子どもの花粉症、免疫療法の効果高く 貼り薬も利点
まもなくスギ花粉が本格的に飛散しはじめる時期。花粉予報を見て憂うつな気分になっている方も多いのではないだろうか。そこで今回は、新薬が登場し、選択肢が増えている花粉症治療の最新事情と、最近、増えている子どもの花粉症とその治療について紹介する。
薬の基本は抗ヒスタミン薬と鼻噴霧用ステロイド
花粉症で受診すると、通常は飲み薬の「抗ヒスタミン薬」と、鼻にスプレーする「鼻噴霧用(点鼻)ステロイド薬」を処方されることが多い。
抗ヒスタミン薬は、花粉によるアレルギー反応で体内に放出される「ヒスタミン」という物質の作用をブロックすることで、くしゃみや鼻水、鼻詰まりといった花粉症の典型的な症状を抑えてくれる。また、鼻噴霧用ステロイド薬は、鼻粘膜に直接働いて炎症を抑える作用を発揮する。
以前の抗ヒスタミン薬(第1世代抗ヒスタミン薬)は、脳に作用して眠気を引き起こす副作用が強く、仕事などの効率が落ちる「インペアードパフォーマンス(能力や効率の低下)」が問題になっていた。しかし今では、脳への作用がより少ない「第2世代抗ヒスタミン薬」が処方されるようになったため、眠気などの心配は少なくなっている。
ただし、同じ第2世代抗ヒスタミン薬の中でも、眠気の発生については差があり、薬によってはクルマの運転などを控える必要がある。診察時や薬局で薬を受け取る際、医師や薬剤師から「服用中はクルマの運転禁止」または「注意して運転する」などの指導と詳しい説明があるはずなので、必ず守りたい。
薬の効力や副作用の現れ方には個人差があるので、眠気についての注意を受けていなくても、ぼうっとしたり眠気を感じたりしたら、運転を控え、医師や薬剤師に相談するとよい。
鼻噴霧用ステロイド薬については、「ステロイドは怖いもの」という印象を持つ人もいるが、飲み薬とは違って成分が血液中に浸透することはほとんどないため、全身の副作用は少なく、長期間使っても安全とされている。
貼る抗ヒスタミン薬も登場
2018年には花粉症の画期的な新薬も登場した。「アレサガテープ」という薬がその1つ。抗ヒスタミン薬だが、飲み薬ではなく貼り薬で、22.3×36.1ミリメートルほどの小さなテープを1日1回貼り換えることで花粉症の症状を抑えることができる。
飲み薬としては、効き目が強い代わりに副作用がやや多く、あまり使われなくなっていたが、貼り薬にしたことで成分が徐々に浸透し、血液中の濃度が長時間一定に保たれるため、副作用を減らすことができた。飲む薬の数が多い人には薬を増やさずに済むメリットもある。入浴後に貼るなど、生活習慣に取り込むことができれば便利だ。
体を花粉に慣らす舌下免疫療法
抗ヒスタミン薬以外にも注目に値する新薬がある。18年に登場した「シダキュア」という薬がその1つ。これは花粉症を引き起こすスギ花粉の成分を少しずつ長い時間をかけて体に入れることで、花粉症の症状を軽減するもの。口の中で溶ける錠剤タイプで舌の下側に約1分間ふくみ、その後、飲み込む。使い方から「舌下免疫療法」と呼ばれる。アレルギー原因物質(アレルゲン)を体内に入れる「アレルゲン免疫療法」の一種だ。日本では、ハウスダストアレルギーの原因であるダニアレルゲンの舌下免疫療法薬も承認・発売されている。
スギ花粉の舌下免疫療法薬としては、14年に「シダトレン」という薬が登場している。シダトレンは液状で、成人と12歳以上の子どもを対象としている。シダキュアは、5~11歳の子どもにも使えること、維持量(少しずつ量を増やした後、飲み続ける成分量)がシダトレンの2.5倍で、より有効性が高いという特徴がある。
アレルゲンを体に入れるため、使い方は少し面倒だ。両剤とも使い始めの1~2週間目に少しずつ量を増やしていく。概要を紹介すると、シダトレンは、10分の1濃度(200JAU/mL)の薬を1-2日目は1日1回0.2mL、3-4日目は同0.4mLと増やしながら舌下にたらし、2分間待って飲み込む。2週目は通常濃度(2000JAU/mL)を1週目と同じように増やしていき、3週目からは、通常濃度で毎日1mLずつ服用する。
シダキュアはよりシンプルで、1週目は2000JAUの錠剤を1日1回舌下におき、1分間待って飲み込む。2週目以降は通常濃度の5000JAUの錠剤を同じ方法で服用する。
シダトレン、シダキュアとも前後5分間はうがいや飲食を控えるほか、激しいアレルギー反応(アナフィラキシー)が起きる可能性があるので、前後2時間は激しい運動や入浴を避ける、他人の目の届くところにいるといった注意が必要だ。
アレルゲン免疫療法は、抗ヒスタミン薬などと違って即効性はなく、花粉症シーズン以外も、数年にわたって飲み続ける必要があるが、スギ花粉に対する体の反応、言い換えれば「花粉症体質」を変える効果が期待できる。日本医科大学耳鼻咽喉科教授の大久保公裕氏は、「舌下免疫療法を行うと、治療をやめたあとも花粉症の症状が出ないか、軽くなる状態が続く場合が多い。ただし1年で効果がなくなる人もいれば、3年から5年も続く人もいて、飲んだ全員に同じように効くわけではない」という。
なお、舌下免疫療法は、ごく少量とはいえ、アレルギー物質を体に入れるため、この治療法やリスクに詳しい医師がいる病院・診療所で処方が行われている。
免疫療法は子どもがより有効な可能性も
以前、花粉症は思春期以降にかかる病気だったが、現在では小学生の花粉症は珍しくない。京都府の小中学校を対象とした研究で、1994年から2008年の間にスギ花粉症にかかっている子どもの比率が、9~13%から25~29%と大幅に増加したことが明らかになっている。
スギ花粉症のシーズンは、受験や学年末試験、卒業・入学などの時期と重なるので、症状を抑える適切な治療が必要となる。特に、受験期の子どもでは、眠気などのインペアードパフォーマンスが起きにくい治療法が望ましい。このため、本番に支障がないように、花粉シーズンが近づいたら早めに受診して、医師や薬剤師にもよく相談し、薬の相性も確かめておくと良さそうだ。
アレルゲン免疫療法も子どもの花粉症に対する治療選択肢の1つだ。大久保氏は、「免疫療法は低年齢で始めると保護効果が大きく、スギ花粉に対する免疫を変えることができる可能性が大人よりも高い」と期待を示す。
なお、花粉症治療に用いられる抗ヒスタミン薬の適応年齢は薬ごとに違う。臨床試験などで安全性が確認された年齢範囲が異なるためだ。ほかの薬同様、親が自分に処方された花粉症薬を子どもに使い回すのは控えた方がいい。
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家庭でできる花粉症の対策は、「できるだけ花粉を浴びない」ことに尽きる。医師向けの鼻アレルギー診療ガイドラインでも、花粉を体に入れないための対策をまとめている。こうした情報を活用してつらいシーズンを乗り切ってはいかがだろう。
なお、今回取り上げた抗ヒスタミン薬や舌下免疫療法の薬は、ほかの多くの薬と同様、原則として妊娠中や妊娠の可能性がある場合、授乳中には服用できない。また、薬によって肝臓や腎臓などの臓器への負荷が異なるので、持病がある場合や別の薬を服用している場合は、受診時にお薬手帳を持って行くなどして、よく医師や薬剤師と相談して、安全な薬を選んでもらおう。
本記事で取り上げた新薬のほか、鼻や眼の症状がひどく、満足に眠れない、薬の効果もないといった重症の花粉症に対し、花粉症の症状を起こす仕組みをブロックする抗体医薬の開発が進められている。登場までにはまだ時間はかかりそうだが、つらい思いをしている患者さんには朗報だろう。
1.花粉情報に注意する。
2.飛散の多いときの外出を控える。外出時にマスク、メガネを使う。
3.表面がけばだった毛織物などのコートの使用を避ける。
4.帰宅時、衣服や髪をよく払ってから入室する。洗顔、うがいをし、鼻をかむ。
5.飛散の多い時は窓、戸を閉めておく。換気時の窓は小さく開け、短時間にとどめる。
6.飛散の多い時のふとんや洗濯物の外干しは避ける。
7.掃除を励行する。特に窓際を念入りに掃除する。
(出典:鼻アレルギー診療ガイドライン2016)
東京大学大学院医学系研究科修士課程修了。日経BP社入社後、PC系編集部を経て2000年から同社医療局勤務。日経メディカルオンラインの前身に当たるMedWave編集長など。2018年8月からはフリーランスのライター/エディターとして活動中。同時に慶應義塾大学SFC研究所上席所員として、医学・健康関連のコミュニケーションについて研究・コンサルティング活動を進めている。
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