接待復活 交際費増え、芸者さんフル稼働
「料理は5万円でお願いできますか」
明治初めに創業し、多くの文豪にも愛された東京・神楽坂の料亭「うを徳」。2011年の東日本大震災以降、大きく減っていた接待利用が4月に入り、少しずつ戻り始めた。「ぱったり途絶えていた製薬会社から声が掛かったのには、こちらがびっくりしましたよ」と6代目の萩原隆介社長は笑顔で話す。
人気は食事、サービス料、税金込みで飲み放題付きの2万円のプラン。気軽に来店してもらおうと2年ほど前から始めたが、4月以降は最も高い2万5000円の会席コースも増えている。「客単価が上がっているのは、やはり税制改正のおかげかな」と萩原社長。
「料理は5万円でお願いできますか」。東京・赤坂の老舗料亭「赤坂浅田」では今年度に入って、こんな要望が舞い込むように。夜の会席は最高額が3万4000円。料理を5万円に設定すると、飲み物や席料で1人あたり総額8万~9万円になる。「最近では芸者を呼ぶお客様も多く、赤坂に約20人いる芸者はフル稼働」と運営する浅田屋伊兵衛商店(東京・港)の浅田松太社長は話す。
安倍晋三首相もたびたび訪れる「Wakiya迎賓茶樓(ちゃろう)」(東京・赤坂)は昨年春ごろから接待利用が増え始めたが「税制改正でさらに一段高まった感じ」(萩原清澄・統括支配人)。5人対5人といった大人数の接待も増え、売り上げは前年度比15%増で推移する。顧客の要望にきめ細かく対応するため、今年から予約対応の専属電話スタッフを5人置いた。
■税制の改正も追い風に
接待予約はインターネット上でも好調だ。ネット通販のルクサ(東京・渋谷)は年会費6000円の会員制で、高級店や有名店約600店の予約サービスを展開している。税制改正による接待増を見込んで3月からサービスを開始したが、8月の接待による予約件数は当初の2倍に増えた。
国税庁によると、企業の交際費はピーク時の1992年に6兆円強あったが、リーマン・ショック後の09年度に3兆円を割り込んだ。直近データの12年度は2兆9000億円とここ数年は横ばい状態が続く。
ところが、13年度から中小企業で年800万円を上限に交際費の全額を損金算入できるようになり風向きが変わる。14年度には大企業(資本金1億円超)も接待飲食費の50%を損金算入できるようになった。食の安全・安心財団によると「料亭・バー等」の市場規模は12年まで6年連続で減少していたが、13年は前年比4%増の2兆7000億円と下げ止まった。
銀座や赤坂などにある高級飲食店10店に聞き取り調査をしたところ、今年度に入って接待利用が「増えた」「若干増えた」と回答したのは9店。4~8月の売り上げは前年同期比で10%前後増加しているところが多い。日本フードサービス協会の調べでは「ディナーレストラン」の全店売上高が13年で前年比2%増え、今年度に入ってからも前年を上回っている。
秘書に調査「予算が増え、店選びが楽に」
接待で高級飲食店を利用する企業側の意識はどう変わったのか。日経MJは、ぐるなびの協力を得て8月中旬、全国の企業などに勤める社長・重役秘書327人を対象に上司の接待についてアンケート調査を実施した。
今年度に入って「上司が接待を行った」と回答した秘書は全体の96%。そのうち月間の接待回数は「1~3回」が48%と多かったが、「4~6回」も27%と多く、「7~9回」「10~14回」もぞれぞれ10%いた。昨年度と比べて接待の回数が「増えた(やや増えた)」と回答したのは20%と「減った(やや減った)」の14%を上回った。
「接待1回につき1人当たりいくら使っているか」という質問に対しては「1万円以上2万円未満」が最も多く45%。次いで「5千円以上1万円未満」が25%で昨年度と比べると2ポイントほど低下。一方「2万円以上3万円未満」は18%と3ポイントほど上昇した。昨年度と比べた接待の金額は「増えた(やや増えた)」が14%と「減った(やや減った)」の4%を上回った。
多くの秘書が「昨年よりも会食1件あたりに掛けられる予算が増え、お店選びが楽になった」(製造業の社長秘書)と感じている。「新しい得意先との会食が増え、接待の頻度が増した」(IT・情報通信業の会長秘書)という声もあった。
エヌピーディー・ジャパン(東京・港、サンプル数は月間約1万件)によると、今年4~6月の全国の接待回数(取引先との食事回数)は1~3月と比べほぼ横ばい。ただ地域別に見ると首都圏が3%増、京阪神圏が5%増と伸びる一方、中部・北陸圏は2%減。接待消費は大都市圏を中心に盛り上がっている。
2次会は縮小、首をかしげる銀座のママ
接待需要は2次会にまでは及ばず、神楽坂のスナック「八仙」の売り上げは昨年度に比べ10%ほど減少した。経営する万り(まり)さんは「2次会に行く文化が廃れた。昔は神楽坂の芸者を連れて銀座に繰り出す人も多かったのに」と嘆く。
東京・赤坂の料亭「口悦」は敷地内にバーも併設するが、1次会から流れる接待客の比率は2割程度と今年度になっても変わらない。「以前と比べ接待は時間が短くなり、飲む量も減った」
「税制改正の影響もあって4、5月は絶好調だったんだけど……」。銀座の高級クラブ「せれす」のオーナーママ、平井出智子さんは首をかしげる。6月以降、売り上げが徐々に落ち、8月はとうとう前年を割った。
銀座社交料飲協会(東京・中央)の神谷唯一事務局長は「銀座はバーを個人で利用する30~40代のサラリーマンで一見にぎわっているが、接待の2次会利用はずいぶん減った。接待利用をあてにしている店は軒並み厳しい」とみる。
全国生活衛生営業指導センター(同・港)によると、スナックやクラブなどの社交飲食業の売上高は最新データの1~3月で4%減。「1990年代に官官接待が廃止されて以降、接待の2次会需要が激減したまま戻っていない。4月の税制改正後も、全国的に売り上げの減少傾向が続いている」(全国社交飲食業生活衛生同業組合連合会) 秘書へのアンケート調査では「今までは2軒目の接待もあったが、1軒目で終了することが増えた」(商社)との声も。ある金融機関の社長秘書は「健康上の理由から軽めの食事を好むようになり、早く帰るためもあってランチ接待も多くなってきた」と話す。
一方で、最近増えているのが1次会でのお土産需要だ。Wakiyaでは6月からコースのしめで食べられる担々麺などのセット(3600~5200円)をお土産として用意し注文が急増、客単価を押し上げる。「最近は接待する側も接待される側もお土産を用意することが多い」という。(横山雄太郎)
[日経MJ2014年9月8日掲載]
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