語学留学、伸びる東南アジア行き 期間の短さに課題も
日本から海外への留学が急増しています。日本学生支援機構の調査によると、国内の大学などがつかむ留学する学生の数は2016年度、約9万7千人でした。比較可能な09年度から毎年増え、2倍以上に達しています。留学事情に変化があったのでしょうか。
日本人の留学目的の約7割は語学との調査があります。言語は英語のイメージが根強いですが、行き先には変化があるようです。09年度は多い順に米国と英国、オーストラリア、カナダで全体の約55%でしたが、16年度には約46%まで減りました。
半面、フィリピンやマレーシアといった東南アジアへの留学が増えています。フィリピンは09年度の約300人から16年度には約3千人と約10倍に増えました。米国が旧宗主国だったため英語が公用語のひとつで、物価安も理由です。語学留学の行き先は、留学生の節約志向を背景に、費用を抑えられる国を中心に多様化しているようです。
マレーシアへの留学生が増えているのはフィリピンと同じく日本から近く、物価が比較的安いことに加え、治安の良さもありそうです。海外留学関連の企業・団体で構成する海外留学協議会(東京・新宿)の星野達彦氏は「英国が旧宗主国で、しっかりした教育制度がある」と指摘します。後の進学を視野に学ぶ人も多いそうです。
欧州にも穴場があるようです。地中海の島国、マルタ共和国は英国が旧宗主国で、公用語はマルタ語と英語です。星野氏は「次のブームはマルタだろう」とみます。いままでは近くのイタリアやスペインから学びに来る人が多かったそうです。物価が比較的安く、小国なので移動が楽なのも魅力といいます。
語学留学が増える一方、上武大学講師の鈴木穣氏は、留学期間の短さが課題としています。16年度の留学期間は1カ月未満が全体の約60%で、1年以上の留学は3%未満の水準です。鈴木氏は「グローバル人材の能力を養うには、数年の留学が理想だ。短期では、日本人の留学生同士の交流で終わってしまうこともある」と分析します。
長期の留学といえば学位目的の留学です。経済協力開発機構(OECD)の調査では、海外の大学に籍を置く日本人留学生数は04年の約8万3千人をピークに減少傾向です。節約傾向に加え、若者の「内向き志向」も影響しているとみられます。
文科省は学位目的の留学に返済不要の奨学金を支給する制度を設け、後押ししています。星野氏は「20年から日本の大学入試の英語科目で、留学の際も使う外部試験を利用できる。海外の大学に進みたい高校生も増えるのでは」と増加の可能性に言及しています。
星野達彦・海外留学協議会理事「留学経験者、企業が活用できる仕組み課題」
留学を幅広く支援する海外留学協議会で理事を務める星野達彦氏に、最近の留学動向と今後の見通しについて聞きました。
――どういった目的の留学が多いですか。
「協議会に所属する企業からのヒアリングなどによると、日本人で一番人気があるのは英語の語学留学だ。最近は中高生の語学留学が増えている。20年から大学入試の英語科目が4技能(読む、聞く、書く、話す)となるため、早い時期から英語に親しませたいという親が増えてきた」
「同時に社会人の語学留学も増えている。英語くらい話せなければという風潮や、英語を社内公用語化する会社も出てきたことが要因だ。会社側も、いままではMBA(経営学修士)など専門的な学位を取らせる流れがあったが、同じ費用で多くの社員に語学留学させたほうがいいと考える会社が目立つ。フィリピンのような留学先は、会社派遣で英語を学びに来ている社会人が多い」
――昔と比べ、留学者は増えていますか。
「バブルごろから00年くらいまでは非常に多かったが、急落した。11年ごろからは景気が上向いたことなどで、V字回復してきた。短期留学を契機に、本格的に長期留学を目指す流れが生まれるのではと考える」
――学位取得を目的にした留学は今後、増えますか。
「今後、高校生が進学先として海外の大学を目指すことが増えていくだろう。例えば有名進学校では、日本のトップクラスの東京大学や京都大学を目指すのではなく、アイビーリーグ(米国の名門私立8大学)や英オックスフォード大などを目指す学生が出てきた。大学入試の英語科目の変更と合わせ、学力上位層からの動きが、全体の志望動向に変化をもたらす可能性はある」
――最近はインターネットで調べれば簡単に海外の知識を得られます。留学のメリットはなんですか。
「留学は単に海外を訪れるだけでなく、暮らすことになる。現地の人と接し、留学先の学校にいる多様な人種と仲良くなり、けんかも失敗もする。こうした経験からグローバル人材に求められるような異文化への適応能力が身につけられる。実際に体験しなければ得られない能力といえる」
――留学経験を活用するための課題はありますか。
「海外経験のある人材が必要な中小企業は多い。だが留学経験者が優秀なのか、どこにいてどのように採用すればいいかのノウハウに乏しい。経験者側も大企業に目がいきがちだ。企業と経験者の就労のマッチングと仕組みづくりは最大の課題といえるだろう」
(久保田昌幸)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。