医師が解説「新ワクチン」 感染しないの?日本製は?
Q&Aで学ぶ新型コロナワクチン(1)
2月の医療従事者向けの新型コロナワクチン接種に続き、4月12日からは高齢者への接種が始まった。だが、新型コロナワクチンは新しいタイプのワクチンであるだけに、その接種に疑問や不安を訴える声は多い。そこで今回は、4月22日発売の書籍『日米で診療にあたる医師ら10人が総力回答!新型コロナワクチンQ&A100』(コロワくんサポーターズ著)の中から、主なQ&Aをお届けする。第1回は、新型コロナワクチンの仕組みと効果について解説しよう。
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Q.1 ワクチンを接種したら体内に新型コロナウイルスが入り、感染してしまいませんか?
A. いいえ、新型コロナワクチンを接種しても新型コロナウイルス感染症を起こすことはありません。新型コロナワクチンは、新型コロナウイルスそのものではなく、ウイルスの一部をかたどった「模型」を体内で作らせる医薬品の一種です。ですから感染症を引き起こす心配はありません。
抗ウイルスワクチンの種類
Q.2 日本で接種が先行する見込みの新型コロナワクチン3種類について、それぞれの特徴を教えてください。
A. 日本で先行して接種される新型コロナワクチンは、すでに承認された米ファイザーのものに加え、近々承認が予想される英アストラゼネカと米モデルナのものを加えた3社のワクチンになる見込みです(2021年3月現在)。ファイザーおよびモデルナのワクチンはmRNAワクチンと呼ばれるもので、アストラゼネカのワクチンはウイルスベクターワクチンと呼ばれるものです。異なる仕組みのワクチンですが、どちらも新型コロナウイルスの一部分であるトゲの部分(スパイクたんぱく質)の情報をヒトの体に教える仕組みになっています。
日本で先行する見込みの3社のワクチンの特徴(2021年3月現在)
ファイザーおよびモデルナのワクチンは、スパイクたんぱく質の設計図をmRNA(メッセンジャーRNA)と呼ばれる物質に載せて、脂質に包んで体の中に届け、ヒトの体内で新型コロナウイルスのたんぱく質を作らせて免疫を誘導します。一方、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンは、人間には無害なチンパンジー由来のウイルス(アデノウイルス)にスパイクたんぱく質の設計図を運ばせる仕組みです。接種するとmRNAワクチンと同じように、ヒトの体内で新型コロナウイルスのたんぱく質が作られ免疫が誘導されます。
ワクチンの実用化に先立って、3社はそれぞれ臨床試験を行い、ワクチンの有効性(発症予防効果)と安全性(副反応の種類や頻度)を検証しました。試験でわかった有効性は、ファイザーのワクチンは95%、モデルナは94.5%、アストラゼネカは70%でした。一見ファイザーのワクチンがもっとも優れているように見えますが、それぞれの臨床試験の対象者や条件は異なっているため、一概にそうとはいい切れません。ただ、身近なワクチンと比較すると、インフルエンザのワクチンの発症予防率は約50%とされていることから、いずれのワクチンも十分効果が高いことがわかります。
接種対象者はファイザーのワクチンは16歳以上、モデルナ、アストラゼネカのワクチンは18歳以上となっています。接種回数はいずれのワクチンも1人に対して2回ですが、ファイザーは21日間隔、モデルナとアストラゼネカは28日間隔で接種を行います。妊婦や子どもは臨床試験の対象となっていなかったことや、接種方法が筋肉注射であることは、3社のワクチンに共通しています。
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Q.3 従来のワクチンと新型コロナワクチンの違いはなんですか?
A. 従来のワクチンは、不活化ワクチンや生ワクチンと呼ばれるものが中心でした。これらのワクチンは、鶏卵などに病原ウイルスそのものを感染させて増やした後に感染力を持たないように不活化したものや、弱毒化して病原性を持たなくしたウイルスを培養して増やしたものから作っていました。このような方法でワクチンを作る場合、ウイルスの大量培養や安全な弱毒化・不活化の条件探索に膨大な時間がかかります。それが、「新型コロナワクチンの開発には早くても5年以上かかるのではないか」と流行当初に指摘されていた理由です。
従来のワクチンと新型コロナワクチンの違い
一方、新型コロナワクチンとして実用化されたmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンの製造では、病原ウイルスそのものは使いません。病原ウイルスの遺伝子情報の一部(RNAやDNA)を用いて、ヒトの体内で病原ウイルスのたんぱく質を作らせて、免疫を誘導する仕組みです。したがって病原ウイルスの大量培養や弱毒化・不活化は不要です。このような特徴の恩恵を受けて、有効性と安全性の確保において大切な臨床試験は省略することなく、開発スタートから1年足らずで新型コロナワクチンを実用化することができたのです。
なお、mRNAワクチンやウイルスベクターワクチンは、急に出現してくる感染症に対応して素早くワクチンを開発することができ、病原ウイルスの変異への対応力も高い次世代型ワクチンとして期待され、新型コロナウイルス感染症が広がる前から開発が進められていたものです。
Q.4 急いで作った新型コロナワクチンは、危険ではないですか?
A. 迅速に新型コロナワクチンを作ることができた理由はいくつかあります。まず、技術開発自体は10年も20年も前から進んでいたものであり、いつでも将来の感染症の危機に備えてワクチンを作る準備が整っていました。その集大成が、このパンデミックという危機に直面して発揮されたと考えてよいでしょう。
また、安全性や有効性を確かめる臨床試験も、他のあらゆる新薬と同様に第1相試験から第3相試験までの安全性、有効性の厳格な審査を経ています。安全性を担保しつつ効率化を行いましたが、決して各段階のいずれかを省略して今に至ったわけではありません。
Q.5 日本の製薬会社が開発した新型コロナワクチンを打ちたいのですが。
A. 日本の製薬会社も新型コロナワクチンの開発に乗り出していますが、実用化はもう少し先になりそうです。開発を進めている会社(ワクチンの種類)は、塩野義製薬など(組み換えたんぱく質ワクチン)、第一三共など(mRNAワクチン)、アンジェスなど(DNAワクチン)、KMバイオロジクスなど(不活化ワクチン)、IDファーマなど(ウイルスベクターワクチン)となっています。もっとも先行しているのはアンジェスとみられ、第2/3相臨床試験のワクチン接種が3月初旬に完了したところです。数カ月の経過観察を経て安全性と免疫原性の評価を行う予定です。塩野義製薬は2020年12月に第1/2相臨床試験を開始しました。第一三共は2021年3月に第1相臨床試験を開始予定です。
新型コロナワクチンの開発に取り組む日本の製薬会社(2021年3月現在)
(第2回に続く)
(倉沢正樹=日経メディカル元編集長)
[日経Gooday2021年4月22日付記事を再構成]
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