コロナ後の新社会 ITが変える教育・働き方
ダイバーシティ進化論(出口治明)
政府が一斉休校を要請したのは2月末のこと。大学にとってこの時期は、学生の卒業判定や入学者の選抜、次年度のスケジュール策定などに追われる最も忙しい時期だ。学生の個人情報を扱うため、自宅に持ち帰って作業することも難しい。そこで職員に子育て世代が多い立命館アジア太平洋大学(APU)では、子連れ出勤を導入した。
窮余の策だったが意外にうまく機能した。子供同士で遊ぶようになり、親も安心して仕事ができる。もちろん、ほとんどの職員が自動車通勤なので子供を同伴しやすい、空いている会議室や教室を使えばソーシャルディスタンスが保てる、などの条件に恵まれているからできた面もある。ただ、新型コロナが収束しても働き方は元には戻らないだろうと感じた。そして、コロナ後のニューノーマル(新常態)の社会では男女平等が進むと期待している。
日本の職場ではこれまで、長時間労働や上司が誘う飲みニケーションなど、一般に女性には不利な働き方があった。しかしテレワーク時代にはこうした男性優位の働き方が見直され、ITリテラシーの低い人が淘汰される。ITリテラシーには男女の差が生じない。男性にとってもテレワークは、家庭と仕事のバランスを見直すいい機会になったのではないだろうか。
リーダーを見る目も変わってくる。今、世界は新型コロナ対策という同じ難問に取り組んでいる。各国・地域のリーダーがどう対応しているのか、私たちはインターネットやテレビを通じて比較することができる。日本は政治家も経営者も男性が圧倒的に多いが、海外は必ずしもそうではない。どんなリーダーが人々の信頼を得ているのか、リーダーに求められる資質とは何か。そこに性別の差がないことは明らかだ。
教育の分野も厳しい状況だ。APUは上期は100%オンライン授業で対応する。今後、学びの形は変わり、教え方も進化するはずだ。学生だけでなく社会人の学び直し(リカレント)も容易になるだろう。
僕が考える理想の大学は、1000年以上前に創立されたエジプトのアズハル大学だ。入学随時、受講随時、卒業随時で、誰にでも広く門戸を開放している。ペストがルネサンスや宗教改革のきっかけとなったように、新型コロナの収束後は、働き方も学び方も生き方も今とは違ったより良いものに進化する。
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2020年5月18日付]
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