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名手ホリガー、新鋭シュッツのリサイタルより オーボエの「神様」とフルートの俊英の今を聴く

2014/10/16

 欧州の木管楽器の名手が9月、都内で相次ぎ単独公演を開いた。一人は演奏史上最高のオーボエ奏者と評されるスイスのハインツ・ホリガー(75)。もう一人はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席フルート奏者、カール=ハインツ・シュッツ(39)だ。作曲家と指揮者も兼ねる「オーボエの神様」と、人気上昇中の「フルートの俊英」。それぞれの“笛の響きの今”を確かめた。

「オーボエの神様」ことハインツ・ホリガー(9月28日、武蔵野市民文化会館小ホール)=(C)林 喜代種

 9月28日、武蔵野市民文化会館小ホール(東京都武蔵野市)で開かれた「ハインツ・ホリガー オーボエ・リサイタル」。最近は作曲家や指揮者としての評価も高まり、今回の来日でも新日本フィルハーモニー交響楽団と協演し、自作やマーラーの「交響曲第4番」などを指揮した。ホリガーは日本の現代音楽をけん引する作曲家の細川俊夫と親交があり、作曲家としての自負も強いようだ。それだけにソロの公演は貴重である。1961年に難関のミュンヘン国際音楽コンクールで首位を獲得して以来、世界が注目し続けた彼のオーボエの響きを現代進行形で確かめられるからだ。

 ソロ公演はシューマンやサン=サーンスらのオーボエの定番曲を網羅したプログラム。巨匠の吹く一音たりとも聴き逃せない。いきなり定番中の定番、フランシス・プーランク(1899~1963年)の遺作「オーボエとピアノのためのソナタ FP185」から始まった。今年初め、妻でハープ奏者のウルスラ・ホリガーさんを亡くした。1曲目に遺作を持ってくるところに巨匠の心境を察して余りある。ホリガーは黒のスーツに黒のネクタイを締めている。

オーボエを吹くハインツ・ホリガー(右)とピアノのアントン・ケルニャック(左)(9月28日、武蔵野市民文化会館小ホール)=(C)林 喜代種

 ピアノはホリガーとの協演が多いアントン・ケルニャック。9月に出たホリガーの最新CD「灰の音楽 シューマン&ホリガー:室内楽作品集」でもピアノを弾いている。プーランクの遺作の第1楽章は「エレジー(悲歌)」と名付けられている。最初のオーボエ独奏の緩やかな3つの音が震える。オーボエは単音しか出せない楽器だ。にもかかわらず、彼が吹く単音の周囲には早くも豊かな倍音が鳴り響いているのだろう。芯が強いのに広がりのある響きだ。

 ピアノとの二重奏になってからの旋律は明るいが、枯淡の味わいがある。緩急と強弱が繊細に施され、ピアノのテンポとの間で揺らぎが生じる。明るい表情の長調の旋律でも、悲しみがさりげなくしみじみと伝わってくる。強い音になった時の半音階的な旋律ではトランペットを鋭く研ぎ澄ましたような音色になる。

 特に印象深かったのは第3楽章の「嘆き」だ。東洋的な無常観さえ漂う単旋律の孤独な響き。最後の1音では、オーボエを押さえるホリガーの指先が、ひそかに力を込めるように、震え続けていた。

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