まるで忍者! 跳びはねる「パルクール」人気
十数段の階段を手すりを越えて飛び降りたり、人の高さほどある柵を跳び越えたり――。まるで忍者のように動き回り、障害物を軽々と飛び越えるスポーツ「パルクール」が人気を集めている。20~30代の男女が「格好良さ」に憧れて始めているだけでなく、子供向けのパルクール教室も盛況だ。
講習会盛況、女性の参加者増える
9月中旬の午後9時すぎ。東京都中央区内の公園で目にしたのは散歩をしていた人たちが思わず振り返ってしまうほどの奇妙な光景だった。
20~30代の男女4人が高さ1メートルほどの鉄パイプ製の長さ15メートルほどの手すりの上を一列になって歩いている。「パイプから落ちそうだよー」。足立麻由美さん(28)は恐る恐るパイプ歩行に挑戦。何度もパイプから落ちながらも、5分ほどかけてようやく15メートルを歩ききった。足立さんが取り組んだパルクールの練習は、「スタンドウオーク」と呼ばれる。バランス感覚を磨くことが目的だ。
1回の練習時間は60分。内容はユニークで、両手足を使ってネコのように鉄パイプを渡る「キャットウオーク」などこの日は5種類の技を練習した。
主催団体はトウキョウパルクールアカデミー(東京・世田谷)。3年前から毎週練習会を開いているが、コーチの佐藤惇さん(23)は「3年前より女性の参加者が増え、見学の問い合わせ件数も今は3倍以上だ」と話す。高校生以上から参加でき、会費は月4千円。
30代の男性会社員は1年半前から練習に参加。きっかけは米歌手マドンナのプロモーションビデオで使われたパルクールに感動したこと。今では「趣味のスキーよりもスリルが味わえる」とすっかりはまっていた。
佐藤さんによると、パルクールは「歩いたり飛んだりすることを想定外の環境で実践するスポーツ」だ。日本では主催団体が20ほどで、参加者は400人程度。パルクールの動作の俊敏さが「かっこいい」と若者たちをひき付ける。
軍事訓練が始まり 映画にも登場
パルクールの始まりは、20世紀前半に発達したフランスの軍事訓練。元海軍将校がアフリカを旅行中、自然の中で生活する現地の人々の高い身体能力に驚いて、障害物コース形式の運動方法として訓練に採用したという。1980年代にダビッド・ベルら9人の若者がパルクール集団「ヤマカシ」を結成し、広く知られるようになった。
9月6日に公開されたアクション映画「フルスロットル」もパルクールのシーンが数多く登場。警察官と市民が一緒になってギャングを捕まえるというストーリーだが、市民が相手の体を蹴って宙返りするシーンなどが話題だ。「20~30代女性を中心に客入りも順調」(配給会社のアスミック・エース)という。
跳び箱使って子供も体験
子供向けにパルクールをアレンジして指導する団体もある。
「わーい、できた!」。9月上旬、仙台市立荒町小学校の体育館。6年生とその保護者ら計160人が子供向けのパルクールに取り組んでいた。
約1メートル間隔で置いた大小10個ほどの跳び箱を跳ぶゲーム。20秒のうちに何個の跳び箱を飛べるのか競い合う。跳び箱にはお尻をついてもよいが、跳び箱が斜めにも置かれていて、跳び箱のどこに手足をついて跳ぶか瞬時の判断が求められる。
最初は不安げな子供も10分もたてば慣れてくる。浅野美羽さん(12)は「運動はそんなに好きじゃないけど、このゲームは自分で考えながら跳べるのが楽しい」。
企画したのは指導団体の仙台エクストレイン。「パルクールが子供の身体能力の向上につながる」という代表の石沢憲哉さん(27)は、安全な指導方法の確立が必要だとして同団体を2013年に立ち上げた。昨年から保育所でパルクールを教えている。
信州大学の渡辺敏明准教授(スポーツ運動学)は「子供の身体機能を高める上で重要なことは、それぞれの子供の体格にあった体作りの実践。パルクールは自分で考えながらベストな体勢を取ろうとする点で、子供の身体能力を最大限に引き出せる運動」と見る。パルクールに取り組むことで転びにくくなった子供もいる。
「あんな超人技、自分にはできない」と思われがちなパルクールだが、実は地道な練習を積んでいけば"超人"に近づける。忍者のような身のこなしができるようになるのも、夢ではないかもしれない。(杉浦恵里)
[日経MJ2014年10月3日掲載]
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