auの5Gスマホ新機種 価格のシャープ、機能のソニー
佐野正弘のモバイル最前線
秋から冬の商戦期に向けてスマートフォン新機種の発表が相次ぐ中、KDDIは2020年9月25日に「UNLIMITED WORLD au 5G 発表会 2020Autumn」を開催。新たにauブランドのスマホ6機種を発表した。
定番から折り畳みまで、端末の幅が広いサムスン電子
サムスン電子は最多の4機種を投入し、その内容も非常に多岐にわたっている。1つ目はペン操作が特徴となる「Galaxy Note」シリーズの最新モデル「Galaxy Note20 Ultra 5G」で、ペン入力の遅延が米アップルの「Apple Pencil」と同じ9ミリ秒に短縮されるなど、ペン入力を中心に大幅な機能強化が図られている。
2つ目は「Galaxy A51 5G」で、こちらはGalaxy Note20 Ultra 5Gなどのハイエンドモデルより下のクラスとなる、ミドルハイクラス向けのチップセット「Snapdragon 765G」を搭載した5G対応スマホ。6.5インチの大画面ディスプレーや4つのカメラ、4500mAh(ミリアンペア時)のバッテリーを搭載するなど充実した機能を備え、高いコストパフォーマンスを実現しているのが特徴だ。
そして残りの2機種「Galaxy Z Fold2 5G」「Galaxy Z Flip 5G」は、いずれもディスプレーを折り畳むことのできるスマホとなる。前者はスマホサイズの本体を開くとタブレットサイズのディスプレーが利用でき、後者はコンパクトサイズの本体を開くと大画面スマホとして利用できるというように、形状や機構に違いはあるものの、いずれも従来のスマホとは一線を画した端末として注目される。
これだけサムスン電子製の端末がラインアップの多くを占めた理由の一つは、日本より1年先に5Gのサービスを開始した米国や韓国などでいち早く5G対応端末を提供するなど、5Gスマホを豊富に擁していること。KDDIは最近5Gの利用をいち早く広げるため、5Gで多くの実績を持つサムスン電子との関係を深めていることから、同社のスマホがラインアップの多くを占めることにつながったと考えられる。
値引き規制でミドルクラスに狙いを定めるシャープ
一方、国内スマホ最大手となるシャープがauブランド向けに提供したのは、低価格で必要十分な機能を備えた「AQUOS sense」シリーズの最新モデルとなる「AQUOS sense5G」。実はKDDIは、発表会直前の9月19日にもauブランドで「AQUOS zero5G basic DX」の販売を開始していることから、シャープ製の新機種は実質的に2機種といえるだろう。
これら2機種の中でも、シャープの戦略が明確に出ているのがAQUOS zero5G basic DX、そしてそのベースモデルとなる「AQUOS zero5G basic」だ。というのも「AQUOS zero」シリーズは、ディスプレー表示の滑らかさやタッチ反応の良さを重視するなどゲームプレーを重視したものであり、初代「AQUOS zero」や2代目の「AQUOS zero2」はいずれも快適なゲームプレーのため高性能のチップセットを搭載していた。
だがAQUOS zero5G basicはチップセットにミドルハイクラスの「Snapdragon 765」を採用、性能よりも価格を重視しているのだ。なぜシャープが、AQUOS zeroシリーズの最新機種で価格重視の姿勢を取ったのかといえば、そこに影響しているのが19年の改正電気通信事業法施行によるスマホの値引き規制である。
この値引き規制でハイエンドモデルは値段が高くなり、購入しづらくなってしまったことから、今後「どうしてもこの機種が欲しい」という明確な目的を持つ人以外はミドルクラスの端末を買うようになるとシャープはみているようだ。そこでシャープはハイエンドモデルを減らす一方でミドルクラスの端末バリエーションを増やすことにより、端末販売を大きく伸ばそうとしているのである。
実はシャープはこれら2機種以外にも、4Gだけに対応する「AQUOS sense4」「AQUOS sense4 plus」を新しいラインアップとして用意している。KDDIが5Gの普及に力を入れていることもあり、4Gの2機種がauブランドから提供される予定はないようだが、今後他の携帯電話会社やサブブランド、MVNO(仮想移動体通信事業者)などからそれらが提供される可能性は高いだろう。
ソニーモバイルは「こだわり」狙いでハイエンドに集中
シャープとは逆の方針を取っているのがソニーモバイルコミュニケーションズだ。同社がauブランド向けに提供している新しいスマホ「Xperia 5 II」は、19年に販売された前機種「Xperia 5」の後継モデルで、コンパクトなサイズ感ながら最新フラッグシップモデルの「Xperia 1 II」の機能を可能な限り盛り込んでいる点に特徴がある。
その一つがカメラ機能である。Xperia 1 IIは「ZEISS T*(ティースター)コーティング」を施した3つのカメラと、ソニーの一眼レフカメラ「α」シリーズの使い勝手を取り入れた専用アプリ「Photography Pro」によって、細かな設定を変えながら一眼レフカメラのようなこだわりの撮影が楽しめる。Xperia 5 IIもこれと同じ性能のカメラとアプリに対応し、Xperia 1 IIに近い撮影体験を味わえる。
ほかにもXperia 5 IIは、映画などが見やすい21対9比率のディスプレーを採用。本格的な映画の視聴や映像撮影が楽しめ、Xperia 1 II譲りの充実したAV・ゲーミング関連機能を備えている。それでいて本体の幅が68ミリと片手で持ちやすいサイズ感を実現しており、スマホとしての使い勝手を重視した設計がなされている。
Xperia 5 IIは、可能な限りXperia 1 IIと同じ体験が得られるよう、チップセットにもXperia 1 IIと同じハイエンド向けの「Snapdragon 865」を搭載している。執筆時点で価格は発表されていないが、チップセットの違いもあってシャープ製の2機種よりも高額になることが予想される。
端末の値引き規制がなされたにもかかわらず、ソニーモバイルコミュニケーションズがハイエンド向けのチップセットを採用した機種を増やすのはなぜか。そこにはシャープとは逆に、あえて安さを求める人たちは追わず、ソニーグループが得意とするAVやカメラなどの機能に注力することで、強いこだわりを持ってハイエンドモデルを選ぶ人たちにターゲットを絞る戦略を取っているためと考えられる。
このように、各社がauブランド向けに提供した5Gスマホの内容を見ると、それぞれのメーカーの個性と戦略が明確に出ていることが分かる。5Gスマホを選ぶ際には、そうした各社の違いや性格を考慮するといいだろう。今回紹介した7機種の仕様をまとめた表を下に掲載するので、参考にしてほしい。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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