リアル店舗で情報検索 新世代ディスプレー展示の狙い
腕時計とワイングラス、それぞれ高級嗜好品を扱う2つのブランドが、銀座にオープンした販売店に新型のディスプレーを導入した。実際に使用して感じたのは、インターネットで買い物をするのが当たり前になった時代ならではのアプローチだった。
単に実物を展示するだけではない
スイスの高級時計メーカー「タグ・ホイヤー」が2018年4月、銀座中央通りにオープンした「タグ・ホイヤー 銀座 ブティック」。この店内に設置されているのが、同社が世界で初めて導入したというディスプレー「iTAG(アイタグ)」だ。
ディスプレーごとに「MEN」「LADIES」「CONNECTED WATCH」などテーマがつけられ、実物の時計と、タッチパネル式の画面が設置されている。利用者がタッチパネルから自分の見たい時計を選ぶと、時計が設置されている部分が回転し、選んだ時計の実物が現れる。
「ショーケースの上からガラス越しに見るだけでは難しかった細部のデザインを確認したり、自分の腕を横に置いてつけたときの感じをイメージしたりするなど、実際に触れて時計選びを自由に楽しんでいただけるようになっています」(タグ・ホイヤー広報担当)
iTAGは時計のショーケース販売を手掛けるスイスのXavier Dietlin社とタグ・ホイヤー社が共同開発したオリジナル。スイスで毎年開催される世界的な時計の展示会「バーゼルフェア」で18年3月に公開された。銀座に続きニューヨークの店舗に導入され、今後ロンドンにオープン予定の店舗でも導入される予定だという。
ワイングラスのトップメーカー、オーストリアの「リーデル」も、18年4月、国内12店舗めとなる銀座店をオープンした。この店舗にも同社の店舗で初めて導入したディスプレーがある。
それが40インチタッチパネルの「グラスセレクター」。ワインのぶどうの品種や産地から、最適のワイングラスを探すことができる。
同社は230種類以上のブドウ品種、ワインタイプ、それぞれに適したグラスがリストになっている「RIEDEL WINE GLASS GUIDE」というカタログを持つ。
「グラスセレクターはそれをデジタル化したもの。お客様がより直感的にグラスを選んでいただけるツールとして開発しました」(リーデル・ジャパン 富樫聡さん)
ネットとの類似点と相違点
「自由に選べる」「直感的に選べる」という関係者の言葉通り、2つのディスプレーに共通するのは、店舗を訪れた人が自分で情報を検索できることだ。
リーデル・ジャパンの富樫さんも「店員に説明を求めず、自分が気になるグラスを自分のペースで選びたいというお客様は、やはりいらっしゃいます」という。
「自分のペースで商品を選びたい」「店員に説明されると緊張する」といった人たちでも、これらのディスプレーを使えば情報を収集できる。スマートフォン(スマホ)やパソコンで検索する感覚に近いとも言える。
一方で、インターネットと違うのは、その場で実物が見られることだ。腕時計やワイングラスといった嗜好品が持つ高級感は、ネットでは確認しづらい要素だろう。さらにわからないことがあれば、店員に聞くこともできる。
高級ブランド店に入ることにハードルの高さを感じていた人たちを店舗に導く効果はありそうだ。
店で買わなくてもいい
タグ・ホイヤーはさらに一歩進んで、「店で買わない」ケースも想定している。
iTAGでは、各モデルごとにQRコードを表示する。これをスマホで読み取ると、同社のオンラインサイトのウィッシュリストに登録できる仕組みだ。情報がスマホにダウンロードされるような演出も面白い(その様子は記事前半の動画で確認できる)。
店頭でいくつか気になった時計を登録しておき、自宅でゆっくり比較検討した上で、インターネットから購入することができる。
タグ・ホイヤーによると2月にスタートしたEコマースの売り上げは、開設前の予想を上回っているという。また年齢別に見ると20代の購入者が増えているそうだ。
従来の高級ブランドは「店舗に足を運んで商品を買う」ことがステータスだった。しかし、インターネットでの買い物を若い頃から経験している世代の中には、自分のペースで情報を集め、使い慣れたインターネットで購入することを好む人も多いようだ。
(文 北本祐子)
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