災害想定のマネー計画 保険や貯蓄、どこまで備える
いまさら聞けない大人のマネーレッスン
東日本大震災の発生から7年。ご存じの通り、日本は自然災害の多い国です。災害に遭って住宅や家財を失うと、再建のためのお金が必要になります。今回は災害時の公的支援や措置、損害保険の考え方、いざというときのお金の備えについて紹介します。
住宅が被害を受けたら、公的支援を受けられる可能性
自然災害(注)によって住んでいる建物が大きな被害を受けたときは、「被災者生活再建支援制度」が利用できます。
市区町村なら10世帯以上、都道府県では100世帯以上の住宅が全壊するなど、地域全体の被害が一定を超えるとこの制度が適用されます。
2017年は福岡県や大分県、秋田県での豪雨や大雨による災害など、16年には熊本地震や鳥取県中部地震などが被災者生活再建支援制度の対象となりました。
支援金は2種類。被害の程度に応じて支給される「基礎支援金」、家を再建する場合に支給される「加算支援金」があります。
被災者生活再建支援制度は、持ち家だけが対象になると勘違いしている人も多いのですが、賃貸住宅も対象となります。
申請には、自治体が交付する「り災証明書」が必要となります。申請期限は「基礎支援金」が災害発生日から13カ月、加算支援金は災害発生日から37カ月です。
この「り災証明書」の発行のとき、建物が「全壊」「大規模半壊」「半壊」「一部損壊」の4段階の区分のどの状態にあるか、判断されます。「半壊」「一部損壊」と認定された場合は、この支援金は支給されません。被害を受けたがそれほど大きくはなかった人の救済方法について議論が残っています。
(注)自然災害には「暴風」「豪雨」「洪水」「豪雪」「高潮」「地震」「津波」「噴火」の8つが該当します。
賃貸住まいは「家財」に保険をかけるべき?
次に、火災保険や地震保険について見てみましょう。
賃貸であれば、建物の修理や建て替えの費用は貸主が負担します。「家主から修理費用を請求された」という例もあるようですが、原則として、借りている側が払う必要はありません。よって、賃貸の場合は「建物」ではなく「家財」に損害保険をかけることになります。
家財とは、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、ベッドや棚などの家電や家具、および服飾品など、生活する際に必要な財産のことです。自動車や30万円以上の貴金属、美術品などは対象外となります(保険商品によっては特約を付けて補償対象とすることも可能)。
「家具はあまり持っていない」という人や、買い替える予算が確保できている人は家財に対して保険をかけなくてもよいかもしれませんね。月々支払う保険料と補償内容のバランスを考えることが大切です。
持ち家の地震保険加入、ローン残額や預貯金残高で判断
持ち家や分譲マンションの場合は、自分で修理費用や建て替え費用を出さなくてはなりません。
火災保険には加入している、という人も多いと思います。火災保険は、火災やガス爆発などはもちろん、「落雷」「風災」「水災」などの自然災害も補償されるものがほとんどです。ただ「地震・噴火またはこれらによる津波」による損害は補償の対象から外れるため、地震に備えるには「地震保険」に加入する必要があります。地震保険は単独では加入できず、火災保険とセットで契約します。
火災保険はそれぞれ補償内容や保険料が違いますが、地震保険の補償はどれも同じです(保険料は地域ごとに定められています)。地震保険で受け取れる保険金は、火災保険の保険金の30~50%に上限額が定められているなど、被害の全額が補償されるわけではないことに注意しましょう。被害が大規模になる可能性が高い地震災害では保険の商品設計が難しいからです。
地震保険に加入するかどうかは、人それぞれの資産状況や環境、価値観によって考え方が異なると思います。家を買って間もない人は住宅ローンの残債が多く、頭金などで預貯金も少なくなっているケースが多いため、加入したほうがよいかもしれません。一方で、住宅ローンの残債がわずかになっている人や、保険金以上の預貯金がある人は加入の必要性は低いといえます。現在の預貯金額、月々支払う保険料と補償内容のバランスを考えて、加入を検討しましょう。
地震保険に加入する場合、長期の契約にすると割引が受けられます。1年契約と比べ、2年契約では1年当たりの保険料が5%、5年契約では11%安くなります。
現在、地震保険の保険料は地震のリスクが高まっているとして引き上げが行われています。まだ正式には決まっていませんが、19年中にも2回目の引き上げが行われる予定です。
いざというときの支援制度は他にも
その他にも、勤め先が被災して給料が出なくなったときは雇用保険から失業給付が出るなど、自然災害に備えた支援制度はいろいろあります。
状況によっては社会保険料・住民税・固定資産税の納付が延期または免除されたり、健康保険や介護保険などの社会保険料についても、自己負担額の減免や支払い猶予が認められることがあります。どんな支援があるのか正確に覚えておく必要はありませんが、いざというときにこうした制度があると知っていると、不安が少なくなるかもしれません。
生活費6カ月分以上の現預金を用意
被災すると、避難時の食事や衣類などの生活費、交通費、宿泊費用が必要になることが考えられます。生活を立て直すまでの間、普段より出費が増えるかもしれません。そこで、いざというときのお金を現金か預貯金で用意しておくことをおすすめします。資産運用をしている人は、運用資金とは別に用意します。
ちなみに東日本大震災の際は、発生直後の数日間、日経平均株価は大きく下落しました。しかし一時的に株価が下がったとしても、その後は上昇することがほとんどです。有価証券等の資産は非常時にも売却せずに保有し続けたいところです。
では、いざというときのためにどの程度の金額を用意しておけば安心でしょうか。これは人それぞれの事情によりますが、おおむね生活費の6カ月~1年分を目安にするとよいでしょう。
もちろん余裕があれば1年分以上の現金・預貯金があるとより安心です。これからためる人はまず6カ月分を確保することから始めて、徐々に増やしていきましょう。いざというときのお金は災害時だけでなく、病気やケガで働けなくなったなどの不測の事態にも役立ちます。
東日本大震災のときには、通帳や印鑑、キャッシュカードがなくても、本人確認ができれば預金の払い戻しができる特別措置が取られました。また、最初の地震発生の翌日(3月12日)は土曜日でしたが、翌々日の日曜日も含めて臨時営業が行われています。避難する際に多額の現金を持ち歩くのは危険ですので、1週間程度の生活費を現金で、残りは預貯金で保管しておくとよいでしょう。
・住んでいる建物が被害を受けたら、公的な支援を受けられる場合がある。賃貸でもOK
・地震保険は単独では加入できない。保険金は火災保険の30~50%が上限
・地震保険料は長期契約すると割引がある
・運用資産とは別にいざというときのお金を用意しておこう
・いざというときの備えの目安は、現金か預貯金で生活費の6カ月分
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。社会保障審議会企業年金部会委員。確定拠出年金の運用に関する専門委員会委員。経済エッセイストとして活動。近著に「ズボラな人のための確定拠出年金入門」(プレジデント社)、「定年男子定年女子」(日経BP社)、「5年後ではもう遅い! 45歳からのお金を作るコツ」(ビジネス社)など。
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