アート&レビュー

音楽レビュー

「tricolor」ライブ アイルランド音楽の奥に聞く日本の息づかい

2014/12/24

 中村大史によるアコーディオンや8弦のブズーキ。中藤有花が演奏するフィドルやコンサーティナ(手風琴)。長尾晃司が手にするアコースティック・ギターやバンジョー。どこか浮世離れしたたたずまいの3人は、思うままに楽器を持ち替えながら、きめ細やかに音楽を紡いでいく。彼らが手にする生理的にアコースティック感覚の強い楽器群を一目見ただけでも、tricolor(トリコロール)と名乗るこのグループが普通のポップ・ミュージックを演奏する集団でないことはすぐに伝わって来るだろう。

手作り感覚に満ちた曲を次々と演奏し、喝采を浴びたtricolorの3人

 三色を意味する言葉をグループ名に掲げたのは、メンバーそれぞれの色がいきいきと調和することを求めているのに由来するという。2009年に結成され、これまで3作のアルバムを発表してきた。

 そんなtricolorは、伝統的なアイリッシュ/ケルティック・ミュージックに対する共感を下敷きにしている。独特の味わいを持つフレイズの反復の様や心にすうっと入ってくる素朴なメロディー感覚は、アイリッシュ・ミュージックの持つ最たる魅力と指摘できるだろう。そして、3人の演奏もそうした美点を無理なく受け継ぐが、しなやかなtricolorの表現総体からはアイルランドの伝統音楽に対する単なる憧憬に終わらず、その先に自分たちの息づかいや生活観を開こうという意志を感じさせる。

 この晩、3人はオリジナル曲やアイルランドの伝承歌などを誠実なMCをはさみながら披露したが、それら手作り感覚に満ちた曲群は宙に舞うような感覚を抱えるとともに、ちゃんと地に足をつけたリアリティーのようなものも聞き手に与えた。その着地点はアイルランドではなく日本の日常にあった、そんな言い方もできるかもしれない。

連続テレビ小説「マッサン」の音楽を担当する富貴晴美(右端)と第4のメンバーともいうべき野口明生(右から4人目)を交え、「マッサン」の曲も演奏した

 冒頭で触れた楽器の持ち替えの様子が、3人の結びつきの強固さや、臨機応変に我が道を行く感覚を強調する。MCによれば、彼らは山梨県の小淵沢に5日間泊まり込み、来年3月中旬に発売する新作のレコーディングをしてきたばかりとのこと。メンバー間で微笑みあうような、演奏にある阿吽(あうん)の呼吸は、それゆえのものでもあったろう。この日は、レコーディングを終えたばかりの新曲ももちろん披露された。

 2部形式で行われた公演には、イーリアン・パイプ(アイルランドのバグ・パイプ)やホイッスル(同縦笛)を担当する野口明生と、ヴォーカルとピアノの中川理沙が曲によって加わった。いかにもケルト・ミュージック的な響きを3人の絡みに付加する野口はtricolorの情緒をより濃いものとし、普段はポップ・ミュージッックをやっている中川は3人が抱えるほのぼのした部分やポップ性を広げる。とくに、3分の1ほどの曲に加わった野口は新作のレコーディングにも参加しているようだが、tricolorの4番目のメンバーとも言うべき確かな味を加えていた。

左から長尾晃司(tricolor)、野口明生(ゲスト)、富貴晴美(ゲスト)、中藤有花(tricolor)、中川理沙(ゲスト)、中村大史(tricolor)

 tricolorの3人と野口は、ケルティック・ミュージックの要素も巧みに織り込んでいる、NHK連続テレビ小説「マッサン」の音楽にも演奏で参加している。そして、公演の第1部の終盤には、その「マッサン」の音楽を担当した人気作曲家の富貴晴美もピアノで加わった。おなじみの旋律がでてきて、場は華やぐ。そこでは、サウンドトラックが発売されたばかりの「マッサン」劇中曲が3曲披露されたが、印象的な曲想を持つそれらは、やはり観客から大きな反応を受けていた。実は、富貴と野口は音大の同級生で付属校時代からの知り合いであるという。

 映画「タイタニック」や舞台「リバーダンス」が人気を集めたことで、アイルランドをはじめとするケルト文化圏のトラッド音楽が日本で認知されるようになってから10年強がたつ。この晩のtricolorと知己たちの実演は、その受容がゆったりと市井水準で煮詰められていることも示していたのは間違いない。場内は立ち見が出る盛況であったことも付記しておく。12月13日、東京・吉祥寺「キチム」。

(音楽評論家 佐藤 英輔)

アート&レビュー