ジブリを出た宮崎吾朗、武者修行先はNHKアニメ
日経エンタテインメント!
NHKのBSプレミアムで2014年10月11日から放送が始まった、宮崎吾朗監督の『山賊の娘ローニャ』。NHKのテレビアニメシリーズは、1978年に宮崎駿初監督作の『未来少年コナン』から始まった歴史があり、その息子の吾朗監督による初のテレビシリーズとして注目されている。
しかし、制作はスタジオジブリではなく、『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』などを手がけたポリゴン・ピクチュアズ。3DCGを得意とし、「手描きのジブリ」とは対極ともいえるスタジオだ。制作・著作はNHKと、「ニコニコ動画」などのネットサービスを提供するドワンゴ。この異色の組み合わせは、どういう経緯で始まったのか。
NHKが宮崎吾朗監督を指名
発端は、NHKの有吉伸人プロデューサーだ。もともと『プロフェッショナル 仕事の流儀』でジブリのドキュメンタリーを手がけてきた同氏は、NHKのアニメを制作するNHKエンタープライズに出向した際、「親子で見られる番組を強化したい」という局の方針から、自分が子どもの頃に見ていた『アルプスの少女ハイジ』(1974年)のような良質な児童向け作品を志向していた。
そこで「一番見たいのは吾朗監督」と、ジブリの鈴木敏夫プロデューサーにダメ元で打診したのが、2012年春のことだった。
劇場用アニメがメーンで、日テレとの関係も深いジブリだけに通常ならあり得ない提案だが、折しもジブリでは吾朗監督の次作を模索中だった。ドワンゴの会長のままジブリに入社、今作でプロデューサーを務める川上量生氏は、「当時の吾朗監督は悩んでいた」と言う。
吾朗監督が"武者修行"で得られるもの
『コクリコ坂』で興行収入44.6億円と結果を出しても、宮崎駿の息子という呪縛から逃れることはできない。吾朗監督は鈴木敏夫プロデューサーから、「ジブリにいる限り宮崎駿の影響下なのだから、1回武者修行を」と、外部で監督することを提案されていた。そこに有吉氏からの企画が舞い込み、「鈴木さんと僕の2人で何度も吾朗さんを説得して」(川上氏)、過去に映画化を検討したリンドグレーンの児童文学『山賊の娘ローニャ』を制作することとなった。
川上氏は「吾朗監督は過小評価されている」とその才能を評価する。有吉氏も、「監督はお父さんのアニメーションを特別な思いで見て育ってきた。そのセンスや世界が彼の中に凝縮されていて、それが作品に新しいものとして出されていくと思う」と期待をかける。
吾朗監督は、武者修行で何をジブリに持ち帰るのかという質問に対し、「ジブリに帰れるのかなぁ」と笑いながらも、「自分が体験した子育てへの共感も込めて、家族そろって楽しかった、笑えたねという作品になれば。(ジブリになかった)3DCGについて学んで、(ジブリに)生かしたい。また、若いスタッフと作れるのもモチベーションになっている」と、良い武者修行になっている様子を見せた。
予算や制作期間などの規模も大きく、海外販売も視野に入る。土曜夜7時という放送時間も、期待の大きさを物語っている。『コナン』が宮崎駿のその後の活躍につながったように、『ローニャ』も吾朗監督の転機となるか。まずは作品で確認したい。
(ライター 波多野絵理)
[日経エンタテインメント! 2014年11月号の記事を基に再構成]
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