片岡愛之助 視聴率が出るまで怖かった『半沢直樹』
2020年7月から9月まで、7年ぶりに第2弾が放送された、TBSの連ドラ『半沢直樹』。この作品に続投し、敵役である元金融庁担当検査官の黒崎駿一を演じたのが片岡愛之助だ。
放送が延期になるなど、新型コロナウイルスの影響はあったが、主人公の半沢(堺雅人)が理不尽な要求や不正を暴いていく痛快な物語は、暗いニュースが続くなかで多くの人の心をつかんだ。平均視聴率は、13年の前作の28.7%に迫る24.8%。最終回視聴率では32.7%を記録し、20年のNo.1ヒットドラマとなった。[※視聴率はビデオリサーチ関東地区調べ。平均視聴率は編集部調べ]"オネエ口調"の敵役を演じて今回もインパクトを残した片岡に、まずは『半沢直樹』の現場を改めて振り返ってもらった。
「最初に続編のお話をいただいたときは、『おっ、いよいよか!』と、すごくうれしかったですね。その前に参加させていただいた映画『七つの会議』(19年)の監督も、『半沢直樹』と同じジャイさん(福澤克雄監督)だったんです。
正直、あの独特のテンションに戻れるのだろうかという不安はありました。でもドラマ本編の撮影に入る前に、『半沢直樹』のオーディオドラマ収録があったんです。実は結婚していて妻がいる、黒崎の私生活が垣間見られるというもので。それで、まずは黒崎の感覚を思い出そうと、前作のDVDを改めて見返しました。『こんな芝居をしてたのか』とびっくりした部分もありましたけど(笑)。そこで感覚を取り戻してドラマ撮影に入ることができました。
半沢とは対峙する役ですが、最後は味方になって力を貸すんです。人としては半沢を認めている。ジャイさんとは『お久しぶり、ああ、やっと会えたわね』みたいな感じでいきましょうかと相談して決めました。黒崎の初登場シーンは第3話だったんですが、銀行担当から証券担当に異動していて、半沢と再会したときに『証券取引等監視委員会事務局証券検査課統括検査官の黒崎です』と、ものすごい長い肩書きを名乗るんです。どこで区切るのかを確認したら、『一息で言ってください』と。最初の台本にはなかったのに。
これが通称"ジャイ直し"で、決定稿から撮影の直前までにいろいろな変更が加えられるんです。半沢を『なおき』と呼び捨てにしたのも、部下役の宮野真守さんの股間をつかむ流れになったのも"ジャイ直し"です(笑)。もちろん、脚本家さんの台本もとても面白い。そこにプラス、緊迫感だったり、パワーアップしたものが入ってくるから、より良い作品ができるのだと思います」
1回試したウインクが採用
「ジャイさんは独自の演出をする方で、いろんな角度から何十回も同じシーンを撮る。第6話で、頭取(北大路欣也)をはじめ銀行の面々が大勢いる大階段で半沢を見つけた場面では、1回だけウインクしまして。放送ではその1回が採用されていて。自分ではどれが使われるのかは分からないんですよね。現場でも『ここで怒りましょう』と、どんどん変わっていく。その場で求められたものをいかに返せるかが勝負になるから、役者としては面白いですよ」
主演の堺雅人とは、16年のNHK大河ドラマ『真田丸』でも共演。続投組の香川照之(市川中車)のほか、市川猿之助、尾上松也と、歌舞伎俳優が4人も出演していることも話題になった。
「僕は堺さんとのシーンばかりで、『歌舞伎役者が4人も』と言われるけど、撮影では香川さんと少しご一緒したぐらいで、猿之助さんとも松也さんとも、現場ではお会いしていないんです。一視聴者として『面白いな、もうこれは歌舞伎やな』と思ってました(笑)」
「堺さんとは仲良く、和気あいあいと撮影していましたね。おしゃべりしていて、本番直前になって、『じゃあやりますか』みたいな感じ。第9話の地下室のシーンでは、歌を歌いながら登場して、扇子を出して見得を切ってみたんですけど、それを見逃さず、『愛之助さん、今のは引き見得っていうんですか』と聞かれまして。堺さんは日舞をされていたこともあり、よく見ていらっしゃるんですね。『引き見得のあとに女方のしぐさを入れてみた』と言ったら、『勉強になります』と言ってました(笑)。
『半沢直樹』は続編だから、視聴者のみなさんに楽しんでもらえるか、視聴率が出るまで怖かったです。僕らはマックスの熱量でやってるから、世の中との温度差がどれくらいあるのかは見当がつかないので。反響を得られて、とてもうれしかったです」
ほかに、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』にも出演。主演の長谷川博己とは、朝ドラ『まんぷく』(18年)で共演した仲だ。
「『まんぷく』では『仕事すんで~!』と、長谷川さん演じる萬平を共同経営に誘っておきながら、結局だます役でした(笑)。当時、『次の大河も頑張って』と話をしてたんですが、僕も今川義元の役をいただいて。今川は公家のような、蹴鞠をしているイメージが強かったんですが、腕の立つ武将として描かれていたので、キリッと強い人物像で演じました。6月7日放送の第21回で、今川は討たれるんですね。ちょうどその回をもって放送が休止になりまして。長谷川さんからは、『最後、カッコよかったです』とうれしいメールをいただきました」
新型コロナの影響は、歌舞伎界にも大打撃を与えた。自粛期間を経て、動き始めたのは約5カ月後の8月1日。愛之助は歌舞伎座の公演再開で、トップバッターとして舞台に立った。
「当たり前のように、25日間休みなく舞台に立たせていただけていたありがたさを、しみじみ感じましたね。まず、世の中が経済を回して生活をしていくなか、プラスアルファで「お芝居見に行こうか」となると思うんです。生活に必ずしもなくてはならないわけではない業界で、大道具さん、小道具さん、衣装さんたちがいてくれて、我々は初めて舞台に立てるけど、その周りの方々の仕事も含めて、全部なくなったわけですから。本当に大変ですけど、力を合わせて乗り切らなきゃいけない」
歌舞伎再開には自問自答
「歌舞伎興行の再開となった『八月花形歌舞伎』では、普段は昼夜2部制、もしくは3部制ですが、初めて4部制という形をとりました。各部とも出演者、スタッフを完全入れ替え制にして、徹底した感染予防策のもと、お客様をお迎えする準備をしました。
僕は公演再開の第1部、まさに最初の舞台に立つことになったので、初日が近づくごとに『本当に開幕していいのだろうか』と自問自答する時間が増えました。いよいよ初日となって、緞帳(どんちょう)が上がると、舞台に立つ前から、ものすごい拍手が聞こえてきたんです。客席は50%以下に限られているのに。鳴りやまない拍手に、涙が出そうになりました。『待っててくださったんだ』と思って。
10月に大阪松竹座で公演予定だった『GOEMON 石川五右衛門』も、中止になってしまいました。今井翼さんが再出発されてから、初めての大劇場での舞台でしたので、どんな形でもいいから何かできないかと思い、相談を重ねて、結果としてフラメンコや立ち廻りにトークショーが加わった4日間のイベント開催にこぎつけました。今までだったら考えもしなかった生配信にも挑戦したり、コロナ禍だからこそ、気付けたこともたくさんありました。
人が生きていくためには希望が必要だと思います。暗いニュースが多いなかで、みなさんを元気付けられるとしたら、こんなに幸せなことはないと思った1年でした。まだまだ困難は続きますが、我々にできることを精一杯務めさせていただくことが、明日への第1歩だと信じています」
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2021年1月号の記事を再構成]
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