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平安貴族の色彩コーディネート 「かさね」で深み

2014/11/13

 太陽に由来する日本の色は、身にまとうことでその豊かさと深みを増していった。十二単(ひとえ)に代表される、かさね色目の世界だ。
吉岡さんの工房の絹布。午後の日差しを浴びて五彩に輝いていた(京都市伏見区)=写真 編集委員 竹邨章

 清少納言の「枕草子」の中に、世の中の「すさまじきもの(興ざめするもの)」の例として「三四月の紅梅の衣」を挙げるくだりがある。

 紅梅はまだ雪が舞う早春に咲く花で平安時代にはとても人気があった。紅梅色に染め上げた絹の衣は、平安貴族にとって、いわば春先の必須アイテムになっていた。とはいえ、季節外れの3、4月まで続けて着るようでは美的センスが疑われる、と清少納言は言っているわけだ。

暮らしに季節の配色

 平安の貴族は女性も男性も、移ろう季節の色を敏感にファッションに取り入れて楽しんだ。服飾だけでなく、几帳(きちょう)などの内装から手紙などの日用品まで、実際の自然の彩りを手本にして配色に工夫した。

 彼らが考案した最も高度な配色パターンは「かさね色目」と呼ばれる。かさね色目には2つの意味がある。第1に、季節の色に染め上げた薄い絹布を2枚使い、1枚を表地、もう1枚を裏地にしてまとう。薄いので表からも裏側の色目が透けて見え、繊細な美しさを醸し出した。

 例えば、清少納言が書きとめている「紅梅の衣」でいえば、表側には紅梅の絹、裏側には蘇芳(すおう)という植物から得た黒みを帯びた赤の絹を使った。蘇芳が表に透け、深い味わいが出るように演出した。

蘇芳(すおう、左上)紅花(同下)など様々な植物染料が並んでいた(京都市伏見区)

 さらに、もう1つの意味のかさね色目も考案された。何枚も絹の衣をかさね着する際に、内側から外側にいくにつれて色が淡くなったり、別の色に変わったり、色彩が移ろうように工夫した。

 例えば「紅梅の匂(におい)」と呼ばれるかさね色目の場合、緑色の単衣(下着)の上に濃い紅梅の衣をまとい、その上にやや濃い紅梅、普通の紅梅、やや淡い紅梅とかさねて、紅梅のにおいまで伝わってくるような配色美を競った。この意味のかさね色目も四季の移ろいに合わせて数多く考案された。

 彼らのカラーコーディネートの根底にあるのは、自然賛歌の心だ。無数の色彩が繊細に調和している自然を範とすることで、暮らしの色彩も端正にまとめられた。

伝統に潜むモダン

 世界各地の色彩文化に詳しい共立女子大学名誉教授の城一夫さんは「これほど豊かに自然の色を再現してめでた文化はほかにない」と話す。

 染色家の吉岡幸雄さんは、往時の技法で植物染めを復活させるとともに、かさね色目についても文献をもとに絹衣や和紙を使って再現してきた。

 例えば、次の写真は、菊をテーマにかさね着する「菊のかさね」の一部。左から、着色していない生絹(すずし)に続き、ススキに似た植物の刈安で染めた黄色の絹、そして日本古来の藍の一種である蓼藍(たであい)と刈安で染めた濃淡の絹を組み合わせている。

4色の絹布とは思えない様々な色を表現する「菊のかさね」

 こうした配色の妙は現代に生かすこともできそうだ。東京・銀座に昨年、アパレル大手のファイブフォックス(東京・渋谷)が開いた専門店「コムサステージ銀座店」は、地下のカフェレストランに、かさね色目を連想するテーブルクロスを採用した。

 吉岡さんの工房が植物染めで仕上げたクロスで黄、橙(だい)、赤、紫とテーブルの順に色が異なり、モダンな空間に変化を与えている。多彩な色を楽しむ時代だからこそ、古人の知恵に学ぶものはありそうだ。

〔日経アートレビューは毎月第二木曜日の朝刊紙面に掲載します〕

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