「妖怪ウォッチ」「アイカツ!」 親子共感で大ヒット
日経エンタテインメント!
『妖怪ウォッチ』『アイカツ!』――。子ども向けエンターテインメントのビッグヒットが相次いでいる。話題を巻き起こしている2作品の魅力を研究するとともに、ビジネス成功の要因を探った。
『妖怪ウォッチ』は『ドラえもん』『ポケモン』に次ぐ定番最有力
昆虫採集に出かけた主人公のケータは、迷い込んでしまった神社で妖怪のウィスパーから、不思議な腕時計を渡され、その力で妖怪が見えるようになる。日常で困ったことを引き起こす妖怪たちを説得し、時にはバトルしながら友だちになっていく――。
昨今、子どもたちの心をとらえて離さないヒット作となっているのが『妖怪ウォッチ』だ。ゲームやアニメ、玩具など幅広く展開しているのが特徴で、ゲームの最新作『妖怪ウォッチ2元祖/本家』は販売200万本以上、腕時計を模した玩具やニンテンドー3DS用のゲームと組み合わせて遊ぶメダルは3200万枚を出荷。グッズを求めて行列ができるなど、社会現象といえる大人気ぶりだ。
現在、キッズ向けで世代を超えた"定番"といえる大型コンテンツは、実は2つしかない。1969年にマンガ連載がスタートした『ドラえもん』、1996年にゲームが発売になった『ポケットモンスター』だ。そこへ、『妖怪ウォッチ』が久々に新たな定番として、名乗りを上げたというわけだ。では、このブームは定着し、3つめの定番の地位を確立できるのだろうか。
『ポケットモンスター』以降、キッズ向けの定番作品となるべく挑んだコンテンツがなかったわけではない。10年ほど前にはゲームメーカー、セガが手がけた男児向けの『甲虫王者ムシキング』、女児向けの『オシャレ魔女♥ラブandベリー』がいずれも当時のキッズたちの支持を集めた。カードゲームからスタートし、テレビアニメや映画、マンガなどのメディアミックスを展開。しかし、それぞれのストーリーや設定が統一されておらず、中心はあくまでもゲーム。相互にファンを増やしてすそ野を広げるには至らなかった。
アニメでヒット規模が拡大
一方、妖怪ウォッチは、『レイトン教授』や『イナズマイレブン』などを生み出した、ゲームメーカーのレベルファイブ発ながら、「ゲームが中心ではない」(全コンテンツを統括する日野晃博代表取締役社長)のが、過去のキッズ向けコンテンツとの最大の違いだ。
『妖怪ウォッチ』が世に出たのはゲームではなく、より安価に入手でき、幅広い子どもの目に触れる2012年12月の『月刊コロコロコミック』でのマンガ連載から。その約半年後の2013年7月にゲームの1作目が発売となり、2014年の1月にスタートした地上波アニメが、ヒットの起爆剤となった。アニメで初めて作品を知り、ゲームで遊んだことはないが、『妖怪ウォッチ』が大好きというキッズも多い。
また、どのメディアも、子どもたちが日ごろの悩みを「妖怪のせいだから、気にすることはない」と明るく前向きに捉えられる設定は同じで、どこから入っても楽しめる。さらにアニメでは昭和テイストのコメディー色を強め、より親子で楽しめるようなアレンジを施したことでお茶の間での人気を決定づけた。
こうして半年ごとに山場を作る時間差の仕掛けで『妖怪ウォッチ』への入り口を増加させ、各メディアから相互にファンを増やし、人気は右肩上がりとなったのだ。
この現状を、「ゲームが原作だと思われないことは、当初から想定していました」と日野氏は受け止める。ゲームメーカーが陥りがちな「本編はゲームで、他のメディアは派生コンテンツ」という展開に捉われない、柔軟な発想がヒットに結び付いたのだ。
今後、『妖怪ウォッチ』の人気が確固たるものになるには、もうひとつ乗り越えなければならない壁がある。劇場版のヒットとその常設だ。映画は公開時にテレビをはじめとして宣伝攻勢をかけるため、一般層への認知が跳ね上がる。『ドラえもん』は春、『ポケットモンスター』は夏に毎年新作を公開してリピーターを確保、ビジネス規模を拡大してきた。『妖怪ウォッチ』はこれら2作と時期が重ならない冬休みに公開時期を設定、2014年12月に劇場公開を予定する。映画の成否が、ブームが完全に定着するかどうかの最後のハードルになる。
『アイカツ!』は立ち上げ翌年に売上159億円へ
女児向けで今、圧倒的な人気を誇る『アイカツ!』。ファッションをテーマにしているのが特徴で、2012年10月、カードで遊ぶキッズアーケードゲーム「データカードダス」、アニメ(制作・サンライズ)、少女マンガ誌での連載(出版・小学館)を同時始動。2013年度には、バンダイナムコグループの関連売り上げは159億円を記録し、一大市場を作り上げた。
企画の発端は、バンダイの「女児市場のボリュームアップ」(カード事業部の廣瀬剛リーダー)という考えから。ファッションアイテムが描かれたカードをゲーム機に読み込ませ、コーディネートやオーディション(リズムゲーム)で競い合う仕組みを作り上げた。成功の決め手は、男児向けコンテンツでの成功事例の起用と、女児ならではのリアルさだったという。
「勝負の白黒をつけるなど、女児向けになかったゲーム性を導入。また、ターゲットの小学1~3年女児が年齢的にリアル志向になってくるのに合わせ、憧れの職業として身近になっていたアイドルを題材としました」(廣瀬氏)
カードに落とし込む際、女児モノで鉄板の"オシャレ"という要素を追加。コーディネートの多様さで付加価値を出し、商品カテゴリーなど細かく気を配った。2013年2月、ゴスロリ風ブランド「LoLi GoThiC」の投入で飛躍的にユーザー数を伸ばしたという。
世界観の作り込みと同時に、現実世界とのリンクも作った。アニメと連動してAKB48の総選挙などをほうふつさせる「アイカツ8」といったゲーム内での期間限定オーディションを継続的に行い、文具やお弁当などアニメに出てくるアイテムを次々と商品化した。
メインターゲット以外の取り込みも当初から考え、「どこから入っても楽しめるよう、3つの柱(データカードダス、アニメ、マンガ)のほか、3DSソフトやスマホ用玩具の展開、イベント、Web施策も積極的に行った」と言う。
これらが功を奏して、ユーザーの8割を占める女児に加え、女子高生や女児のお母さん、さらには"アイカツおじさん"と呼ばれる大人男性まで取り込むことができた。
初の劇場版の成功がさらなる飛躍のカギに
2014年10月から、データカードダスは3年目の2015シリーズ、テレビアニメ第3期もスタート。データカードダス2015シリーズでは、ネットワーク機能をさらに強化。全国各地の子どもたちと一緒に競える楽しみ方を加えた。
同年12月には、初の劇場版を公開。配給の東映は、今年10周年を迎えた『プリキュア』シリーズを成功させた実績がある。映画化はコンテンツのロングヒットの指標で、一般層への宣伝効果が期待できる。興行の成功が、さらなる飛躍のカギとなりそうだ。
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(日経エンタテインメント! 伊藤哲郎、平島綾子)
[日経エンタテインメント! 2014年10月号の記事を基に再構成]
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