ミレニアルが共感 男女共有フロアのカプセルホテル
東京・渋谷に宿泊施設「The Millennials Shibuya(ザ・ミレニアルズ シブヤ)」が、2018年3月15日開業した。特徴は、宿泊スペースに鍵がかからない「男女混合フロア」があることだ。
ミレニアルズは旅館業法においては「簡易宿所」に分類される。カプセルホテルと同じ位置づけになるが、6フロアある宿泊フロアのうち4フロアを「オールジェンダー」と名付け、男女問わず利用できるようにしている。一般的なカプセルホテルは安全面を理由に男女別のフロアにする施設が多いが、なぜこのような仕様にしたのだろうか。
男女混合グループやカップルから好評
男女混合フロアを設けた理由について、施設を運営するグローバルエージェンツ(東京都渋谷区)の担当者は「海外からの利用客は男女混合グループも多い。また、男女のカップルからも隣り合わせた宿泊スペースが使えると好評」と話す。現時点で7割が訪日客となっているという。安全面に配慮してフロア内に防犯カメラを設置しているが、気になる人は女性専用フロアを利用するといいだろう。
客室フロアはグレーを基調とした落ち着いた内装で、カプセルの代わりに独自に開発した宿泊スペース「スマートポッド」を導入している。スマートポッドは多機能型の宿泊ユニットで、天井高2.3メートル、床面積3平方メートルのスペースの中にセミダブルのベッドが備え付けられている。ベッドの下には大型のスーツケースも収容でき、ベッドをリクライニングさせると足元にスペースができるので立って着替えることも可能だ。スクリーンを下ろすと個室になり、「カプセルというよりはビジネスホテルからバス・トイレを取り除いたイメージ」(同社)だという。
スマートポッドの中に実際に入ってみた。天井が高いので圧迫感がなく、マットレスもほどよい反発感で座り心地がいい。ベッドの幅も広いので「狭くて眠れなかった」ということはなさそうだ。スマートポッドは完全な個室ではないので、モーニングコールやアラームなど音の出るものが使えない。そのため、あらかじめ起床時間をセットしておくと自動的にベッドの背もたれが起き上がることで起床をうながすという仕組みを採用しているが、これらの作業は全てチェックイン時に貸与されるiPodで操作できるという。
唯一気になったのはベッドの高さ。筆者は身長160センチ弱だが、5センチのヒールを履いていても「よじのぼる」という感じになり、腰かけるのに苦労した。
「ベッド下にスーツケースを収納できるようにしていること、リクライニング用の設備を入れたことで、ややベッドの位置が高くなってしまった。今後は改善も検討している」と同社の山崎剛社長は説明する。ただ、男性、特に欧米からの旅行客などで身長がある人にとってはむしろ使いやすい高さであるといえるだろう。
5階のフロアにはスマートポッド内部に20人のイラストレーターやアーティストが装飾を施した「アートポッド」が設置されている。このフロアもオールジェンダーだが、カラフルでポップなイラストが多いので女性受けがよさそうだ。
ミレニアルズのさらなる特徴は、その名前の通り「ミレニアル世代」をターゲットとしている点だ。ミレニアル世代については諸説あるが、同社は1980~2000年に生まれた人と定義としている。山崎剛社長は「ミレニアル世代は全世界の人口の約3分の1を占め、労働、消費の中心でもある」と話す。また、山崎社長も含め、ミレニアルズに関わる全てのスタッフがこの世代で構成されていることから「ミレニアル世代によるミレニアル世代のための施設」であると訴える。
この世代の特徴について、山崎社長は「所有とシェアを合理的に判断して使い分け、身軽さや自由を求める人が多い。テクノロジーを駆使して情報を取り入れ、『旅が特別なものではない』と考えている。また、多様な価値観も受け入れやすいのが特徴」と分析する。室内に眠る場所以外の余計な場所はいらないという考えからベッド中心のスマートポッドを開発し、キッチンやコワーキングスペースなどの共用部を充実させたという。
「合理的で自由で多様性があるという3つのキーワードを施設のコンセプトとしたが、これは社長である自分が大事にしたいと考えているもの。自分がたまたまミレニアル世代であり、周囲の同世代に同じような価値観を持つ人が多いと感じている」と山崎社長。一方で、このキーワードを重視するのはミレニアル世代とは限らないとも考えているという。「一つ上の世代である40歳前後の人たちにも同様の価値観を持つ人は増えている。今後はさらに幅広い層にも浸透していくのでないだろうか」と山崎社長は話してくれた。
(ライター 樋口可奈子)
[日経トレンディネット 2018年3月16日付の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。