そろいのライダー装備 なりきり戦隊「コミネマン」
ピーク時に比べ8分の1にまで落ち込んだ国内二輪車市場において、新たなバイクの楽しみ方が生まれている。面白おかしい写真を撮ってインターネット上で公開するという変わった目的のために、集団でツーリングするのが一例。軸となるのは老舗バイク用品メーカー、コミネ(東京・葛飾)の装備の愛用者を意味する「コミネマン」だ。
コミネ製品を身に着ける
「参加資格:コミネマンノーマル以上」――。ネットでの告知に応じ11日朝、宮ケ瀬湖(神奈川県愛川町)には20~50代のライダー5人が集結した。「ノーマル」とは仲間内の造語。上はヘルメットから下はブーツまで多様な装備を扱うコミネ製品のうち、ジャケットかパンツどちらかを身に着けていることを指す。
隊列を組み、いざ出発。風を切って走る爽快感を味わい、切り立った岩肌や色づき始めた木々といった山間の大自然を堪能するのはツーリングそのもの。休憩時には「こんなオイルクーラー初めて見たよ」「この収納、自作なんです」とバイク談議も普通に交わす。大きく異なるのは、この日のメーンイベントが写真撮影であること。
コラージュして「ネタ画像」に
ネットで公開し、写真をコラージュした「ネタ画像」に仕上げてもらうためだ。遅くとも2~3年ほど前には誕生していたとみられるコミネマンという呼称に起因する。連想されるのは、特撮の「ヒーロー戦隊物」の「○○マン」シリーズ。武骨なライダースーツに身を包み、ヘルメットもかぶった姿は、確かにヒーローがまとうコスチュームにも似ている。
そのため戦隊物になぞらえてポーズを決めて写真を撮ったり、その写真にコミネマンのロゴや背景をコラージュしたりしてネット上で披露し合う流れが誕生した。撮影場所も戦隊ヒーローが悪役と戦う定番の採石場に似たロケーションを探すほど徹底している。参加者の大半はネットに慣れ親しんだ30代が占める。
巨大掲示板サイトで告知された初の催しでは、5月の大型連休中に6人が集まった。この時の参加者で、今回は主催者にもなった、すずどざさん(ハンドルネーム、35)は「ネタ的な面白さから参加したいと思った」と振り返る。この日は「新しいネタ素材を追加したい」とブログやツイッターで2回目の催しを告知。自らがよく走る神奈川や山梨の道を、入念に下調べして走行ルートを選んだという。
「ポーズをとったとき、波長が合った」
山道を分け入った隠れスポット的な滝や、富士山が見える山中湖で撮影を実施。「見栄えの良い場所を選んだ」とすずどざさん。「伸ばす足の方の手をこう動かして」など会話を交わしながらポーズを考案し、「バイクをきれいに並べて撮った方がいいんじゃない」と構図のアイデアも出し合う。
各自の愛車は「ヤマハ」「カワサキ」「スズキ」、外国車ありとてんでんばらばら。排気量2000ccという重戦車で駆け付け度肝を抜いた参加者もいた。共通しているのはコミネの装備だけ。だが、その一点で十分に一体感が生まれる。
56歳男性は「ネタ画像のセンスの良さにひかれ、興味を持った。手伝いがしたい」と参加理由を語った。「今朝まで知らなかった人が集まって一つのことをやる達成感がある」「ポーズを取った時に、なんとなく皆の波長が合った」と充実した表情。
普段から神奈川周辺をよく走るという37歳男性は「滝があるなんて知らなかった。新しい発見があった」とツーリング自体も楽しめた様子。撮影の方も「バイクを使って、体を張って楽しいことができた」と笑顔を見せていた。
用具の頑丈さは折り紙つき
この日は日中に仕事があり、集合時にだけ顔を見せた男性は「コミネマンが乗っています」というネタステッカーを自作して配布していった。素材(写真)を作る人がいて、コラージュする人がいて、ステッカーを作る人がいて――。自然発生的な共同作業も醍醐味の一つだ。
コミネ企画部の阿知波直哉課長は「全身そろえられる幅広いラインアップと、若い人にも手が届くコストパフォーマンスの良さでファンになるのでは」と分析する。用具の頑丈さは、警視庁から「プロテクター普及推進隊」を正式に委嘱されるほどの折り紙つきだ。安全性を第一に追求しているためどこかスタイリッシュではない点も、かえって親しまれる要因となっているようだ。(中川淳一)
[日経MJ2014年10月15日掲載]
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