女性リーダー育成、スイスのビジネススクールに学ぶ
ギンカ・トーゲル・IMD教授インタビュー
企業の経営層を担う女性の不足は世界共通の課題だ。スイスに拠点を置くビジネススクールIMDは女性向けリーダーシッププログラムを主催し、女性幹部の育成で成果を上げている。同校のギンカ・トーゲル教授に女性リーダー育成の課題を聞いた。
――女性にターゲットを絞ったリーダー研究がなぜ必要なのか。
「IMDは経営幹部の育成を目的としたビジネススクールだ。毎年およそ100カ国から約8千人の経営幹部が短期プログラムなどで学んでいる。開校は1990年。女性向けプログラム『ストラテジーズ・フォー・リーダーシップ』は10年前に始めた。男性と一緒だと女性は自分を素直に出せず学習効果が小さくなる。そして何よりも女性と男性では学ばなくてはいけないことが違う」
「女性は両極端で、自信がなさ過ぎるか逆に過度に持ちすぎる傾向がある。経営戦術やビジョンはちゃんと立てられるのに、部下や周囲を鼓舞するように伝えるスキルは弱い。また人的ネットワークは作れるが、それを仕事でうまく活用できない。これらを集中して教えている」
――手本が少ないなか、女性はどんなリーダーを目指せばよいのか。
「よくある失敗は男性リーダーの立ち居振る舞いをまねすること。リーダーは部下に信頼されないと務まらない。同じ行動・思考をするにも自分で納得して、自分のものとして示さないと部下の信頼は得られない」
「女性がリーダーになるには2つの要素が欠かせない。1つは状況を的確に把握でき、自信にあふれて説得力を持っていること。もう1つが親切で暖かみがあり、面倒見が良いこと。男性は1つ目の条件を満たせばリーダーと見なされるが、女性はそれだけだと『嫌な女性』と評価される。この2つを兼ね備えないと現実には女性はリーダーと見なされない」
――評価軸が異なるとは女性が気の毒に思える。
「昨今のリーダーシップ研究では『変革型リーダーシップ』が有効だと指摘されている。従来型の『こうしなさい』『あれはどうなった』といった指示命令タイプではなく、理想的影響力(カリスマ)、鼓舞的動機づけ、知的刺激、個別配慮の4つを部下に及ぼせるリーダーだ。変革型リーダーシップだと部下のやる気を奮い立たせるので120%の成果を引き出すことも可能だ」
「先に挙げた2つの条件を満たすことは変革型リーダーシップを手に入れることに他ならない。もともと女性は誰かを助けたり、困っている人に共感したりするのが得意だ。変革型リーダーシップの素養は男性より女性に備わっている。いずれ男性が女性リーダーに学ぶ時代が来るだろう」
――日本人女性に固有の課題は。
「『ストラテジーズ・フォー・リーダーシップ』は4日間のプログラムで年2回開催。毎回約30人の女性が世界中から参加する。主に企業や行政のエグゼクティブ(意思決定層)の人たちだ。日本からも参加者が増えている。でも彼女たちはとても静かだ。1対1で話すと、すばらしい能力を持ち、よく考えているのだが、クラスでは発言や質問をあまりしない。前に出るのは女性らしくないとされる文化的背景が理由なのだろう」
「自分の能力に対する自信も低すぎる。例えば昇進意欲。国際的にも昇進意欲には男女差があると言われている。あるポストに就くのに100の能力が必要として、一般的に男性は60に達していればやってみようとするが、女性は100ないとそのポストを取りにいかないとされる。日本人女性は120ないと就こうとしない。謙虚さは日本女性の美徳かもしれない。でももう少し自信を持って売り込んでもいい。この問題を克服しないと日本で女性リーダーは増えない」
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育て指導層 大学も一役
日本の女性リーダー不足は深刻だ。国は2020年に管理職に占める女性比率を30%にする目標を掲げる。来春から企業は有価証券報告書で女性役員の数と比率を公表しなければいけない。日本でも女性リーダー育成が加速している。
関西学院大学は来年2~12月に「ハッピーキャリアプログラム女性リーダー育成コース」を開設する。文部科学省の委託事業だ。主な対象は女性管理職や役員候補者ら。平日夜間や土日に開講。管理職に必要な経営知識や組織マネジメント、意思決定力、リーダーシップなどを学ぶ。
企業派遣も積極的に受け入れる。受講者の上司向けセミナーも開く。すでに大手企業4社が女性社員の派遣を決めている。初年度の定員は12~15人、受講料は12万円(消費税別)。
福岡女子大学も文科省の委託を受けて来年5月に「イノベーション創出力を持った女性リーダー育成プログラム」を始める。問題分析・課題解決スキルなどを120時間かけて学び、組織で新規ビジネスを担える人材を育成する。定員30人、受講料は15万円(予定)。
関西学院大学の大内章子准教授は「日本企業は男女の配置転換に差があり、女性は職場内訓練(OJT)など学習機会が不足しがち。それを補えれば女性もリーダーとして育っていける」と説明する。(編集委員 石塚由紀夫)
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