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佐渡裕指揮ケルン放送交響楽団「ベートーヴェン『第九』」 「年末恒例」で終わらない本場ドイツの重厚な響き

2014/12/17

 「第九」ことベートーベンの「交響曲第9番ニ短調作品125《合唱付き》」が盛んに上演される年の瀬となった。日本のほとんどの管弦楽団がこぞって「第九」を演奏する。日本特有の過剰ともいえる現象であり、楽聖の生地ドイツでもそうした慣習はない。しかし今年は「年末恒例」に新鮮味を加える演奏会がある。佐渡裕指揮ケルン放送交響楽団の来日公演だ。3人のドイツ人歌手も伴って来日し、「第九」だけを合計10回も演奏する。本場ドイツの管弦楽団を佐渡がどう鳴らすのか。初日の12月11日の公演を聴いた。

「第九」演奏会でケルン放送交響楽団を指揮する佐渡裕(12月11日、東京芸術劇場)=写真 堀田 力丸

 「佐渡裕指揮ケルン放送交響楽団 ベートーヴェン『第九』」と銘打った来日公演は12月11~22日の日程で東京、川崎、大阪の主要ホールを巡り、「第九」のみを演奏する。クリスマスが近い季節に、ドイツの管弦楽団が「第九」という日本の年中行事に参加するためだけに来日するのは珍しい。ソプラノのスザンネ・ベルンハルト、アルトのマリオン・エクシュタイン、バスのアンドレアス・バウアーのドイツ人歌手3人も来日した。テノールは西村悟、合唱は東京オペラシンガーズと晋友会合唱団という日独混成の布陣だ。

 ケルン放送響は、ベートーベン生誕の地ボンと同じライン地方の中心都市ケルンに本拠を置く。特にガリー・ベルティーニが首席指揮者だった1983~91年にマーラーの交響曲群の演奏で名をとどろかせたドイツ屈指のオーケストラだ。それほどの管弦楽団がわざわざ「第九」激戦期の師走の日本にやって来た。なのに、初日の東京・池袋の東京芸術劇場コンサートホールでは、ステージに登場した楽団員らへの拍手がなかった。これも「第九」に慣れすぎたが故の状況か。気が付いた時には楽団員の音合わせが始まっていた。佐渡が出てきた時に初めて拍手が巻き起こった。

 なぜケルン放送響なのか。「2010年12月31日のジルベスターコンサートの指揮で呼ばれたのが最初の出合い」と佐渡は言う。「どんな演目にも対応できる柔軟性を備え、スピード感と色彩感があり、機能的なオーケストラだと思った」と当時の感想を語る。若杉弘が首席指揮者を務めたり、宮本文昭が首席オーボエ奏者だったりした時代もあり、日本と縁が深い。しかし今回の来日につながる佐渡との縁は、東日本大震災から15日たった11年3月26日の「第九」で生まれた。これは大震災の被災者支援のために、日本人居住者の多いデュッセルドルフで開催されたチャリティー公演だ。ケルン放送響とデュッセルドルフ交響楽団が「合同で第九を演奏したい。指揮台に上がってくれ」と佐渡に要請してきた。このチャリティー公演では今回来日したソプラノのベルンハルトも歌った。

佐渡裕指揮ケルン放送交響楽団、東京オペラシンガーズ、晋友会合唱団らによる「第九」演奏。独唱の4人は合唱団の最前列に並ぶ(12月11日、東京芸術劇場)=写真 堀田 力丸

 こうした震災時の物語を別にしても、本場ドイツの管弦楽団が年末に日本で「第九」を演奏したらどう聞こえるか、興味がそそられる。「第九を指揮した回数は軽く150回を超える」と佐渡は話すが、日本でもプロの合唱団を起用して本格的に演奏する機会はそう多くない。「最高の布陣による第九を聴きたい方々に届ける」と佐渡が言うように、年中行事とは一線を画し、「第九」本来の魅力を改めて見つめ直す機会といえる。最も人気のある交響曲だけに、「軽く150回」以上はCDや演奏会で聴いている客も多いはずだ。聴き手にどれだけ新鮮味を届けられるか。

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