娘の成人式 「一瞬の輝き」にどれだけかける?
過大な投資?
「娘さんの成人式、いくらかかりました?」。20歳になる娘を持つ同僚が聞いてきた。「着物を含めて40万円ぐらいだな」。同僚の脳裏に不安がよぎったようだ。「おまけに着たのは一回だけ」。目を見開いて驚いている。
たった一度の成人式のため高価な着物を買うのもいかがなものか。5年前に成人を迎えた娘は、かつて妻が着た着物が気に入らなかった。ではレンタルで済ませればと妻に言うと「そうはいかないわよ」と首を横に振る。「友達の結婚式で着るかもしれないし、おばあちゃんもお金を出すそうだし」。冗談じゃない。義母に頼れば男がすたる。着付け、美容、写真代も含め、全部私が支払った。でも案の定、娘は友達の結婚式にはドレスで出掛けている。
振り返れば、20歳前から付き合った妻の成人式も結構カネがかかったようだ。一流ホテルの美容室で着付けをし、知り合いのカメラマンに屋外で何十枚も写真を撮ってもらった。かわいい娘への愛の表現だろう。「一瞬の輝き」に大きく投資する遺伝子は妻に引き継がれたようだ。
「ところで俺の和服、知らないか?」。妻に聞くと「さあ」。押し入れの奥にホコリだらけの衣装箱を発見したのは、ごく最近のことだ。
もっと輝ける…はず
「一瞬の輝き」がどんなに貴重かを男たちはきっと知らない。若いうちの輝きならばなおさら貴重だ。
振り袖は確かに30年以上もたんすの肥やしだ。振り袖どころか付け下げ、小紋でさえ眠り続ける。袖も通してもらえないのに、せっせと防虫剤の類いだけはあてがわれる着物たちもかわいそうなものだが、人にあげない限り、この先二度と日の目を見ない派手な柄の振り袖が、なんといっても一番かわいそうだろう。
でも、振り袖は一瞬の輝きに手を貸した。100の輝きを150くらいにはしてくれただろう。その功績は多分どの着物よりも大きいと思う。だから少々の投資をするのは、お金に余裕があるのなら「まあ、許せ」だ。
とはいってもウン十万円とは親も大変だ。その昔、私の父もため息をついたのだろうか。そして親のため息に値するだけの輝きを私は見せたのだろうか。大振り袖にふわふわ羽毛ショール、ばっちりメークできゃぴきゃぴはしゃぐ女子たちを見て、なんとなくもったいないように思う。きっとこの年齢になったからわかるのだろう。「どうせなら、内面も磨いた方がもっと輝けるのに……」。取り戻せないウン十年前の自分にそっとつぶやいてみたりする。
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