じんじん巡る、感動の炭酸泉 東西の「横綱」温泉地
キレイになれる温泉の秘密
「炭酸」といえば、ぷちぷちと泡がはじけるサイダーを思い出します。炭酸ガス(二酸化炭素ガス)は毛細血管を拡張し、血液の循環がよくなるということで健康や美容の面でも注目されています。近年は入浴剤や化粧品、ヘアエステなどにも取り入れられ、都心の入浴施設やスポーツクラブなどでも人工炭酸泉のお風呂があるかどうかが人気のバロメーターになっているとさえいわれるほどです。
この二酸化炭素ガスは地球の中にもあります。日本にも、二酸化炭素ガスの泡を肌で感じられる感動の天然温泉があります。
日本屈指の炭酸泉(二酸化炭素ガスを含有する温泉)といえば九州・大分県の長湯温泉や七里田(しちりだ)温泉が有名ですが、それと並ぶほどのすばらしい炭酸泉に冬の奥会津で出合いました。しかも2種類も! というわけで今回は、日本の炭酸泉の中でも西の横綱・東の横綱と名付けたい2つの温泉地を紹介します。
すごい炭酸温泉が2つ楽しめる福島県金山町
会津若松駅からJR只見線に乗って福島県・奥会津へ。只見線はメディアで「雪景色のきれいなローカル線」に選ばれたり、中国のSNS(交流サイト)である微博(ウェイボー)で「世界で最もロマンチックな鉄道」として取り上げられたりしています。車窓からの景色をうっとり眺めたり、写真を撮ったりしているうちに会津川口駅に到着。この駅がある「金山町」に、すごい炭酸泉が出たと評判の温泉があるのです。
一つは、2016年9月オープンの日帰り温泉施設「温泉保養施設・せせらぎ荘」。町外の人も500円で入れる町の温泉です。
この地区には古くから玉梨温泉があり、この施設や共同浴場などで入浴ができるのですが、施設のリニューアル計画が持ち上がったときに、それまで使っていなかったもう一つの源泉「大黒湯」を調べてみたところ、大変すばらしい炭酸温泉であることが分かり、別々の湯船で2種類の源泉の入り比べができる施設にしようということになりました。
しかもその大黒湯源泉が、工事計画時から少しずつ温度が上がり、雪の季節でも39度を超える湯温に。それでも、湯船に入ると瞬時に全身の肌に炭酸ガスの泡がびっしりとついてくるという、感動体験ができる温泉が誕生したのです。
これは100%源泉かけ流しというだけでなく、こだわり抜いた設計のたまもの。せせらぎ荘の湯船の写真の中で、右の小さめの浴槽が大黒湯源泉です。泉質は含二酸化炭素-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物・硫酸塩泉。分析書を見ると、二酸化炭素ガス(炭酸ガス)を1121ミリグラム含有。1000ミリグラムを超える炭酸ガスを含有していると炭酸泉(二酸化炭素泉)という泉質名がつきます。たっぷり含まれる炭酸ガスによって起こる現象=「肌に泡つぶがびっしりとつく」を味わってもらうために、上からかけ流す湯口を設けず、湯船の下の方から源泉を注ぎ込み、空気に触れずに新鮮な温泉が供給されるように工夫しています。
向かって左の大きい浴槽は玉梨温泉。こちらは45度ほどの源泉温度があり、泉質はナトリウム-炭酸水素塩・塩化物・硫酸塩泉。二酸化炭素泉と呼べる量には満たないのですが、こちらも実は炭酸ガスを436ミリグラム含有しています。炭酸ガスは250ミリグラムあれば、それだけで温泉として認められる数値ですから、こちらも肌つやつや&しっかり温まるありがたい温泉です。
そしてもう1本、復活した八町温泉もすごかった
もう一つのぷちぷち体験は、対岸にある温泉宿「玉梨温泉 恵比寿屋」の中。
恵比寿屋では、男女別の大浴場は玉梨温泉の湯が楽しめるのですが、貸し切り温泉には2つの浴槽があり、玉梨温泉の他に八町温泉(亀の湯源泉)が単独で注がれています。この八町温泉の源泉は2015年の豪雨被害で湯量が減ってしまいましたが、再掘削して2017年に復活。すると、38度ほどの適温でありながら、こちらも入ると全身に炭酸の泡がびっしり。
温泉分析書の数字では二酸化炭素ガスは797.8ミリグラムですから二酸化炭素泉という泉質名はついていませんが、全身を泡に包まれ、血行が促進されてじんじんと温まります。血の巡りは美と健康にとって欠かせない要素。つやつや美肌も元気な体も血の巡りがスムーズでなければ手に入りません。
ほんの徒歩3分ほどの距離で2種類の泡つき温泉に入れるなんて、まさに横綱級の炭酸温泉の里を見つけてしまいました。
西の横綱・七里田温泉と長湯温泉
大分県竹田市にも横綱級の炭酸温泉があります。一つは七里田温泉の共同浴場「下ん湯(したんゆ)」。数人で満員になってしまうほどの小さな湯船ですが、この下から大量に注ぎ込まれる新鮮な源泉がパワフル。入ると大きな泡が肌いっぱいについてきます。36度ほどのぬる湯ですが、すぐにぽかぽかと温まってきます。もう一つは、七里田温泉から車で10分ほどの長湯温泉にある「ラムネ温泉館」。温泉街に流れる芹川のほとりに、美術館のようなアートな建物が見えてきます。
建築家・藤森照信氏が設計した、焼杉と銅板が印象的な建物。内湯は42度のあたたかい炭酸水素塩泉。そして、露天風呂が二酸化炭素泉のラムネ温泉です。
源泉温度は33度ほどですから入るときは少し冷たいと感じますが、じっと動かずに数分すると炭酸ガスの泡に包まれ、汗がじんわりとにじんできます。温泉が少し褐色なので、ラムネというよりシャンパンに入っている気分。ちょっと優雅な炭酸温泉です。
長湯温泉はロングステイ向きの宿もそろっています。「B・B・C長湯」はミニキッチンや書斎がある一軒家スタイルで、泊数が増えるとお得に泊まれる料金システムなのもうれしい。温泉に暮らす気分で滞在できます。
温泉ビューティ研究家・トラベルジャーナリスト。日本の温泉・世界の温泉や大自然を旅して写真撮影・執筆をする旅行作家。テレビにも出演。海外ブランドのマーケティング・広報の経験から温泉地の企画や研修もサポート。日本温泉気候物理医学会会員、日本温泉科学会会員、日本旅のペンクラブ会員、気候療法士(ドイツ)、温泉入浴指導員。
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