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唱歌と瞑想(めいそう) 年頭の「自分リセット」にお薦めのCD

2015/1/12

 新しい1年が始まったのを機に自ら「リセット」ボタンを押して何か、再出発したい。そんな気分を演出するのに適したディスクを2点、紹介しよう。

■モントリオールで生まれた新たな唱歌の音

 最初は童心に帰る。「七つの子」「早春賦」「赤い靴」「青い目の人形」「浜千鳥」など、何十年も歌い継がれてきた日本語の歌を集めたアルバム「唱歌~SHOKA」(カナダANALEKTAレーベル、日本の輸入発売元は東京エムプラス)。

CD「唱歌~SHOKA」のジャケット

 選曲は過去無数の録音と大差はないが、演奏者の顔ぶれが非常にユニークである。まずは管弦楽。日系米国人指揮者のケント・ナガノが音楽監督を務めるカナダのモントリオール交響楽団のために、フランスのグラミー賞受賞作曲家であるジャンパスカル・バンテュスに全く新しい編曲を依頼した。

 さらにドイツの高名なソプラノ歌手、ディアナ・ダムラウとモントリオール児童合唱団が驚くほどに美しく、ニュアンス豊かな日本語で歌っている。

 ナガノは「日本にルーツを持つ音楽家」として唱歌の価値を率直に評価する一方、「日本の家庭でも歌われる機会が減り、歌詞も忘れられつつある」との現状を残念に思ってきた。フランスの作曲家、カントルーブがオーベルニュ地方の民謡を管弦楽付きの歌曲に編曲し、世界へ広めた史実も踏まえ、バンテュスに「日本調のイミテーションではないオーケストレーション」を発注した。「日本人ではないのに、日本らしく振る舞っても意味はない」と、ケントはバンテュスへの注文の裏を明かす。

■ドイツ人ソプラノが日本語で名唱

 ダムラウの起用は偶然だった。

特訓の成果か、見事な日本語で歌うディアナ・ダムラウ(撮影=レベッカ・ファイ)

 「独唱者を誰にしようかと考えていた時、たまたま旧任地の独バイエルン国立歌劇場でR・シュトラウスのオペラ『無口な女』の主役を歌ったダムラウが目に留まった。確か妊娠7カ月くらいだったのに、舞台上の動きは驚くほどスポーティー。初めての子を授かった喜びにあふれていた。新しい命をみつめ『世界の子どもたちのためにあえて、日本語で歌ってくれないか』と持ちかけたら、即座にオーケー。熱狂的ともいえる姿勢で日本語の特訓に臨み、大切な詞の内容を明快な発音、深い解釈で伝えられるまでになった」

 児童合唱の指導は「もっと大変だった」という。「モントリオールは北米大陸におけるフランス文化の飛び地、ケベック州の州都だけに日本文化への関心は高く、唱歌プロジェクトへの期待も大きかった。早くから反響を呼ぶなか、現地の日本人会が子どもたちへの日本語指導に大きな力を発揮した」と、6年がかりの取り組みを振り返る。

ケント・ナガノとモントリオール交響楽団は2014年10月15日、福島県郡山市の郡山女子大学建学記念講堂大ホールで行った入場無料のチャリティーコンサートでも、バンテュス編曲の「唱歌」を演奏した(写真提供=kajimoto)

 2010年のモントリオール初演は大成功、「いつか日本でも演奏したい」と考えていた直後に東日本大震災が起きた。以後、ナガノは日本各地のチャリティーコンサートで様々な歌手を伴い、バンテュス版「唱歌」を演奏してきた。14年10月のモントリオール響日本公演ではアンコールに、歌なしの管弦楽で数曲を披露した。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の幻想が崩壊して四半世紀あまり。国際社会での自信を失いつつある日本人が国際楽壇での洗練を経て還流してきた唱歌の数々に触れる瞬間、不思議な力を授かる気がする。

■仏・日・中が一つの人格に融合した芸術

 もう1点のCDは、ずばり瞑想(めいそう)の時間をつくる画期的な音源。日本在住のフランス人で打楽器奏者、武術家、キャリアマネジメント専門家……と多彩な顔を持つフランソワ・デュボワが東京・目黒不動尊瀧泉寺の副住職、滝口康道執事長と組み、中国古来の瞑想養生法「六字訣(けつ)」に基づく響きを創造した。アルバム名は「ダイヴ・イントゥ・サイレンス」。メジャーレーベルの日本コロムビアから発売したのも驚きだ。

 元々はマリンバをはじめとする打楽器のプロ奏者および作曲家で、ツアー中に慶応義塾大学から作曲の指導に招かれたのを機に、本拠を日本へ移した。学生たちの相談に乗るうちにキャリアマネジメントの教師へと転身、社会人向けのデュボワメソッドを開発して、多くの著作を発表してきた。中国の武当山で修めた道教武術や瞑想の発想に基づき、西洋音楽の要素も加味した同メソッドは企業人にも支持され、各地でセミナーを開いている。

東京・目黒不動尊でマリンバを奏でるフランソワ・デュボワ

 「キャリアではなく『人生をつくる』との視点を得た今、再び演奏家・作曲家の立場から音楽と人間のハーモニーを究め、人々に愛とエネルギーを与えたいと考えた」

■中国古来の養生法に基づく6色の響き

 デュボワはアルバム制作の動機をこう語る。CD1枚あたりに20分前後の作品を3曲ずつ、六字訣に従って朱、翠、黄、白、藍、虹の6色の題名とともに収めてある。それぞれの色が心臓、肝臓、胃などの内臓と関係する。ひたすら単調な音が断続的に続いたり、僧侶たちの唱える声明(しょうみょう)が現れたり……。音像は極めてユニークだ。「アルバムを欧米の音楽関係者に贈ったら、賛否両論真っ二つ。ずいぶん友だちを失ったよ」と、デュボワは大笑いする。

 1日に何分間か、ただ聴き流すだけでも「慌ただしい日常に『空白の時間』を生み出し、自身の身体と対話することができるので、瞑想の効果は上がる」と、滝口副住職が言葉を添える。ためしにストレッチ体操をした後に1曲を選び、楽な姿勢で聴きながら目を閉じ、自分流に瞑想と思われる時間を過ごしてみた。なかなか面白い効果の上がるCDだ。

(電子報道部)

Dive into silence

演奏者:フランソワ・デュボワ
販売元:日本コロムビア

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