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カール・オルフ作曲「カルミナ・ブラーナ」 現代ロックにも通じる人気曲、3指揮者の演奏で聴き比べ

2014/11/22

 ドイツの作曲家カール・オルフの世俗的カンタータ(交声曲)「カルミナ・ブラーナ」がこの11月、東京で相次ぎ上演された。パターン化された音型を繰り返すオスティナート(執拗反復)の手法を多用し、全編にわたって緩急の鼓動が宿る生き物のような音楽。ロックやクラブミュージックにも通じる管弦楽伴奏付き合唱曲を西本智実、中島良史、宮本文昭のそれぞれの指揮による3公演で聴き比べた。

オルフの「カルミナ・ブラーナ」を指揮した西本智実(11月14日、東京・渋谷のオーチャードホール)=写真 三浦 興一、提供 東急文化村

 11月14日、東京・渋谷の東急文化村で開かれた「西本智実指揮イルミナートフィルハーモニーオーケストラ オーチャードホール定期演奏会第1回」。西本自身が組織して自ら芸術監督と首席指揮者を兼ねるイルミナートフィルと同合唱団による演奏会だ。日本の女性指揮者の筆頭格として西本の知名度は極めて高い。従来のクラシック音楽ファンにとどまらない人気ゆえに、お手並み拝見、という冷ややかな見方もされがちだ。平日金曜日の大ホールは満席とは言えない客入りだったが、彼女がどんな「カルミナ・ブラーナ」を聴かせるのか、会場には緊張した空気が漂っていた。

 「カルミナの演奏時間は約1時間。ちょっと短いから、もう1つ、自分の曲をお聴かせします」と西本は言っていた。その自作曲「天の岩戸伝説〈ヘブライからの風〉」から始まった。日本の時代劇風の笛の音が鳴り響き、「ひふみよ」の数え歌を合唱団が歌う。西本はロシアでの指揮活動で知られるが、「もともとはドイツ歌曲が好きだった。歌の言葉に関心がある」と言う。「8年前からヘブライ語を勉強し始め、ひふみ歌がヘブライ語起源ではないかと思った」のが作曲のきっかけという。ひふみ歌がヘブライ語のような不可解な音声と重なっていく。カルミナへの地ならしとして言葉の響きに関心を持たせる約10分間だった。

映像デザイナーの大野一興の動画が映し出される西本智実指揮イルミナートフィルハーモニーオーケストラとイルミナート合唱団、TOKYO FM少年合唱団らによる「カルミナ・ブラーナ」公演(11月14日、オーチャードホール)=写真 三浦 興一、提供 東急文化村

 そして独唱者も登場して「カルミナ・ブラーナ」が始まった。南独バイエルン州のベネディクト会ボイレン修道院で発見された古ラテン語や中高ドイツ語などによる11~13世紀の詩歌集からオルフが24編を選び、作曲した。うち1曲はオルフの自作とされるが、中世の詩歌集にオルフの書いた詩があるはずもなく、妙な言い方だ。実はそれは6曲目の「ダンス(舞踏歌)」であり、全編を通じて唯一、歌のない管弦楽曲なのである。ただしこの「ダンス」に原典テキスト番号無しの歌われない短い詩が付いている邦訳もある。9曲目の「輪舞」は2編の詩が組み合わされているため、オリジナルの詩はやはり24編ある。冒頭の「おお、運命の女神よ」の合唱は最後にも登場するので、この繰り返しを含め全25曲のうち24曲が歌われる。

 この「24」が意味ありげだ。「24時間」から時計の針の進行を連想させる。しかも最後の「運命の女神」は「ダンス」も含めれば25曲目に位置する。時計が1日あるいは1時代を回り、また最初から始まる。執拗反復の曲調と相まって生命の営みが何世代にもわたって繰り返されるイメージだ。全25曲は序曲風の「運命の女神(フォルトゥナ) 世界の支配者」の2曲、第1部「春に」の8曲、第2部「酒場で」の4曲、第3部「愛の法廷」の10曲に分かれる。そして再び「運命の女神」の1曲目だけをもう1度繰り返して終わる。

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