働き方改革も「こんまり流」 ときめきを優先順位に
片づけコンサルタント・近藤麻理恵さん
「こんまり」の愛称で知られ、世界的ベストセラーを持つ片づけコンサルタントの近藤麻理恵さん。このほど職場の整頓と働き方の見直しをテーマにした新刊を出した。家屋の整理に続き「仕事の片づけ」に注目した背景を聞いた。
――「自分がときめくか」を取捨選択の基準とする片づけ手法を、職場や働き方にも応用した理由は。
「以前は仕事の量は多ければいい、仕事の話がきたら全部受けたいと思っていた。だが2人目の娘を妊娠中の2016年ごろ、米国への移住も重なり疲労がピークに達した。仕事と家庭の両立により体力的にも精神的にも限界となり、仕事を楽しめなくなった」
「そこで仕事のパートナーでもある夫とスケッチブックを前に、どういう生き方がしたいのか話した。片づけのレッスンや講演、執筆など、今抱えている仕事や必要な時間を書き出す。その上で手放せる仕事と進める仕事を決め、優先順位を付けた。家族と過ごしたり好きなことをしたりする時間を優先的に取ることを大事にした。『心地よく働けるか』が成果を出すために大切だと気づいた」
「『やらなければいけない仕事』は誰にでもあるが、あまり時間をかけず、それより『ときめく仕事』に労力をかけられるようにする。そうして仕事の意義を理解して取り組めば、やりがいは格段にアップする」
――職場の机や書類などの片づけと仕事や働き方の整理は関連しているのか。
「物理的な片づけをして、仕事場がすっきりする心地よさを知ると、パソコンの中など他の片づけもしたくなるものだ。メールや写真がたまってきたから整理しようと感じるようになる。さらに仕事内容や人脈、スケジュールなどの違和感にも気づく」
「私自身は一時期イベントなどの誘いが増え、本当にやりたいことができなくなり、名簿録を見ても思い出せない人も増えた。スケジュールや人脈を見直すことで、残したものをより大切にすることができた」
――「こんまり流片づけ」が海外でも受け入れられた理由は。
「米国でも片づけが素晴らしいという価値観はあった。ただ教えられているのは主に整理整頓の方法。こう収納しましょう、というものだった。『ときめくかどうか』を基準にする私の片づけの理念は新鮮だったのだと思う」
「片づけを通じて心の中を見つめ直す考えなどが『禅の精神を感じる』とも言われた。(アップル創業者の)スティーブ・ジョブズさんが禅に注目していたという背景もあっただろう」
――米国と日本の働き方、特に女性の就労などで違いを感じることは。
「海外で仕事をしていると、仕事と余暇のメリハリを付けるのが上手な人が多い。取引先の人が『この2週間休む』と宣言をし、休み前は頑張って対応してくれるが、休暇中は絶対連絡が取れないということもある。産休取得に負い目を感じている様子もない」
――前向きに働くために大切なことは。
「自分の経験も踏まえ、特に女性は心身の健康を意識するとよい。疲れすぎると思考が追いつかず、仕事が楽しめずミスも増える。定期的に『今の働き方、大丈夫』『つらくない、無理してない?』と自分の心の声を聞くことが大事だと感じている」
近藤さんの新刊「Joy at Work」は米ライス大学のスコット・ソネンシェイン経営学教授と共著。片づけ法だけでなく「物を探すことにかけている時間は年間で1週間」「生産的でない会議で無駄にしている時間は1週間につき2時間39分」など、様々な論文・調査データを引用して片づけることの重要さを説いている。
物理的な物の片づけにとどまらず仕事上の業務管理、会議の進め方、必要な人脈の考え方などにも触れている。取捨選択を進めるにあたり、近藤さんの「ときめく物を選ぶ」という考え方が、仕事にも応用されているのが興味深い。
コロナ禍を機に在宅勤務などが増え、職場を縮小する企業が増えている。私物があふれる家庭の中や、物を持ち込めない外部の共用スペースなどで仕事をする機会はますます多くなるだろう。職場や働き方を整理整頓する重要性は今後いっそう増すに違いない。
(生活情報部 砂山絵理子)
[日本経済新聞夕刊2020年10月9日付]
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