銭湯に若者集う リノベで変身、モダンと懐かしさ融合
街中の銭湯がリノベーションを進めている。自宅に風呂のない人たちに支えられた銭湯だが、今ではひとときの安らぎを求める人や、旅行途中の一風呂に使う人など、利用者が多様化。進化した銭湯が持つ、温泉やスーパー銭湯とは違う魅力を探った。
学生グループや外国人観光客も
国内最大のコリアンタウンの東京・大久保。その一角にある万年湯は、日曜日の午後9時半を回る頃からピークのにぎわいを見せる。若者のグループやカップル、キャリーバッグを持った旅行者にまじって、外国人の姿も。
「改装後は若い人や旅行者の利用が増えた」と話すのは店主の武田信玄さん。1961年創業の万年湯は、2016年、設備の老朽化に伴い全面改修に踏み切った。「銭湯らしさは残しつつ、渋さのなかに新しさがある空間を目指した」という浴室は、落ち着いた色合いでモダンな雰囲気。鶴をデザインしたタイル絵や障子窓が懐かしさを感じさせる。
湯にもこだわった。地下水を処理した軟水から沸かした湯は肌にやさしいと、常連客にも好評だ。
新宿に近い土地柄から別の観光目的に伴う利用も多い。ライブ参加のため宮城県から来た男子大学生は「夜はネットカフェで過ごす。ふだんはシャワーだが、やはり大きなお風呂は気持ちいい」。友人4人で訪れていた男子大学生も「卒業旅行で、成田空港行きの深夜バスに乗る前に立ち寄った」と満足そうだ。「銭湯体験に訪れる外国人観光客も少なくない」と武田さん。
思い立ったとき、気軽に利用できるのも銭湯の魅力だ。新宿に住む30代女性は「会社の同僚と食事の帰りに立ち寄った。気軽にふらっと入れるのがいい」と話す。
JR北千住駅近くの住宅街に建つ大和湯(東京・足立)も改装を機に客層が広がった。開業から4代目の森山悦子さんは「学生や親子連れが増えた。友達と一緒に来る小中学生もいる」と話す。
大和湯の入り口は、昔ながらの宮造り。堂々とした玄関を入ると、一転、現代的な空間が広がる。1956年に総ヒノキで建て替えたという建物は残しつつ、2013年に内装をリノベーションした。
「白い床に蛍光灯の光という従来の銭湯のイメージを変えたかった」と森山さんの夫、泰好さん。浴室の床のタイルは黒、ライトも温かみのあるオレンジ系を採用し、シックな空間に。屋根付きながら、露天風呂も設けた。森山さんは「温泉旅館をイメージした。大きな風呂で旅行気分を味わってほしい」と話す。
「リニューアルやリノベーションでユニーク銭湯が増えている」と話すのは、あだち銭湯文化普及会の川辺志麻さん。生ビールや食事を楽しめる施設や、24時間フィットネスやカラオケを併設している施設もあるという。一方で、富士山のペンキ絵や昔ながらの番台が残る銭湯も健在だ。「遠くまで行かなくても、500円足らずで、大きな風呂が手軽に楽しめる」と続ける。
銭湯は身近な地域の社交場
同会では、足立区内の銭湯とタッグを組んで、ヨガ体験やシニア向けの美肌サロン、スタンプラリーなどのイベントを開催し、利用促進を図っている。川辺さんは「銭湯はもともと地元の社交場。もっと地域の身近な存在として活用してほしい」と訴える。
一方、「若い人たちにも、銭湯の良さを知ってほしい」と「銭湯アイドル」として活動するのは、漫画家の湯島ちょこさん。人間関係などに悩んでいた時期に偶然立ち寄った銭湯での体験が、活動のきっかけになった。「湯船につかりながら、初対面のおばあちゃんの昔の苦労話を聞いた。知らない人同士がひとつのお風呂に入って話せる場所っていいなと感じた」と湯島さん。週末にファンと一緒に銭湯巡りをするなど、利用のきっかけ作りに力を入れる。
湯島さんは「銭湯は私に元気を与えてくれた場所。一方で、数はどんどん減っている。魅力をアピールして、新しく利用する層を増やしたい」と意気込んでいる。
(ライター 李 香)
[日本経済新聞夕刊2019年3月2日付]
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