まだ似合う? 卒業したけど「制服ディズニー」
「あのときに戻れるんです」
「『制服ディズニー』やりたかったんです。彼の制服姿見たことなかったし、新鮮で楽しかったぁ」。そううれしそうに話したのは、高校のときの制服を着て東京ディズニーシーを訪れていた長野県の専門学校生の野口愛佳さん(20)。同じ専門学校に通う彼氏の北島智徳さん(19)も制服姿だ。「彼女が着たいというのでつきあいました」と照れるが、頭の上には購入したばかりの派手なサングラスを乗せ、1日を満喫したようだ。
「制服ディズニーが始まったのはけっこう前ですが、最近もどんどん増えている」。電通若者研究部の西井美保子研究員はこう話す。実際、東京ディズニーリゾートのあるJR舞浜駅で、制服姿のグループに「高校生ですか」と尋ねたところ、半数以上は「えっ」と顔をゆがめ「やっぱりばれてますか」と反応。制服を卒業した世代だった。
なぜ制服でディズニーリゾートに行くのだろうか。「高校のときはディズニーに来なかったので、やっとけばよかったと思っていた。念願がかないました」と話すのは、それぞれ高校の制服を来て遊びに来ていたフリーターと専門学校生の18歳の女子2人組。
理由の一つは、高校生活でやり残したことを取り戻したいということらしい。制服を着る高校生でいられるのも、人生の中で決まった期間だけ。制服を着なくなってから気づくその"限定感"が、たんすから制服を引っ張り出す。
制服を着ると、仲間やグループの連帯感も生まれる。「あのときに戻れるんです」とは、高校時代の同級生と女子4人で訪れていた埼玉県所沢市の大学1年生。4人の通う大学は別々だが、すぐに当時のように打ち解けられる。「いろいろ思い出すし、制服はやっぱり特別」だそうだ。
とは言いながらも、久しぶりに袖を通す制服。「行く途中の電車がめっちゃ恥ずかしかった」(会社員の20歳の女性)、「家のまわりが特に恥ずかしくて。近所の人に見られたらなんて言い訳しようと思って」(所沢市の大学1年の女子)など、ドキドキしながら着ているらしい。
女子大生ブランドの低下も背景
だからこそ目的地は、非日常の空間になる。なぜ行き先はディズニーリゾートなのか。こう尋ねると、「夢の国だから!」。埼玉県新座市から来ていた大学1年の女子は即答した。非日常の空間だからこそ、非日常の格好ができる。「格好も非日常にすれば、もっと盛り上がる」(保育園勤務の20歳の女性)という。
もちろん、絵になる場所であることも大事。「シンデレラ城の前は外せない。せっかく制服だし、記念に写真をいっぱいとりたい」と所沢市の大学1年の女子は興奮気味に話していた。
制服ディズニーが広まっていることについて、甲南大学文学部社会学科の阿部真大准教授は「SNSの投稿が前提の世代」であることに着目する。「皆で同じ格好をすると結束力を示せるし、絵的にもインパクトがでる」。また、特に高校卒業直後の女子大生に多いことを「かつてに比べて女子大生ブランドが低下しており、逆に高校生がブランド化している」と話す。
電通の西井研究員も「今や『制服ディズニー』が『体験のブランド』になっている。ディズニー以外にも、当時はできなかった制服でお酒を飲むとか、制服で京都や奈良に行き、もう一度修学旅行をするなど、広がりつつある」という。
「大学3年なんですけど、すぐに分かっちゃいましたか」、「私おばさん感出てないですか」――。声をかけると決まって聞かれたのは、制服が似合っているかどうかを不安がる声だ。制服ディズニーに年齢制限はあるのだろうか。記者が出会ったのは20代前半まで。やはりどこかで自主規制するのか、はたまた周囲から規制が入るのか。制服ディズニーができる期間も限定のようだ。(井土聡子、野場華世)
[日経MJ2014年8月10日掲載]
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