「寺に来てくれる男性求む」女性僧侶たちの真剣な婚活
12月上旬。東京・築地の築地本願寺で、「恋婚(れんこん)」という名の婚活イベントが開催された。お寺で開く婚活イベント、通称「寺コン」はこの数年人気が高まっているが、「恋婚」がちょっと違うのは、男性僧侶、そして女性の僧侶も対象にしている点だ。
「恋婚」の企画と主催は真宗教団連合。10派ある浄土真宗全体の共同事業や、各派を対象にした支援事業を手掛けている。
「出会いがない」地方寺院の後継者
全国の寺院の数は現在、約7万あり、コンビニよりも多いといわれる。その中で浄土真宗の寺院数は2万3000を数え、最多。しかしどの宗派でも、世襲を基本としている寺院は近年、後継者問題に直面するところが多い。
「特に地方の寺院では、結婚相手との出会いがない、という声をよく聞きます。以前から、『寺に来てくれる人求む』といった告知欄を機関誌に設けるなど各派での取り組みはしてきましたが、10派全体の支援を担当している真宗連合としても取り組むべきだとして始めたのが『恋婚』です」(真宗教団連合の担当者)
スタートしたのは2015年。当初は浄土真宗の僧侶とその家族、そして門信徒を参加対象者にしていた。年2回ずつ開催し、これまでに4組が成婚しているが、課題もあった。せっかくカップルが成立しても、男性・女性がどちらも「相手を自分の寺に迎えたい」と考えていて進展しないことがあるのだ。
そこで今年からは、2つのグループに分けて実施することにした。第1のグループは「『女性をお寺に迎えたい』男性と『お寺に入りたい』女性」が対象。第2のグループが「『男性をお寺に迎えたい』女性と『お寺に入りたい』男性」が対象だ。さらに今回から募集対象を、僧侶や門信徒に加えて一般男女にも広げた。
今回の参加者ではないが僧籍を持つ女性はこう話す。「自分が住職になって実家の寺を継ぐ場合、結婚相手には別の仕事をしてもらっても構わない。僧籍を持つ男性であれば住職になってもらい、自分が坊守(住職の配偶者)になってもいい」。女性が「お寺に迎えたい」という場合、このようなケースがあるという。
女性僧侶「結婚相手にはお寺に来てほしい」
今回の参加者は2グループ合わせて49人。年齢は25歳から45歳くらいまでで、30代が中心という。そのうち、女性側が僧侶やその家族である第2グループの回に同席させてもらった。僧侶といっても髪をそっている女性はいない。服装も法衣ではなく、見た目は通常の婚活パーティーと変わらない。男性側には、浄土真宗の関係者ではない一般参加の人も複数いる。
最初に全員で法話を聞いた後、1回につき3分ずつ、1対1で会話をしていく。自分の基本情報を記入した「プロフィールカード」を相手と交換し、会話が終わったら相手の印象を記号で書き入れて互いに返却する。全員との会話が終わったら休憩をはさみ、全員で築地本願寺の境内の見学に出掛け、その後フリータイム。このころになるとかなりリラックスした雰囲気になり、数人で談笑する姿も見られる。
「最終投票」では、カップルになりたい相手の番号を第1希望から第5希望までカードに書いて提出し、事務局が集計。ただし「結果発表」はなく、カップルが成立したかどうかは、男女それぞれに渡される封筒の中のカードに書かれている。成立した場合は、築地本願寺の境内にあるカフェの利用券も同封されている。カフェで引き続き2人でゆっくり話をしてほしいというわけだ。残念ながら成立しなかった場合も、専用のカードに自分の連絡先を記入して相手に渡すことができるし、事務局に依頼して渡してもらうこともできる。
イベント終了後、参加者の一人で僧籍を持つ女性に話を聞いた。清楚(せいそ)な印象の29歳の女性は関西に実家の寺院があり、現在は別の場所で仕事に就いている。以前、結婚を考えた人がいたが「お嫁に行く」ことに両親が反対し、断念した経緯があるという。
「お寺の仕事は土曜日曜も関係なく、今世の中で求められている働き方とは相いれない部分もあります。結婚相手にはやはり、そうした事情を理解して来てくれる人を希望します」。今日の印象を聞くと「話す時間がちょっと足りなかったという気はしますが、最初からお互いの条件が分かった上での場というのはありがたいですね」
ちなみにこの日、2グループで合計11組のカップルが成立したそうだ。
(秋山知子)
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