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睡眠

遺伝と環境 睡眠時間の長さを決めるのはどっち

 

2014/9/9

ナショナルジオグラフィック日本版

 このところ急速な進歩を遂げた睡眠の科学だが、それだけに誤解も流布している。そこで「ためしてガッテン」や「チョイス@病気になったとき」といったテレビ番組でもおなじみの第一人者、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長の三島和夫氏が、眠りにまつわる都市伝説を一刀両断。睡眠の常識と非常識を科学の視点からひもとき、日々の快眠に役立つ確かな情報を紹介します。今回は、睡眠時間の長さを決めるのは何か、について。

 前回、私たちの普段の生活での睡眠時間(以後、単に睡眠時間と呼ぶ)に長短が生じる主たる要因として3つ挙げた。第1は体質的に決められた必要睡眠量、第2は睡眠ニーズに関わる生活習慣、第3は眠気に打ち勝つ覚醒力、である。3つの要因のそれぞれに個人差があることによって睡眠時間に大きなバリエーションが生じてしまうのだ。

 私たちの日々の睡眠時間は、遺伝的に決まっているコア部分と環境の影響を受ける可変部分の2つの足し算(時には引き算)でできている。コア部分は体温調節、循環、代謝など基本的な生命活動を営むために最低限必要となる休息としての睡眠で、このコラムでは必要睡眠量と呼んでいる。必要睡眠量は発達や加齢により緩やかに変化はするものの、恣意的に短期間で変化させることはできない。

■生活習慣を工夫すればナポレオンになれる?

 前回紹介したように睡眠時間の個人差はとても大きい。3時間台から10時間台の人まで、その差は7時間にも達する。確かに普段の生活でも、スポーツで汗を流せば眠りは深く長くなり、日がなゴロゴロして過ごした夜は浅く短くなる。運動に限らず、食事、入浴、飲酒のほか、気温や季節などさまざまな生活習慣や環境によって睡眠時間が変動するのを私たちは経験している。

 そのため、睡眠時間の個人差は主に環境の影響で生じていると主張する研究者もいる。睡眠時間の可変部分が、文字通り睡眠時間の長短を決定している主役だというのだ。確かにこの主張には「夢」がある。その仮説が正しければ、生活習慣の工夫次第で睡眠を長くも短くもできるからだ。無眠は無理でも、ナポレオンのような短眠生活も夢ではないということになる。

 だが、残念ながら結論から言えば、最近の研究によって個人差の主役は必要睡眠量であることが分かってきた。睡眠時間の長短は体質的にかなりの部分が決定されているのだ。睡眠時間決定論の登場で短眠の夢は潰えたが、研究者は別の夢を思い描くようになった。必要睡眠量が体質、すなわち遺伝の影響を受けているのであれば、関連遺伝子もあるはずだ。それを探し出せれば、睡眠時間の調整メカニズムを分子レベル、たんぱく質レベルで解明するのも夢ではない。ひいては睡眠時間の調整薬だって。巡り巡って短眠の夢、ふたたび……。

 睡眠時間に関連する遺伝子探索の第1段階は、双生児の睡眠時間が形作られるのに遺伝と環境のどちらがどれだけ強く作用しているか調査する研究から始まった。

 基本理論はこうだ。一卵性双生児は同一の遺伝子配列を有するため、仮に遺伝的影響が非常に強ければ、大人になってから生活習慣や環境が異なっても双子の睡眠時間はかなり似通うはずである。逆に環境の影響がより強ければ、両者の乖離(かいり)は大きくなる。同じ双生児でも二卵性の場合は兄弟と同じ程度の似通り方になるだろう。遺伝子の共有度と睡眠時間の近似度の関連を解析するのである。

双子研究は強力な方法だ(イラスト:三島由美子、以下同)

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