工業化の暗部(1)

2015/2/17

 私たちが、スーパーなどで買う安い肉の多くは、不健康なものである可能性が高い、と『ファーマゲドン』の著者フィリップ・リンベリー氏は警告する。その原因は、「農業の工業化」にあるという。リンベリー氏は、家畜の福祉向上のために活動する慈善団体、コンパッション・イン・ワールド・ファーミングの最高責任者で、農業の工業化が、環境破壊、貧困の拡大、食料難、健康への悪影響などを引き起こし、このまま放置すればファーマゲドン、つまりファーム(工業型農業)によって世界は大きな危機(ハルマゲドン)にさらされると警鐘を鳴らす。工業型農業から生み出される食品にどんなリスクが潜んでいるのか、リンベリー氏の主張に耳を傾けてみよう。

 一日中部屋に閉じこもり、じっと動かず、高カロリーのご飯ばかり食べている。屋外での運動とは一生無縁。しかも、部屋は狭く、ぎゅうぎゅう詰め状態で集団生活。病気になりやすいので、抗生剤の投与も受けている。こうした不健康な生活を続けていたら、誰だってほぼ確実に肥満や生活習慣病になってしまうだろう。これは、人間の話ではない。牛や鶏や養殖魚の話だ。

 最近、盛んに報道されている食品への異物混入や少し前の食品偽造問題など、食に関する事件やスキャンダルが起こるたびに、私たちは自分の口に入る食品についてほとんど何も知らないことを痛感させられる。

 ただ、加工食品であれば、製造工程をさかのぼっていけば、それがどのように作られているか、ある程度想像はつく。しかし、それが肉、魚といった生鮮食料品となると、飼育の過程について気に留める人は非常に少なく、ある種のブラックボックスのようになっている。

 多くの人が抱いている牧場のイメージは、広い牧草地が広がり、そこで牛が草を反芻(はんすう)しながらゆったりと食べているといったものだ。しかし、米国では、動物が自然の欲求のままに、牧草地を歩きまわって草を食むことのできる農場は、この数十年の間に急速に姿を消した。その代わりに、狭い場所に家畜を閉じ込め、穀物を主体とした飼料を与え、効率的に牛乳や肉を生産しようとする工場式畜産が主流となっているという。

 先進国で肉の消費が増えた背景には、工場式畜産の増加がある。そこでは穀物を主とする高タンパク高カロリーの特別な飼料を用いて、動物1頭あたりの生産量を上げ「飼料転換効率」、つまり与えた飼料でとれる肉の量を増やそうとする。労力と飼料のコストを下げるため、動物たちは閉鎖的な畜舎にぎっしりと詰め込まれて飼育される。動物たちの動きを制限することによって無駄なエネルギーの消費を抑え、建物内に閉じ込めておくことによって気温の変動による影響を減らそうというのだ。品種改良で生産性を高めた動物、たとえば早く大きく育つ種、肉付きのよい種、乳をたくさん出す種を選び、特別な餌、薬、飼育環境を用いてさらに生産量を上げる。このような方法が肉に対する大きな需要を満たし、その需要をますます増やしている。(『ファーマゲドン』より抜粋)

 あたかも工業製品を作るかのように、効率や生産性を追求する工業型農業には、さまざまなひずみが生じるという。なにせ扱っているのは、命のある動物である。飼育期間が長くなるとエサ代がかかるので、効率の観点からは早く成長させたほうがいい。そのため、成長を促進するホルモン剤が与えられる。狭い場所にぎゅうぎゅう詰めで飼育したほうが、土地も、必要な労働力も小さくて済む。半面、ろくに運動もさせていないので病気にかかりやすく、その治療や予防のために抗生剤が使われる。

 抗生剤には、発育を促進させる作用があることがわかっており、飼料に混ぜて使われることが多い。米国食品医薬品局は、そうした使い方をしないように指導しているが、実効は上がっていない。米国で使用される抗生剤の80パーセントは農場で使用され、その70パーセントが病気の治療ではなく、予防や発育促進のために使われているそうだ。

 著者によると、工業型農業で飼育される鶏が、生まれてから出荷されるまでの間、ケージの中で動ける面積は、平均するとA4サイズ1枚だそうだ。確かに、動き回ると、カロリーを消費して、痩せてしまう。つまり、エサ代がかかってしまう。

 ほかの工場式畜産場の動物と同じく、鶏はきわめて過密な状態で飼育される。ジョージア州の標準的な「飼育小屋」は幅が15メートル、長さが150メートルで、そこに3万羽以上の鶏が収容されている。1羽あたりの床面積は、A4用紙1枚ほどしかない。
 窮屈な空間と肥満のせいで、脚の障害はよく見られる。急速に成長するため、体の発達が体重増加に追いつかず、歩行困難になるためだ。たいていの鶏は、餌や水のところへ行くのにどうしても必要なときだけ歩く。業界用語の「成長周期」の終わりごろ、つまり、食肉に処理される直前になると、鶏はほとんどの時間を座って過ごす。満足に歩けない鶏も多い。
 もっとも、脚の障害は、このシステムがもたらす健康上の問題の一つにすぎない。(『ファーマゲドン』より抜粋)

 こうした情報に接すると、ある疑問がわいてくる。それは、工業型農業で生産された食品は、果たして健全なものなのだろうか、というものだ。狭い場所に押し込められ、運動せずにひたすら高カロリーの餌を食べ、抗生剤と時には成長促進剤も投与される。もしこれが人間だったら、生活習慣病まっしぐらだ。当然、悪玉コレステロールもすぐに異常値になるだろう。

 実際のところ、工業型農業で生産された鶏は、伝統的な放し飼い方式で生産された鶏よりも、不健康であることが、ロンドンの「脳内化学物質と栄養協会」のマイケル・クローフォード教授のチームによって明らかにされているという。

 2005年、クローフォードのチームは、現代の鶏肉を分析した結果を発表した。それによると、今日のスーパーマーケットで売られている鶏肉は、1970年代の標準的な鶏肉に比べて、脂肪が3倍近く多く、タンパク質は3分の1しかないそうだ。結果として、現代の一部の鶏肉は、70年代の鶏肉より50パーセントカロリーが多い。クローフォードはまた、現代の肉用鶏はDHA(オメガ3脂肪酸の一種)を、「野鶏(野生の鶏)」の5分の1しか含んでいないことを発見した。
 クローフォードは、このような鶏肉の栄養価の著しい変化の原因は工場式畜産にあるとし、伝統的飼育方法では、鶏は活発に運動し、植物や種子を食べていたが、集約的に飼育された現代の鶏は、高カロリーの餌を与えられ、ほとんど動けないことを指摘した。(『ファーマゲドン』より抜粋)

 昔のほうが、同じ量の肉を食べたとしても、悪玉脂肪の影響は軽くて済んでいたのかもしれない。そのうえ、抗生剤や成長ホルモンを間接的に摂取することに対する懸念についても、頭の隅に置いておかなければならない。

 工業型農業は、国民に食料を安く供給するためよかれと思って始められたことなのだろうが、こうした現状を考えると、本当に正しい方向に進んでいるのだろうかと、疑いたくなってしまう。

 しかも、畜産業だけでなく、養殖業や農業でも、工業化によるひずみが、そこかしこに現れ始めていると著者は指摘する。それについては、次回紹介する。

(日経BP 沖本健二)

ファーマゲドン 安い肉の本当のコスト

著者:フィリップ・リンベリー, イザベル・オークショット
出版:日経BP社
価格:2,160円(税込み)

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