その名も「絵かき虫」 草ボウボウの庭に潜む芸術家
コスタリカ昆虫中心生活
この模様を描いたのはだれ…。
答えは「絵かき虫」と呼ばれる、葉に潜る小さな虫たち。大半が5ミリにも満たない蛾(が)やハエの仲間の幼虫で、その食べた跡が芸術性の高い模様になったりする。わが家の庭で発見する新種の昆虫の多くは、そんな小さな芸術家たちだ。
飼育や執筆などに追われ、家に引きこもりがちな日々は、わが家の庭が大切な研究フィールドになる。手入れをせずに放っておくと、風や鳥たちが種を運んできて、どんどんいろんな植物が生えてくる。そしてそこに、いろんな虫たちが集まってくる。
ところが問題は大家さん。「できるだけ頻繁に庭師に手入れを頼むように! 原野みたいでみっともない」と、ぼくに会うたびに注文をつける。そのたびにぼくは、「庭で新種の昆虫を見つけて研究しているから、そのままにしておかないといけないんです」と反論してきた。実際そうである。
治安面の理由もある。外からは、庭師に手入れを頼めないほど貧しい家に見えるので、泥棒に入られにくい(実際に貧しいです)。
それなのに…この春、日本への一時帰国から戻ってきたら、庭の草木がきれいさっぱり刈られていた。あれだけ言ったのに…。
しかたがないので、一から庭を放置した。今は野イチゴも収穫できるほどの以前より立派な草ぼうぼう庭フィールドになってきた。
雨雨雨でお祭り騒ぎなのは?
一匹のナメクジ(中南米には、ナメクジやカタツムリに「コスタリカ住血線虫」がいる場合があるので、少し気をつけないといけない)が、最近シャワールームにすみついた。タイルに猛烈に生えるカビを食べているようだ。お掃除ありがとう~。排水溝に流されたりしても、次の日にはまた定位置にいるので、愛着がわいてきた。なんかペットのようだ。
5~11月ぐらいまでが雨期のコスタリカ。でも、9~10月は同じ雨期でも格が違う。これまでなら朝は快晴、午後になってスコールのような雨が降ってたのだけれど、最近は朝からどんよりした曇りかしとしと雨。朝から雷がとどろくこともあるぐらいだ。洗濯ものも乾きが悪く、家の壁や天井にカビが生え始めた(こら、すごいわ!)。
この時期は昆虫の世話に特に神経をつかう。あまりにも湿度が高いので、菌類(カビ)やダニなんかがとにかく元気になる。シャワールームだけではなく、飼育袋の中も彼らにとってはお祭り状態だ。
幼虫たちが宿や餌にしている植物がすぐに腐ったり、カビが生えたりしないように、水分調節をこまめにしなければならない。虫たちを攻撃して、食べてしまうダニが出現したら大変だ。幼虫やさなぎの周辺や植物をすみずみまで顕微鏡でのぞき込み、ダニやダニの卵をピンセットの先でプチプチとつぶしていく戦いが始まるのである。長期戦だけはさけたい。
ちなみに、水虫もこの時期はお祭り騒ぎ状態です…。
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
[Webナショジオ 2011年10月11日、同10月25日付の記事を基に再構成]
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