岩塩プレート、どう使うの? 焼いても冷やしてもOK
魅惑のソルトワールド(29)
皆さんは「岩塩プレート」をご存じだろうか。その名の通り、岩塩鉱山から採掘された岩塩をプレート(板)状にカットしたものだ。厚さは1~2センチメートル程度で、大体長方形か正方形だ。手のひらサイズのものから、一辺が20センチメートルを超えるような大ぶりのものまである。用途は「火の上に岩塩プレートをのせて温めて、その上に肉をのせて焼く」というのが一般的。アウトドア用品店で販売され始めてじわじわと人気が広がり、最近では輸入食品に強い量販店などでも見かけるようになった。安いものだと700円くらいで買えるが、ひび割れていないか、赤土が混じっていないか、確認するとよい。30センチ四方、厚さ2センチくらいだと5000円程する。
岩塩プレートの原料はパキスタン産のピンク色の岩塩がほとんどで、まず見た目が非常に華やかだ。ピンク岩塩は鉄分や赤土の影響でピンクに色づいている。自然のものなので一つ一つ色あいが違うし、まだらになっているのもまた模様のようでかわいらしい。交流サイト(SNS)のインスタグラムで映える(インスタ映え)間違いなし、なのである。
もちろん、見栄えがするということ以上に、味の面でもメリットがある。まず、この上に食材をのせて焼くことで、遠赤外線効果で食材にじっくりと火が入るので、特に肉はふっくら、ジューシーに焼き上がる。また、バーベキューなどで火加減の調整が難しくて食材を焦がしてしまった、という失敗を避け、適度な焼き加減に仕上げることができる。そして、プレートが岩塩でできているので、食材の水分で溶けだした岩塩が食材に適度な塩味をつけてくれるため、そのままでもおいしく食べられる。
火で加熱してその上で食材を焼く、という以外にも使い方がある。それは、冷やして皿のように使うという方法だ。岩塩のように純度の高い塩はマイナス21.3度まで温度が下がる性質がある。そして保温力も高いので、その温度を維持できる時間も長い。冷凍庫でキンキンに冷やしてその上に食材をのせると、冷たい料理を冷たい状態に保ってくれる上、焼く時と同様、食材の水分で溶けた岩塩が食材に適度な塩味をつけてくれるので、そのままおいしく食べられる。
例えば刺し身をのせてしばらく置いて、オリーブオイルとハーブを散らすだけで、見た目にも華やかでおいしいカルパッチョができあがる。焼く時と同様、見た目の華やかさは食卓を盛り上げてくれるだろう。アウトドアなどで冷凍庫がない場合、密封性の高い袋に入れて氷水の中に入れておけば、ある程度冷やしておけるので屋外でも使用可能だ。
岩塩プレートは肉を焼くだけでなく、様々な使い方ができる。使用上の注意点とともに、いくつかご紹介したい。
最初は食材を焼く場合。いきなり強い火力で加熱すると、岩塩プレートの中に含まれている水分が膨らんで、プレートに亀裂が入ることがある。まずは弱火から始めて、15分くらいかけてじっくりと加熱していくことで、ひび割れを防ぐことができる。温度が高まるにつれて、岩塩プレートそのものが乾燥してきて、徐々に色が変わってくる。ピンク色が薄くなり、表面がカサカサしてきたら食材を焼く頃合いだ。最近はスマートフォンのアプリで表面温度を計測するものもあるので、活用するのも手である。
焼く食材は肉でも魚でも野菜でも、もちろん構わない。だが、食材の水分が多い場合は焼いているうちに岩塩が溶けすぎて食材がしょっぱくなってしまう可能性があるため、先にオリーブオイルなどの油食材をコーティングしておくと良い。また、塩味しかつかないので、お好みでハーブやスパイスを加えても良い。その場合はハーブやスパイスが焦げてしまわないように、食材の焼き上がりに合わせて追加することをお薦めする。岩塩プレートがある程度脂を吸うので、パサつきを感じた際には上からオイルをかけても大丈夫だ。また、焼いた肉の上に溶けるタイプのチーズをのせたりすると、プレートに触れた部分のチーズが焦げてカリッとした食感が加わる。ぜひ試してみてほしい。
色々な食材を焼いていると、肉汁などで岩塩プレートの表面が焦げ付くが、心配ご無用だ。焦げは金属製のヘラでこすればある程度除去できる。手入れの方法は焼いている最中は、焦げたらヘラでこそぐという工程を繰り返せば、連続して使用できる。使用後については3ページ目で紹介する
次に、冷やして使用する場合。冷やす時にきちんと密封できる袋などに入れて水分に触れないようにすること以外、特に注意点はない。冷えきった岩塩プレートはかなりの冷たさなので、冷やす速度を速めたい時は、アルミパッドの上などに置くと良いだろう。
冷やしたプレートにのせる食材は冷やして食べたいものなら何でもよい。特にお薦めしたいのが、アイスクリームとフルーツだ。どちらも塩味と相性がよく、甘みがぐっと引き立つ。アイスクリームとカットしたフルーツを冷やした岩塩プレートの上に並べてデザートとして提供することで、食卓に驚きと華やかさをもたらしてくれるはずだ。
なお、岩塩プレートは、使用したあとに適切に清掃すれば、繰り返し使うことができる。ちょっとしたコツがあるのでぜひ実行してみてほしい。
まず、焼くのに使った場合、岩塩プレートは少なくとも常温で1時間以上は放置して、熱が冷めるのを待つ。塩は保温力が高く、焼いた直後に素手で触るとやけどするので注意が必要だ。しっかり熱がとれたら、まずは金属製のヘラやブラシで焦げを大まかにこそぎとる。その後、水で汚れを洗い流て水分を拭き取った後、完全に乾燥するまで1日ほど風通しの良い場所に置いておく。乾燥したら、キッチンペーパーなどでくるんでから密封できる袋に入れて、水分の少ない場所で保存すれば完璧だ。
なお、食器用洗剤を使用してしまうと、岩塩プレートの中に洗剤が染みこんでしまうので、絶対に使用しないようにしてほしい。また、真水で洗うと塩が溶けるので少し小さくなる。大きさは保ちたい、という人は、飽和塩水(1リットルの真水に塩を330グラム加えたもの)を作ってその中で洗うと、岩塩そのものは溶けずに汚れだけ除去することができる。
万が一割れてしまった場合も、おろし金で削って使えば普通の岩塩と同じように味付けに使用できるので、捨てずに使い切ってほしい。
ちなみにこの岩塩プレート、どのようにして作られているかというと、なんと1個1個手作業でカットされている。昨年、パキスタンに行って岩塩鉱山や加工工場を訪問した時、当然機械で作っているものだと思っていたのでとても驚いた。
しかし実際に見てみると、手作業でしか作れない理由がわかった。岩塩は爆薬で破砕されたあと鉱山から運び出され、一旦集積場に集められ、そこから各工場にトラックで運ばれていく。この段階では抱えるのに苦労するほどの大きさで、形もバラバラだ。それをハンマーでたたいて加工に適した大きさ、つまり出て持てるくらいの大きさまで砕くのだが、それでも大きさも形もバラバラの状態であることには変わりないため、型にはめて機械にセットすることができないのだ。そのため、岩塩を手で持ってカット台の上でカットしていく必要がある。
気の遠くなる作業だ。何より岩塩をカットするため、頑丈で鋭い歯の近くまで手を近づけるので非常に危険で、見ていてハラハラしてしまった。岩塩プレートを皆に披露する際には、ぜひそんなうんちくも語ってみてはいかがだろうか。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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