海外ドラマ『13の理由』 女子高生の自殺巡る衝撃作
2週間前に自殺した女子高生ハンナ。その理由を自ら録音した13本のカセットテープをめぐり、同級生や親たちがハンナの生前に何があったのかをたどっていく。ミステリー仕立ての青春群像劇『13の理由』は、米国の作家ジェイ・アッシャーの同名小説のドラマ化。10代の自殺やうつ病、レイプ、いじめや暴力、アルコール依存などの深刻な問題にも真正面から切り込んだ衝撃作だ。
2017年3月、動画配信サービスのネットフリックスで世界同時配信が始まり、直後からSNSでの口コミを中心に人気に火がつき、世界中で大きな反響を呼んでいる。
製作総指揮と脚本は、トニー賞およびピューリッツァー賞を受賞したヒットミュージカルを手掛けてきたブライアン・ヨーキー。作品のプロモーションのために来日したヨーキーは、現代の高校生が抱える問題について次のように語った。
「昔と変わらないのは、漠然とした不安であり、自分が誰であるのかというアイデンティティーの問題だ。だが、今はインターネットやSNSでコミュニケーションや全ての動きが速くなっている。そういう意味では、非常に生きにくい環境になっていると思う」
ヨーキーは、かつて10代の若者たちに演劇の指導をしていた。その経験を通して、「子どもたちは大人が考えるよりもはるかに複雑で、いろんなことを考えていると実感した」ことが、今回のドラマに大きく影響しているという。同時に、大人たちがどれほど真摯に若者の抱える問題に向き合っているのかを伝えたいというヨーキーの強い願いも込められている。だからこそ、物議をかもしたハンナが自殺する場面も、残酷な描写を避けずに自殺という行為を直視することに迷いはなかった。
「これは命を断った女性の物語。その周りのことを何話もかけて描いてきて、実際の行為となった途端に、その現実を無視したり、顔をそむけるということはやりたくなかった。全ての視聴者に、どれだけ自殺が痛々しく、悲劇的で、本当に恐ろしいものであるかということを見せたかった。また、その影響で、どれほど多くの人が悲しむのか、親や友達にとって痛みを残すのかということをしっかり見せたかった」
宣伝だけでなくフォローも
もともとは、本作の製作総指揮を手掛ける歌手で女優のセレーナ・ゴメス主演で映画化の企画が進行していた。だが、結果として13話のドラマとして描くことが「完璧な形だった」とヨーキーは語る。
「キャラクターたちと約13時間、しっかりと向き合う時間があったことは非常に良かった。ネットフリックスはCMがなく、連続視聴できるというスタイルも理想的。何より、私たちの作りたいビジョンをサポートしてくれる体制がある。『13の理由』のように非常に正直で、大胆であるものを作りたいと思うのであれば、ネットフリックスはそうした才能を支えてくれる場所だと思う」
ドラマ内でもSNSは重要な要素だが、本作のヒットにはSNSは欠かせない存在だ。主演格のキャストたちは、各々にツイッターやインスタグラムなどで何百万ものフォロワーを持つ。彼らはドラマの宣伝というだけでなく、SNSを通じて自らの体験を語り、「あなたは1人じゃない」という作品のメッセージを積極的に発信している。一方、ドラマでは悩んでいる若者の相談窓口の連絡先を明記するなど、視聴者へのフォローも手厚い。
単なる娯楽という枠を超えて、本作は世界中で議論が交わされる社会的に意義のある作品としてキャストや視聴者とともに成長を続けている。SNSと親和性のある動画配信サービスから生まれた新たなヒットの形という意味でも注目を集めている。
(ライター 今祥枝)
[日経エンタテインメント! 2018年7月号の記事を再構成]
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