70歳、第一線で働く女性 息長いキャリアを助言
フリーアナウンサー 山根基世さん 人率いた経験、生き方変えた
――定年後のことを不安に思う女性は少なくない。
「40歳前後で老い先を不安に思うのはすごく分かります。泥沼に引きずり込まれるような疲労感ですね。歳をとったら達観しているのかと思ったけれど、今も若い時と変わらず修羅を抱えている感じはします」
「70歳までを振り返ると、それでも今が一番充実している。本当にやりたいことしかしていない。(私的な)朗読会を広げていきたい。そう目標を定めたのは定年2年前の50代。社会の関心を集めた子供による不可解な事件があり、背景を考えると言葉によって良い人間関係を築けていないようだった。日常の話し言葉の大切さを伝える活動に関わることを決めました」
――定年前に会社を辞めようと思いましたか。
「しょっちゅうでした。でも辞めなかったのは悔しかったから。40歳ごろに働く女性をターゲットにした番組を作った際、同い年のスタッフらは私の発言を聞いてくれなかった。後で気付いたのは、組織での生き方というのがあること。私はスタッフの言うことを全否定していた。それで互いに傷つけ合っていた」
――いまの働く女性に何を伝えたいですか。
「その時に私に欠けていたのは言葉です。論理的に相手の心に届く、やさしい言葉で語れば良かった。そうすれば私も苦しまなかった。人間は1匹の"虫"を飼っています。その名は自尊心です。これを傷付けてはいけないと伝えたい」
「当時はアナウンサーだけをやればいい役割から、人を率いる立場になった頃です。この時期が一番貴重。その後の生き方も変わりました。以降は後輩にも丁寧語で接しています。リーダーシップを発揮する立場の人は言葉を大切にしてほしいですね」
国立女性教育会館理事長 内海房子さん どんな仕事も意味見いだす
――70歳で働いていることは想定していましたか。
「コンピューターの仕事がしたいと技術職約1000人中、唯一の女性として働き始め、実家も職場も徒歩5分の場所に住み、育児をしつつキャリアを積んだ。知人によると若い頃の私は定年を待ち望んでいたそうですが、内閣府の男女共同参画推進連携会議の議員を務めた縁から60代で現職に。今なお現役です」
「職住接近は定年まで勤め続けるためでした。だが、当時は大卒女性もほぼ結婚し家庭に入った。長く働き続ける女性は見当たらず職場では『いつか辞める人』と見られたようだ。5年ぐらい同じ仕事しか与えられず悔しい思いもしました。働き続けたいと伝えなければ周囲は分からない」
――長く第一線で働きたい女性が、若いうちから心がけたいことは。
「好きな仕事を続けられればいいが、人生はそううまく回らない。私もソフト開発の現場から突然、人事課長に。勤務地も本社に移り戸惑いばかりでした」
「だが、待っていた仕事は女性社員の育成。産休取得も事業場で初だったこともあり、私にしかできないと思った。後進の女性たちが気持ちよく働けるよう取り組んだ経験が今につながる。どんな仕事にも意味がある。壁にぶつかっても、なぜその職務を与えられたのか楽しんで考え、課題を崩していってほしい」
――定年や定年後について考えたきっかけは。
「50歳で受けたセカンドキャリア研修だ。仕事も私生活も棚卸しをし改めて人材育成をしたいと気づいた。思いを書き出すとやりたいことが明確になる。65歳を迎え70歳まで働く期間を延ばそうとするだけでは中途半端。40代で計画し50代で飛び立つと次のキャリアが開けるのではないか」>
定年後にらみ情報提供を ~取材を終えて~
男女雇用機会均等法の施行から30年余りたち、女性の就労が長期化した。女性の定年などを研究テーマにする昭和女子大学現代ビジネス研究所の西村美奈子研究員(58)は、今後20年で380万人の女性が定年に直面すると指摘する。
ただ、女性は前例が少ない分、定年後の人生設計が男性より見えづらいと西村さんは話す。自身も40歳代で定年後が不安になった。企業は50歳を過ぎた人に関連セミナーを開くなど情報提供する必要があると強調する。富士通グループで部長まで務めた西村さんは早期退職を選択。ライフワークとなった現職にたどり着いたのは50代半ばになってからだ。
「人生100年時代」に対し生涯働くのかと負担感を持つ人もいる。ただ、内海さんは研修施設も運営する法人のトップに60代で就き念願の人材育成を推進。山根さんはやりたいことが定年間際に明確になったという。好きな仕事で暮らす2人の姿は元気を与えてくれる。
(女性面編集長 佐々木玲子、岩本圭剛)
[日本経済新聞朝刊2018年11月19日]
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