地方移住セミナーが盛況 20~30代が地方都市めざす
首都圏から地方に移住するセミナーが盛況です。移住相談の窓口として39道府県が相談員を置くNPO法人ふるさと回帰支援センター(東京・千代田)の2017年の利用者は3万3165人と前年より25%増えました。今年は4万人を超える勢いで真剣に移住を考えている人のほか、地方の暮らしぶりを知りたいという人も多いようです。ふるさと納税もそうですが、そのまちと関わりを持っていたいファン、いわゆる「関係人口」の広がりを映しています。
10月末の週末金曜の夜、同センターで広島県が開いたセミナーでは、広島に移住して起業した3人のゲストの話に20~30歳代中心の23人が聞き入りました。仕事はアンティーク家具や雑貨の製造販売で年商は3200万円から400万円まで様々。ネット販売が主体で年商400万円でも「東京で美容師をしていた頃より生活水準は上がった」という話に参加者はうなずいていました。
セミナー後は懇親会で交流。知り合いになったゲストのもとを実際に訪れる参加者もいてファンが広がります。珍しい特産品や田舎暮らしを楽しむ人との出会いに期待する参加者も多いようです。すぐに移住しなくても「観光以上、移住未満」のつながりを持ってくれる関係人口を自治体は増やそうとしており、同センターのセミナーは今年500回を超えそうです。
かつて移住相談に訪れる人はシニア層が中心でしたが、今は20~30歳代が半数を占めます。移住希望の若い世代の関心は仕事です。この日、別の部屋では山口県が事業承継をテーマに移住セミナーを開いていて24人が耳を傾けていました。共働きの奥さんと参加していた30歳代男性は「来春に移住を考えていますが、事業承継は少し違うと感じました。転職先を探しています」と話していました。
転職先の企業を見つけやすいのは地方の中核都市でしょう。同センターの高橋公理事長は「最近の傾向は山村より地方都市」と指摘しています。移住を希望する地域で地方都市は17年に64%と前年より14ポイントほど増え、農村や山村、漁村の希望者は減りました。政府も地方創生の一環で地方都市の魅力を高める方針を打ち出しています。
ただ人口移動をみれば、地方から東京圏への流入はなお流出より年10万人以上多く、東京一極集中の流れは変わりません。17年の移住希望先ランキングでトップの長野県の移住相談員は「若い世代は将来、出産や仕事の転機に移住を考えたいという人が多く、とても計画的です」と話しています。若い世代に関係人口から始めて長い目で寄り添う移住対策が大切かもしれません。
高橋公・ふるさと回帰支援センター理事長「東京にいてもいいことはあまりないと考える若者が増えた」
最近の地方移住の状況について、移住支援の認定NPO法人ふるさと回帰支援センターの高橋公理事長に聞きました。
――地方移住の相談が急増しています。
「東日本大震災で田舎暮らしへの関心が高まり、政府が地方創生を始めた後の15年から一気に増えた。今年は月間の利用者数が4000人を超えることも珍しくなく、年間4万人を超える見通しだ。10年前は7割が50代以上だったが、17年は20代以下が21%、30代は29%と30代までで半数を占めている。シニア層は今も一定数いるが、増えている分はほとんどが若者だ」
「やはり価値観が変わってきたのだと思う。ゆとり教育の世代が30代にさしかかっている。非正規労働や派遣社員が働く人の6割を占め、貧富の格差が拡大する中、『東京にいてもいいことはあまりない』と考える若者が増えているのではないか。東京は保育所も足りず、地方のゆったりした環境で育てたいという子育て世帯も多い」
――郷里に帰るUターン、郷里に近い地方都市に戻るJターン、郷里と異なる地方に行くIターンに分けると傾向は見えてきますか。
「例年、多くはIターンだが、最近、増えているのがUターンだ。13年は2割だったが、ここ3年ほど3割を超えている。年代別にみると20代にUターンが多く、17年は4割になった。東京に出て来て努力したが、あまり報われていないという若者の思いがこの辺りにも出ているのではないか」
「若者の移住希望者が増えた結果、移住先を決める条件の優先順位も変わってきている。かつてはシニア好みの悠々自適な生活を求めて『自然環境が良いこと』が多かったが、最近は『就労の場があること』が圧倒的に多く、17年の調査では複数回答で6割の人が優先する条件に挙げた」
――移住希望地ランキングはここ数年、長野と山梨が交互にトップになっています。
「長野県には77市町村あるが、そのうち40以上の市町村が入れ代わり立ち代わりセミナーを開いている。最近、人気が出ているのが新潟だ。3年前から相談員を置いて力を入れ始め、Uターンが多いのが特徴だ。富山も今年、予算と相談員を増やしており、上位に入るかもしれない。予算をかければ結果は出る。県がやる気を見せれば市町村も本気になって移住者を受け入れる受け皿づくりをする」
「シニア世代は山梨や長野、静岡など首都圏に近いところを希望する人が多い。親の介護など何かあったときにすぐに戻れるからだろう。一方、若者は『こういう仕事や暮らしをしたい』というこだわりが強く、それに合うところなら距離に関係なく、ポンと飛んでいく傾向がある」
――相談が実際の移住に結びつくのはどのくらいですか。
「そこは各市町村が把握しているが、国はまとめた数字を持っていない。これだけ予算を使っているのだから、政策効果をしっかり検証することが必要だろう」
(編集委員 斉藤徹弥)
(表)移住希望地ランキング
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