とろーり流れる黄身! 米国発人気朝食レストラン3選
ここ数年、パンケーキに端を発した朝食ブームが起きている。「エッグベネディクト」「エッグスラット」「エッグロスコ」といった卵を使ったメニューが次々と話題になっている。
いずれも米国が発祥で、トロリと黄身が流れる半熟卵が特徴だ。これらを考案した、あるいは名物とする朝食レストランは地元民や観光客で朝早くから行列ができるほど。こうした有名店は日本にも上陸し、いずれも人気を博している。
今年9月、東京・新宿駅南口から代々木に抜ける遊歩道・新宿サザンテラスにオープンしたのはロサンゼルス発の卵料理専門店「エッグスラット」。
「当店は2011年に1台のフードトラックからスタートしました。『LAセレブに愛される朝食』としてブームを起こした『エッグスラット』発祥の店で、ダウンタウンに構えた初の実店舗は今もなお行列が引きを切らない人気店です。米国内で5店舗、海外ではクウェートとロンドンでも展開しており、今回の新宿サザンテラス店は日本初、アジア初の出店となります」と語るのは同店を運営するフレーバーワークスのプレス担当・黒田千尋さん。
エッグスラットとはガラス瓶の中にピュレ状になったポテトを詰め、その上に生卵を落として湯煎した料理。瓶の中でポテトと卵を混ぜ、スプーンですくって軽くトーストしたバゲット(フランスパン)につけて食べる。
「ポテトピュレと卵の組み合わせはフランスの家庭料理などにもありますが、ガラス瓶に入れて湯煎したところに当店のオリジナリティーがあります。これはフードトラックの限られたスペースでおいしいものを提供しようとした結果、生まれた調理法とのことです。黄身はほとんど生のままで白身だけが固まる低温で時間をかけて湯煎しています」(黒田さん)
実はエッグスラットの流行は5年くらい前にすでに日本にも飛び火し、レシピ投稿サイトで作り方が紹介されたり、カフェのメニューになったりしていた。つまり、今回の日本初上陸は「エッグスラットの発祥の店」が満を持して登場した形となる。
「本家本元」の味をさっそく試食する。卵にスプーンを入れると、プルプルの白身の中から黄身がトロリと流れ出す。絶妙な火入れ加減であることがよく分かる。ポテトピュレと混ぜて食べてみると、ほんのりと甘く、舌触りもなめらかで上品なフレンチのよう。
ポテトサラダでもポタージュでもない、ディップのような、またオープンサンドのような新感覚の朝食だ。
ちなみに「スラット」とはスラングで「野郎」といった意味。つまりは「卵野郎」=「卵好き」ということになろうか。店名の語感とフードトラック、それと出てくる料理の完成度の高さのギャップがLAセレブを魅了したのかもしれない。
エッグスラットに先駆けてブームになったのは「エッグベネディクト」。こちらはイングリッシュマフィンを半分に切った上にハムかベーコンかスモークサーモンをのせ、さらにポーチドエッグをのせてオランデーズソース(バターとレモン果汁と卵黄を乳化させたもの)をかけた料理。
その発祥は諸説あり、いずれもベネディクトさんという人が作ったとか、ベネディクトさんがリクエストして作らせたとかいわれている。1890年代にはすでに存在しており、米国ではもはや朝食やブランチの定番だ。
日本でのブームの火付け役はニューヨーク発の有名レストラン「サラベス」。アメリカンクラシックテイストの朝食が1日中食べられる店である。
「サラベスの1号店は1981年、アッパーウェストにオープンしました。食にうるさいニューヨーカーの間で瞬く間に評判となり、今も店頭から伸びる行列はマンハッタンの風物詩となっています。情報誌『ニューヨーク・マガジン』では『文句なしのNYの朝食の女王』とも称されました。現在は米国内で10店舗のほか海外では韓国と台湾とドバイにも出店。日本では7年前に新宿店がオープンしたのを皮切りに合計5店舗展開しています」と同店を運営するWDI JAPAN広報の大林鈴さん。
看板メニューは「パンケーキ」と「フレンチトースト」と「エッグベネディクト」の3つ。日本では特にエッグベネディクトが人気という。
「米国では生卵を食べる習慣がなく、黄身が流れるような半熟卵を食べられない方もいます。ですので、米国では3つの看板メニューの注文が同じくらい出るのですが、日本ではエッグベネディクトの注文が圧倒的に多いです」(大林さん)。
その理由として、「日本人は半熟卵に抵抗がないこと、パンケーキの次の流行としてメディアにもすでに取り上げられていたこと、また日本では朝食に甘いものを食べる習慣がないので、エッグベネディクトが選ばれるのでは」と大林さんは推測する。
同店のエッグベネディクトの特徴は「ポーチドエッグ」ではなく「スチームドエッグ」を使うこと。沸騰した湯の中に生卵を割り落として作るポーチドエッグだと、熱湯に直接触れる白身の外側部分が固くなってしまうが、スチームだと、白身がプルプルに軟らかく、黄身がトロトロに仕上がるという。
実際、出てきた料理を見たら、お皿をちょっと強く揺らすと黄身が決壊しそうなくらいの卵の軟らかさ。口に入れると、卵のほのかな甘み、ハムの塩気、オランデーズソースに入ったレモンのさわやかな酸味、軽い口当たりのイングリッシュマフィンなど、さまざまな味と食感が広がる。繊細かつ複雑な味で、なるほど「女王」と称される理由もわかる気がした。
3番目に紹介する卵料理は「エッグロスコ」。これはニューヨーク・ブルックリンの有名朝食レストラン「egg(エッグ)」のオリジナル料理である。デニッシュ生地の食パンを厚めにスライスし、真ん中をくりぬいたところに卵を入れ、ホワイトチェダーチーズをたっぷりかけてこんがりと焼いてある。
「eggは05年にスタートしました。以来、農園から生産者の顔が見える安全な食材を直接仕入れ、責任をもっておいしく調理して提供する『farm to table』を実践してきました。そして、『egg』の初めての海外進出店として17年4月、西池袋に『egg東京』をオープンしました。ここでは1日中食べられる朝食メニューのほか、『egg』オーナーの出身である米国・南部の料理を提供しています」と「egg東京」広報担当の菅沼優衣さんは話す。
「エッグロスコ」は、オーナーがマーク・ロスコという有名画家のファンで、彼が卵とパンとチーズの組み合わせが好きだったことからイメージして作ったものとか。
本場の味を出すためにこだわったのは卵とパン。卵は平飼いで育てられた鶏の有精卵を使用している。菅沼さんによれば、「日本の卵は黄身の色が濃く、味も濃厚で、米国の本場で食べられているような黄身がライトイエローであっさりとした味わいの卵を探すのに苦労した」そう。パンも日本ではフワフワなものが多く、本場の味が出しづらいことから「あえて粗く作った自家製のパンを使用しています」(菅沼さん)とのこと。
普段はついつい手早く済ませてしまいがちの朝食。たまには時間をかけてこんなリッチな朝ごはんを楽しんでみるのはいかがだろうか。
(ライター 柏木珠希)
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