SNS世代なら社会人とつながろう 脱・横並び就活へ
通年採用時代の就活のトリセツ(1)
初めまして、法政大学キャリアデザイン学部でキャリア論を教えている田中研之輔です。
これからの就活を考える出発点としておさえておくべきことは、「一括採用」から「通年採用」への転換です。近年、通年採用を取り入れる企業が増加し、ソニー、ソフトバンクグループ、メルカリなど名だたる企業が通年採用へとすでにかじをきっています。通年採用まではいかなくとも、インターンからの採用など、従来の一括採用を見直す動きは増えていくでしょう。
ただ、ここでのポイントは通年採用によって選考期間が自由化されるということだけではなくて、それに伴い、選考の方法が変わる、ということです。もっと言うと、就活の方法が変わるということです。
・通年採用に伴って選考の方法も変わる。その1つがリファラル採用の増加
・たくさんの社会人と会って自分なりの「働く人の事典」をつくり、そこから自分に合う働き方を見つけ出す
・企業に選ばれるのではなく、自ら主体的に企業を選ぶ
まず、ゼミ生のI君の事例を見ていきましょう。
社会人とのつながりをフル活用した就活生
I君が選考を受けたのは、たったの5社です。結果的に、第一希望だった大手自動車メーカーから内定をもらいました。彼はまず何十社もエントリーするという一括採用的な就活とは、全く異なる就活をしました。
具体的には、Facebookを活用し、イベントなどで出会った社会人とつながり、コミュニティーの幅を広げていきました。こうした試みをしておくことで、社会人だけのコミュニティーからも声がかかり、次々と情報が手に入るようになりました。
志望企業や業界の情報を社会人と1対1で話すことで、合同企業説明会のような大勢に向けられた建前のメッセージではなく、より鮮度の高い本音を聞くことができます。また、エントリーシート添削などを複数の社会人にしてもらったり、自分の意見をぶつけたりすることで、「なぜこの企業に行きたいか」がより整理され具体化されます。SNS時代なので、社会人とのつながりを育てることを軸にした就活は誰でもできます。
さらにFacebookでこれまでの自分の取り組みを発信し、履歴書のように使うことで、「この学生は目標や意志がある学生なんだ」という認識が生まれ、覚えてもらうことができたそうです。受けた会社は5社のみでしたが、複数の社会人のアドバイスや応援もあり、自信もありました。「面接官がすでに自分のことを知ってくださっている人だった」こともあったそうです。
I君の就活を聞いて「意識高い」と思うでしょうか? 私はI君のような就活は今後増えてきて、どんな学生にも参考になる事例だと思っています。その理由はリファラル採用です。
脱・一括採用の動き、リファラル採用
リファラル採用とは、社員が知人・友人・後輩を紹介・推薦し、採用選考を進める手法です。リファラル採用が普及している米国では、I君のように社会人コミュニティーに出入りする学生が多いと言われています。
企業側の採用課題からも考えてみましょう。一括採用によって引き起こされている問題の1つは、入社後に「イメージしていた会社や働き方と異なる」と思って辞めていくミスマッチです。ミスマッチ解消のために様々な企業がインターンなどで学生との接点を早めに持とうと努力しています。さらに今後、採用時期の自由化が本格的に進めば、優秀な学生を囲い込むために早期化は顕著になるでしょう。
とはいえ、企業も年中、説明会やインターンをすることは現実的に難しいです。しかも今は売り手市場。普通にやっていてもいい学生がなかなかきてくれませんから、採用の「質」も向上させないといけない。一人ひとりのマッチングの精度を上げるために有効な手段の1つとして注目されているのがリファラル採用というわけです。最近ではクレディセゾンや三井不動産、JTなど大企業でも導入が相次いでいます。
ではリファラル採用とはどういうもので、就活はどう変わるのでしょうか。リファラル採用の領域で事業を展開するリフカム(東京・渋谷)の清水巧社長に聞いてみました。
――最近、就活ルールが見直され、脱・新卒一括採用の動きがあります。リファラル採用とどう関係していますか。
私は一括採用自体が悪いとは思っていません。ただ、一括採用方式ではベルトコンベヤーの上に乗って、就職活動が始まるのを待っている学生が少なくない。自分が何をしたいのか、どんな会社が向いているのかを考えないまま、いきなり就職活動に直面してしまうのが問題だと思います。
一括採用の仕組みがない米国やアジアでは、学生がインターンに参加して会社選びをするのが一般的です。一括採用で学生が守られていないからこそ、それぞれが自分の就職について早くから真剣に考え、主体性が育まれています。そうした国では、新しい就職・採用の手段として、リファラルが進んでいる傾向にあります。米国では約30%がリファラル経由で入社しています。一方、日本は米国の3分の1の11%しかありませんが、徐々に増える傾向にあり、学生の動き方も変わっていくでしょう。
米国の学生はどうしているかと言うと、大学1年生の頃からどの企業にインターンするかを考え始め、大学の先輩や同期と情報交換をしたり、口コミサイトを調べたりします。インターンといっても人気企業は選考ハードルがとても高いので、知り合いからの紹介が強い。その意味で、どのコミュニティーに属するのか、誰と知り合いになるのかなども就職にとって重要になっています。
「学歴フィルター」は残る?
――リファラル採用が普及すると、どんなメリットがありますか。
知り合いを自分の会社に誘う場合、その人が本当に合うか、すごく真剣に考えませんか。もし合わなかったら、知人の人生を狂わせてしまうかもしれないと思うと、軽い気持ちで推薦はできません。そしてそれを考える過程で、自分が就職した理由や会社の魅力が整理されます。その結果、会社に合う人を適切に探すことができます。
また学生側からすると、企業説明会では語られない等身大の会社について、知り合いから事前に聞いておくことができる。当然、入社してからギャップに戸惑うことも少なくなります。
――「学歴フィルター」がリファラル採用においても発生しそうな気がします。
やはり高学歴の人材を欲している会社が多いのは事実です。リファラルであっても、高学歴の社員の周りには、優秀な学生が集まっているので、採用につながりやすくなっています。
ただ、今までは一方的に会社説明会などでしか情報を得られなかったのが、徐々にリアルな情報を仕入れられるようになってきています。最終的にリファラルで就職するかどうかは別にしても、学生には主体的に情報収集・行動するということを考えてもらいたいです。
1~2年生のうちから働き方のモデルケースを探す
――実際に今大学1年生だったとしたら、就職に向けてどんな学生生活を送りますか?
たくさんの社会人を見て、「働く人の事典」のようなものを作るかもしれません。スキルアップが目的ではなくて、自分に近いペルソナを探す。インターンシップでも、海外留学でも、OB訪問でも、手段は問いません。
1、2年生の頃は、とにかく人に会う。50人~60人くらいに「なぜ今の仕事をすることになったんですか」と、聞いて回ると自分もやりたいと憧れる人が10%くらいいると思います。そしてモデルケースができてきます。例えば、ベンチャーに関わりたいと思ったとしても、自分のやりたいことは経営者ではなくて投資家側でアドバイスする側だったとか。モデルケースは複数あった方がいいです。
私は大学生の頃に駅伝をやっていて、実業団の選手として食べていきたいと思っていたのですが、けがでその道が閉ざされ、その後は、ソーシャルビジネスに興味を持ち、海外のNPOに行ってみました。しかしそれも自己満足で終わってしまって、違うなと。そういう曲折を3回くらい繰り返して、最終的にやりたいと思ったのが起業です。
何が言いたいかというと、モデルケースのうちいくつかは違ったなっていうのが往々にしてある。だからパターンは6つくらい欲しいですね。そのためには1~2年生のうちに60人くらいの人に会っておいた方が良いというのが、私の実感値です。(インタビュー終)
次回はインターンへ行く意味について考えていきたいと思います。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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