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大阪の零細企業の
再建に奔走するバンカー
半沢直樹の新たな物語

――数多くの人気作品で知られる作家の池井戸潤さんの最新作は『半沢直樹 アルルカンと道化師』。東京中央銀行という巨大組織に勤める半沢直樹が、理不尽な上司や組織の論理に立ち向かう大人気シリーズの第5作です。本作の舞台は2000年代初め。第1作『オレたちバブル入行組』の前という時代設定にした理由は?

半沢シリーズは2作目まで融資現場を舞台に描いていましたが、3作目『ロスジェネの逆襲』はIT企業の買収、4作目『銀翼のイカロス』では航空会社の立て直しをめぐっての国との対立と、話が大きくなり過ぎたという反省がありました。読者からすると、浮世離れした話になっていたのではないかと。そこでこの作品は、もっと読者にとって身近で、共感できるものにしたいと思いました。

その観点で「半沢年表」を見ながら色々と検討したところ、第1作の前、つまり大阪西支店の融資課長時代の話にするのが一番いいという結論になったのです。物語の舞台を小さく設定したことで、半沢の銀行員としての卑近な戦いや融資先の経営者一族の悲喜こもごも、地域社会の関わり合いや人間模様など、身近な部分に光を当てることができたと思います。

――ストーリーは「アルルカンとピエロ」という1枚の絵画を中心に展開されていきます。着想のきっかけは。

ある編集者がくれた画集をパラパラ見ていた時に、アンドレ・ドランの「アルルカンとピエロ」という絵が目に留まったのです。アルルカンとは、ずる賢くて強欲なイタリアの即興喜劇の登場人物。そのアルルカンと純真なピエロが描かれている絵を見ていたら、「アルルカンと道化師」というタイトルが先に浮かび、この絵をモチーフにしたミステリーが書けるのでは、と思ったのです。しばらくそのまま置いておいたのですが、今回半沢を書くに当たってこの絵のことを思い出し、「これでいこう」と決めました。

――本作で半沢が経営再建に奔走するのは大阪にある美術系の小さな老舗出版社。作中でも美術作品の取引や美術展運営などに関する詳細な描写が多数盛り込まれています。もともとアートに精通していらしたのでしょうか?

美術は好きですが、詳しいわけではありませんでした。執筆に当たっては東京国立近代美術館主任研究員の保坂健二朗さんに色々とアドバイスを頂くことで、一定のリアリティーがある物語に仕上げられたと思っています。

――具体的にはどんなアドバイスがありましたか?

例えば、物語に登場する有名画家・仁科譲という人物は東京芸大の出身という設定なのですが、「美大」と書いていたら、「東京芸大出身者やその家族は『美大』とは言わず『芸大』と言います」と指摘されました。他にも「大日本ビールが主催している美術展」と書いたら、「酒類販売会社は主催者になれません」など、勉強になる指摘をたくさん頂きました。僕が美術に詳しいという誤解が生まれたなら、保坂さんのおかげです(笑)。

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