週末レシピ 猛暑に勝つ 身近な材料で本格サムゲタン
今回のお題は 「サムゲタン(参鶏湯)」。えっ? サムゲタンって、韓国の伝統薬膳料理で、 寒い冬の日に食べて体を芯から温める鶏のスープのこと? こんな認識の方が多いかと思うが、日本の夏にウナギを食べる土用の丑の日があるように、 実は韓国では夏の暑い日、滋養強壮効果を期待して、 サムゲタンを食べる習慣がある。夏バテ対策の強力な味方だ。
それでも、鶏を丸々1羽使っているし、何やら漢方薬のようなモノも入っている。近所のスーパ ーではとても調達できそうにないではないかという反論もありそうだ。これも、心配ご無用。本来は丸鶏を使用するが、今回は、切り分けられた肉を使う。薬膳スープに使用する高麗ニンジンなどの材料も、身近にある食材で代用可能。作り方はいたってシンプル。鍋に材料を入れ、あとは待つだけ。1時間ほどで仕上げられる。サムゲタン風ではなく、本格的なサムゲタンの味わいとなる作り方をお教えしよう。
<材料(2~4人前)>
鶏モモ肉 2枚 / 鶏ムネ肉 2枚 / 鶏手羽元 4本 / 鶏手羽先 4本 / ニンニク 1株 / ショウガ 少量 / ナツメ 適量 / 松の実 適量 / クコの実 適量 / 甘栗 適量 / ギンナン(水煮)適量 / 干貝柱 数粒 / 赤飯 茶わん1~2杯分 / ブレンド茶(市販のペットボトル茶飲料)1~2リットル / 塩 少々 / 長ネギ 2本
材料は一般のスーパーで入手可能。鶏肉はパック売りのもの。本来は生の餅ゴメを鶏の腹に詰めるが、丸鶏を使用しないので生の餅ゴメを詰める作業も不要。 このためだけに餅ゴメを購入せずとも、おにぎりやレトルトの赤飯でよい。これで、大幅な時間短縮にもなる。
ナツメ、松の実、クコの実は、中華食材売り場や製菓材料売り場で入手できる。生の栗やギンナンも使用するが、この時期の日本には出回っていないので、 甘栗や缶詰などで代用。これも時短の助けになる。
スープの材料は、韓国食材店などで取り扱いのある、サムゲタン用の漢方セットを使用すればよい。いやいや、「近くに韓国食材店なんてないよ」という方が大半だろう。もちろん、強力な代替品を用意している。高麗ニンジンが含まれているペットボトル茶飲料だ。コンビニでもどこでも買えるだろう。
1軒のスーパーですべての材料を購入し たら、あとは煮るだけ。1時間ほどで完成するので、左党の方はビールやマッコリを冷やし始めてから、準備に取りかかるべし。
<作り方>
(1)鶏肉と干貝柱を鍋に入れ、肉にかぶる程度の水を注ぐ
通常、干貝柱は使用しないが、コク出しのために投入。途中でアクを取る。ナツメはアクを吸着しやすいので、しっかりと取り除いておこう。
(2)アクが出なくなったら、ニンニク、ショウガ、ナツメ、松の実、クコの実を入れ、全体がかくれるまでブレンド茶をつぎ足す
軽めの沸騰状態を保ったまま、30~40分ほど加熱する。
(3)肉が軟らかくなったら、甘栗、ギンナン、赤飯を加え、さらに10~15分ほど火を通す
生の餅ゴメではなく、炊き上がった赤飯で代用するため、最後に入れて軽く火にかければよい。貝柱の塩分、栗やナツメの糖分に差があるので、味見をしながら塩で調節しよう。最後に、スライスした長ネギをのせてでき上がり。
目指すは、少し物足りなさを感じるくらいの「やさしい味」。それにより、食材のうま味を存分に味わえる。まずは、素材がストレートに効いたスープを満喫しよう。後半はキムチを加え、酸味と辛味をプラスし、味変を試みるものありだ。消化もよく、夕食としても理想的。
残ったら、冷蔵庫に入れておくと、翌朝には鶏肉のコラーゲンがプルプルとゼリー状に固まり、冷たい鶏がゆが楽しめる。これには、韓国ノリを添えてもよい。喉越しがよくサッパリと食べられる。朝からジメジメと湿度の高い、夏の朝食にうってつけ。
サムゲタンについて、あらためて説明しよう。正式な定義は、産卵前の若鶏(ヤクピョガリと呼ばれるヒナ鶏)の腹に餅ゴメ、栗、ギンナンなどを詰め、高麗ニンジン、ナツメ、ニンニクなどと一緒に炊いた鍋料理だ。良質なたんぱく源でもある鶏肉。疲労回復効果が期待される高麗ニンジン。胃腸にやさしい、軟らかく炊いた餅ゴメや栗。鶏のうま味が効いたおいしいスープというだけではなく、韓国では、夏のスタミナ料理として親しまれている。
日本の土用の丑の日に当たるのは、一年で最も暑い時期とされているポッンナル(伏日)と呼ばれる日だという。「一夏に3回訪れ、カレンダーにも載っています」となじみの韓国料理店で教えてもらった(2018年は、7月17日、27日、8月16日とのこと)。
またスープについては、「地域や季節、店によっても材料は違います。でも必ず入るのは高麗ニンジン、ナツメ、ニンニクですね」と、プサン出身の副店長とソウル出身のスタッフが口をそろえた。ちなみに、本場韓国では、1人1鍋。鶏1羽で1人前なのだ。
ペットボトル茶飲料についても、解説しておこう。最近は、一般に市販されているペットボトル茶飲料の種類が豊富。好みのものでかまわないが、表示を見て、高麗ニンジンが含まれているものを選ぼう。何と言っても、「サムゲタン」の「サム(参)」とは、高麗ニンジン(人参)の意味なのだから。それが入っていないと、単なる鶏スープになってしまう。
ここでは、日本コカ・コーラの「からだ巡茶」のペットボトルタイプを使用している。ティーバッグタイプの「からだ巡茶」や、伊藤園の「元気人参茶」などを使用し、好みの濃さに煮出してから使用してもよい。
私が、初めてサムゲタンをおいしいと感じたのは、25年ほど前のソウル。韓国に里帰りする知人に合わせ、飛行機に乗った。当時の日本では知名度が低く、あまり食べたことがない私のため、高級専門店に案内してくれた。以降、私はサムゲタンの大ファンになり、外食だけではなく、自宅でも作るようになったのだ。
調理師学校時代、鶏1羽をさばくテストがあった。自宅で練習をしようにも、ウン十年前は一般には取り扱いが少なかったため、毎回わざわざ精肉店で注文し、練習に励んだものだ。近年、クリスマス時期でなくとも、スーパーで丸鶏を見かけるようになった。機会があれば、丸鶏でも挑戦してほしい(丸鶏が冷凍の場合、解凍方法は「週末レシピ Xマスチキン、ジューシーに仕上げる秘密」を参考に)。
サムゲタンにキムチときたら、ビールもよいが、この季節のお薦めはシャーベットマッコリ。キンキンに冷えたマッコリを、韓国流におわんに注いでグビり。ほろほろと崩れる鶏を、はふはふしながら食べる幸せ。気分は韓国だ。まだまだ暑さの続く日本列島。自宅でも手軽に作れる、栄養満点料理で夏を乗り切ろう。
(世界料理探究家 T.O.ジャスミン)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界